7 / 10
7
しおりを挟む☆エリアス視点☆
婚約を解消してセアラと決別した。
それにしても、まさか私が剣の勝負に負けるなんて・・・セアラはどれほど訓練を積んできたんだろう。
黙って見逃すべきだったが最後に約束を一つ、セアラと剣の手合わせを叶えたかった。
手加減はしていた。
セアラの剣を弾き飛ばせば後は護衛の騎士達を相手に時間稼ぎをして、セアラとウォルフ卿を逃がすつもりだったのに。
去っていくセアラの姿が小さくなるまで見送っていると、やがて闇の中にその雄姿は溶けていった。
セアラが投げ捨てたサファイアのネックレス。
「ずっと身に着けていたのか」
夜会のデビュー時にも付けていた。
セアラをエスコート出来ず、アヴェルと踊るのを見ていた。いつかアヴェルに奪われる、そんな不安は絶えずあった。彼の愛情は本物だ。きっとセアラは幸せになる。
*
『エリアスを王配にしてあげる』
悪魔の囁きだった。
ユリエラ王女は血の繋がった兄と弟を亡き者にし、女王になろうとしていた。
運命が狂ったのは、王太子殿下に望まれて護衛騎士になったのが始まりだ。
あと数か月でセアラは女侯爵となりいよいよ婚姻の準備が始まる、なので断ろうとしたが実家の長兄からの命令もあってお受けすることとなった。
最初に与えられた仕事が女性の死体の始末だった。
『私に寵愛と薬を乞う女性達の姿が可愛いいのだよ』
恍惚とした表情を浮かべる王太子、私は忠誠を捧げる相手を違えたのに気付いた。
王太子は愛人達に狂薬を与えて快楽に溺れ、中毒症状が酷くなると命を奪っていたのだ。
実家の長兄に訴えたが『政治手腕に問題はない』と王太子を庇護した。
『家族や婚約者に被害が及ぶのが怖い』
陛下が倒れ王太子が実権を握っており、私を含め誰もが王太子を恐れて命令に背けなかった。
セアラの手紙だけが私の癒しとなった。だが私は返事が書けなかった。何を書けばいい? 汚い仕事に手を汚した私などが。
そんな時にユリエラ王女が私を護衛騎士にしたいと王太子殿下に強請ったのだ。
王太子からは王女の行動を監視するよう命令された。だがこれで王太子と距離が置けると安堵したのも束の間、ユリエラ王女は私に執着を始めた。
『エリアスを王配にしてあげる』
城に私の部屋を用意し常に身を束縛して、家には決して戻さなかった。セアラの悪評をバラ撒き、私を恋人だと言いふらした。セアラは傷ついたに違いない、すっかり手紙も途絶えてしまった。
一度だけ王女と配下の目を盗んでセアラに会いに行った。その時に渡したのがサファイアのネックレスだった。
『私を信じて欲しい』
頷くセアラを必ず妻にすると、この時はまだ決心していた。
だが、私が婚約者に会いに行ったと知った王女は怒り嫉妬し、狂薬を私に使用したのだ。
何度も薬を与えられて私の意識は泥沼に落ち、王女の飼い犬に成り下がった。
それからは王女と爛れた日々を過ごし、王女を憎みながらも狂った私は薬が無ければ生きていけない。
もうセアラとの結婚は絶望的になり婚約の解消を考えていると、夜会で王太子が美しく成長したセアラを見初めてしまった。
忌々しい事に『忠誠の証にセアラを捧げろ』と長兄と私に命令を下した。
王女はこれを機会に王太子を暗殺すると言い出す始末だ。
『邪魔なセアラに罪を被せるの。側妃を嫌がってお兄様を殺してしまうのよ。素敵な計画でしょう?』
(ふざけるな・・・・・)
私の思考が正常なうちに悪魔達からセアラを救わなければならない。
セアラに婚約解消を告げる日に、前もって〈セアラが危険な状態にある〉と書いた手紙をウエルデス侯爵夫人に渡すと、賢い夫人は私に協力してくれた。
セアラが国境を越えるまでの約1週間。夫人には婚約解消は拒否する姿勢で耐えてもらった。
そして今日、ウエルデス侯爵夫人によって貴族院に書類は届けられ、正式にセアラとの婚約は解消された。
今より私は腐敗した王家の粛清を始める。
「セアラに逃げられたですって!」
「ユリエラ、声が大きい。まだここだけの話だ」
「バネッサ~・・・計画の練り直しだわ」
王女の配下に黒髪の、セアラと身体つきの似ている侍女バネッサがいる。
ユリエラが最も信頼している女だ。私への狂薬もバネッサが示唆し調達したに違いない。
「ユリエラ様、こんなチャンスを逃す手はございません。セアラの替え玉で王太子を騙せば宜しいかと」
「上手くいくかしら?」
「私が替え玉になりましょう」
「なら、私が王太子に止めを刺す。貴方を女王にしてみせよう」
「貴方が王配よ。エリアス愛してるわ」
ユリエラは私を信じ切っていた。
薬で縛っておきながら何が王配だ、勘違いも甚だしい。
セアラとの婚約解消は済み、側妃になるよう説得したと王太子に伝えれば「今夜にでもセアラを呼ぶように」と私に命令した。
「王太子殿下、セアラには薬は決して使わないで下さい。私の大切な婚約者だったのですから」
「分かっている、大事にしてやるから心配するな。ユリエラの動きはどうだ?」
「私の婚約解消を喜んでいます」
「ははは、では私は馬鹿な妹に感謝されているのだな」
馬鹿なのは殿下だ。見下している妹に殺されようとしているのに。
翌日の夜に王太子殿下の寝室にバネッサを待機させた。殿下はベッドの傍で私に警護をしろと命じる。本当に愚かな男だ。
ベッドの上で背を向けて座るバネッサを「セアラ」と王太子が抱きしめるのを見て吐き気がした。
躊躇無く王太子の背後からバネッサごと剣で串刺しにする。
「がっ!」と二人は短い悲鳴を上げた。
「貴様がセアラの名を呼ぶな!」
驚愕した顔の王太子とバネッサの心臓を一刺し、息の根を止めた。
141
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。
石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。
ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。
騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。
ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。
力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。
騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる