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しおりを挟む誕生日の数日後にエリアス様が突然訪ねてきた。嬉しいけど疲れているのか顔色が悪いのが心配。
「先ぶれもなく申し訳ない」
「いいえ、お忙しいのでしょう? 来て下さって嬉しいです」
エリアス様は真っ赤な薔薇の花束を渡してくれた。
「有難うございます! 嬉しいです」
「セアラ・・・」
声にも元気がない。
「はい」
「これを渡したくて。既製品で申し訳ない」
リボンをかけた細長い小さな箱。
「ネックレスですか?」
「気に入ってくれると良いのだが」
開けると綺麗なサファイアのネックレスが入っていて「貸してごらん」エリアス様が私に付けてくれた。
「綺麗です、似合いますか?」
「ああ、よく似合っている。誕生日おめでとう」
「有難うございます」
髪にエリアス様の口づけが落とされて、私は感激で胸が震えた。
「セアラはこんな私に愛想が尽きただろう?」
「まさか! 私は今までもこれからもエリアス様が大好きです。お忙しいのは分かっています。これからもお手紙を出していいですか?」
「ずっと手紙を送ってくれていたのか?」
「はい、届いていませんでしたか? あの、お誕生日のお祝いもお贈りしたのですが・・・」
「受け取っていない。そうか・・・妨害した犯人は分かってる。セアラ、今後は私に何も送らないで欲しい」
「あ・・・出してもエリアス様には届かないのですね」
王女殿下が妨害している。
エリアス様が私から離れてしまわないかと不安で胸がいっぱいになる。そんな私に「私を信じてくれるだろうか?」とエリアス様は問い掛けた。
「・・・信じます」
「私だけを信じて噂は信じないで欲しい。私はセアラだけを想っている」
「私もです、エリアス様が大好きです」
エリアス様は私の手の甲にキスをして、優しい笑顔を見せてくれた。
きっと一生忘れられない美しい笑顔を。
「そうだ、剣の腕は上がった?」
「アヴェルに1割の勝率です」
「大したものだ。いつか手合わせしよう」
「約束ですよ。エリアス様」
短い時間だったが、今まで会えなかった時間を埋めるくらい嬉しい再会だった。
私達の仲は妨害されている。多分この屋敷の中にも。
アヴェルに話すと「怪しい人物は夫人と相談して解雇しよう。信頼できる使用人だけをセアラの傍に置く」と言って配慮してくれた。
それからもエリアス様とは会えなくて、私達の婚約解消が間近だと世間では噂されている。憂鬱になって友人達からのお茶の誘いにも参加できなくなった。
気晴らしにアヴェルが剣の相手をしてくれる。
「いつになったらエリアス様に手合わせして貰えるのかしら」
「それより夜会はどうするんだ? ダンスは大丈夫なんだろうな、足を踏むなよ?」
16歳の成人となった私に、初めて王宮の夜会への招待状が来ていた。
ギリギリまでエリアス様の連絡を待っていたがエスコートの申し出はなく、アヴェルにエスコートを頼んだ。
夜会の当日、王宮に向かう馬車に乗り込むなり、対席に座ったアヴェルは前かがみになって小声で話し出した。
「なぁセアラ、そろそろエリアス殿は諦めた方がよくないか?」
「どうして? 嫌だわ、私はエリアス様を信じてるもの」
「エリアス殿のいい噂は聞かないぞ?」
「知ってる。ユリエラ王女殿下との噂でしょう」
「セアラが悪者扱いされてるんだ。愛し合う二人を邪魔するお子様だとさ」
「エリアス様に婚約解消されたら諦めるわ」
「本当に?」
「でも私は信じてる!」
サファイアのネックレスにそっと触れる。
「エスコートされなくても、エリアス様はここにいるから」
「お前はブレないな・・・」
それっきりアヴェルは黙り込んでしまった。
王宮に到着し、夜会が始まると王妃様と王太子殿下のおられる壇上に私達はご挨拶に伺った。
少し離れた場所にユリエラ王女の姿があり、エリアス様がエスコートしている。泣きそうな私と目も合わせてくれない。
激務なのか、前にも増して彼の顔色が悪いのが気になる。
形式的な挨拶が終わると、王太子殿下に話しかけられた。
「ウェルデス侯爵令嬢、エリアスを束縛して申し訳ないな。ソアレス公爵令息とは初対面であるな」
殿下がアヴェルに目を向ける。
「はい、お目にかかれて光栄に存じます」
「ソアレス公爵令息には婚約者はいるのか?」
「いいえ、まだ決まっておりません」
「ふむ、我が国の第一王女はどうだろう?」
「私などには勿体ないお話ですが、お断りさせて頂きます」
「まぁそう言わず、一度考えてくれないか」
「国に戻って父と相談しませんと何とも・・・」
「ソアレス公爵令息は困っておられますね、もう下がって良いですよ」
王妃様が助け船を出してくれて私達はその場を離れた。
「アヴェル、王太子殿下の話は」
「厄介だな、俺もそろそろ国に戻った方が良さそうだ」
楽団が演奏を始めるとアヴェルに手を引かれて、ファーストダンスを踊った。
「アヴェル、国に帰るの?」
「もう俺がいなくても大丈夫だ。しっかりと夫人を支えるんだぞ」
「うん」
「セアラ、もし何かあったら俺を頼れ。逃げて来い、いいな?」
「逃げるって、どういう事?」
「まだ俺にも分からない。ただ王家は厄介だ。いずれお前はもっと深く巻き込まれるかもしれない」
私は黙って頷いた。
「ウェルデス侯爵令嬢、次は私のお相手を」
アヴェルとのダンスが終わると王太子殿下は私の返事を待たず、手を握った。
(強引だわ。殿下ではなくてエリアス様とダンスしたかったのに)
不満が顔に出てしまって殿下に「ふっ・・」と笑われてしまい、慌てて私も笑みを浮かべた。
「セアラ、次は私の宮に招待しよう」
殿下のねっとりした声はとても不快に感じた。
「光栄に・・・存じます」
殿下の意図が分からず声が震える。
「ふふ、可愛い人だ」
玩具を見つけた子供のように殿下は楽しそうに目を細め、私は背筋が冷たくなった。
王太子殿下とのダンスが終わると、私達は夜会を早々に切り上げた。
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