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46) ニトはリーファスと再会する

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 カスタル辺境伯の領地に皆を送り出して数時間経過。 
 俺は待ち合わせ場所のギルドへ向かった。

 ギルドの中は火の魔石を使っているのだろう暖かい。
 早春といえど外にはまだ雪が残っている。
 受付嬢がニコニコと俺を見ていて、俺は所作なく椅子に座っていた。

 暫くすると2階からユカ、トモ、リク、レン、タツキの5人が下りてきた。
 この5人は本当に仲がいい。いつも畑で一緒にいる。

 ユカ 「お待たせ~」と笑顔でご機嫌だ。

 トモ 「ギルド長にいろいろ聞かれてたの。余計な事は言ってないよ?」

「そっか、交渉はうまくいったんだね」 

 ユカ 「うん、希望価格で買い取ってもらえる。」

「良かったね。」

 満足のいく結果が出せたようだ。詳しい報告は戻って聞くことにする。

 リク 「ユウマ達遅いね。とっくに終わってるはずなのに。」

 勇者たち3人は、良い意味でスクールカースト上位の男子達だ。
 きっと日本の学校でも人気者だっただろう。

 その3人だが、今は冒険者クラスのテストを受けている。
 ここのギルドは実力主義でAクラス以上の冒険者が新人の腕前を見極めてクラスを決める。
 Aクラス以上でないと領の”カスタルダンジョン”には入れないのだ。



「お待たせしました。」
 ジューク達3人が地下のテスト部屋から上がってきた。

「お疲れ、クラスはどうだった?」

 ジューク 「実力不足でBクラスでした。残念です。」

 セイヤ 「勇者様相手にメッチャ頑張ったんだけどな。」

 ユウマ 「今日はリーファスさんが相手をしてくれたんだ。」

 ジューク 「後で稽古もつけてくれて、それで遅くなりました。」

「へぇ、勇者様が? 帰って詳しく話を聞かせてよ。」

 ジューク達もBクラスだったとはいえ、そんなに落ち込んではいない。
(ま、今日は無事に終わって良かったぜ。)
 俺は引率の教師気分だ。家に帰るまでが遠足・・・みたいな?


 俺は椅子から立ち上がり、ギルドの扉に足を向けると───

「これは驚いた。貴方に会えるなんて!」後ろからリーファスの声がした。
 皆リーファスに注目する。
(誰への発言だ?)

 リーファスはまっすぐ俺の所に来て握手を求めた。
(え、なんで?)

「私はリーファスと申します。貴方のお名前をお聞きしてもいいですか?」

「あ、え、僕はニトです!」

「ニト様ですか。いつぞやはお力添えを頂き有難うございました。」

「え? 僕、何かしましたか?」握手しながら記憶をさかのぼる。

「もしかして、秘密ですか? それはすみません。」

「イエ、ダイジョウブデス。」

 深く頭を下げて「では、失礼します。」リーファスは外へ出て行った。

 俺がキョトンとしていると『きっと爆弾のことですよ。』ジュークに耳打ちされ肝が冷えた。
「ドラゴンの時? えええ、まさか、見えてたの?」 

「僕たちは全然気が付かなかったけど、リーファスさんは動体視力が抜群にいいみたいです。」
「テオのチョーカーでも誤魔化されなかったのか。」
 バレては困るが俺はちょっと嬉しかった。

「外でログインしよう。」

 リーファス ──最初に冴えない男なんて思って申し訳なかったな。
 ドラゴンと戦っている時の彼は輝いていた。



         ***



 次の日、俺はユカたちが作ったワインをお土産にダニーを訪ねた。
 だいたい週末は家か酒場で飲んだくれているのだ。

 俺を見るなり「ニト! たまに顔出せよ!」と怒鳴った。

赫赫云々かくかくしかじか・・・・・ということがあったんだ。」
 ダニーはサラが来た日のことを簡単に話してくれた。

 やはりサラ達とは一度話し合わないといけない。

「で、お前本当に複製出来るのか?」
「シークレット。」
「おっと、鞭打ち100回はごめんだ。」

「しかしなんで戦乙女バトルメイデンは仲間外れなんだ?」
「彼女たちは自立してるからね。僕の助け必要ない。」

「そうか、サラの伝言は伝えたからな。俺の務めは終わった。」
 そう言ってダニーは土産のワインをぐいぐい飲みだした。
「うめぇ。こりゃ高級品だぜ。」

 ワインはユカ達の自信作だからな。




          ***



 夜遅い時間に<透明化>して俺はサラの宿まで来た。
 サラの部屋をノックすると「はい。」と返事があり俺はニトに<変貌>した。

 そっとドアが開いて「あ。」と言うなりサラは俺の腕を掴み部屋に連れ込んだ。
「ギザが、同じ宿なのよ。」小さな声で囁いた。

 寝ようとしていたのか白いパジャマ姿で、「ちょっと待ってね。」と急いで赤いカーディガンを羽織る姿が可愛くて、つい見惚れてしまった。
 サラはいつもは長い髪を後ろに結び、凛々しさ満載の戦乙女。
 今夜は髪を下ろして印象が違って俺はドキドキした。

 お子さまと思って無防備なのだろうけど、夜更けに男を連れ込んではイカンと言いたい。
 ギャップを狙ったのではない。俺はギザを警戒して夜更けを選んだのだ。
 ソファーに座らされて、サラはリンゴジュースを出してくれた。

 ────俺の隣に座ると一気に喋りだした。
「私ね、気になってあれからいろいろ調べたの。」
「うん。」
「師匠に手紙出して、ナナマガリ君たちの事も知ったの。」
「そっか。」
「タチバナ君達が行方不明だって事も分かったの。」
「・・・ふむ」
「ねぇ、ニト君が連れて行ったの? みんな無事なの? 他にもここに召喚された子がいるんじゃないの?」
「ちょっと落ち着いて。」

 サラはよっぽど俺に会いたかったらしく話が止まらない。
 真剣に同級生を心配している。
 なぜだか彼女もギザを警戒している。
(ギザ・・・悪知恵の働くヤツだ。もしかしたら・・・)

 レーダーを張り巡らせると部屋の中に異物発見。
 俺はソファーの隙間に挟んであった魔道具を引っ張り出した。
 (くそ、俺の警戒は無駄じゃないか! )

「ギザ、聞こえているなら今すぐ来い。こっちから行こうか?」
 (煩わしいヤツだぜ。今夜片をつけてやる!)

「は? 何?盗聴?? ギザ最低ーーーーーーーー!!!」

 そうだアイツは最低な野郎だ。サラにもボコられるといい。


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