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しおりを挟む★ケイン視点★
ペリエド伯爵が息を引き取ったと連絡があった。
後継者も決まって、前伯爵夫婦は揃って不幸な事故で無くなったと世間でも認識され、伯爵家も否定はしていない。
男爵家はジゼルの父親が引退して長男と世代交代した。男爵は逮捕されたが多額の保釈金とカレンに和解金を払って釈放された。
『長男も冷酷な性格なので、父は一生監禁されるわね』とカレンは言った。
もう大丈夫だ、ジゼルはカレンとして生きていける。俺はそんな彼女を支えてやりたい。
以前は「カレン」と呼ぶと幼馴染との過去がチラついて嫌な気がしたが、彼女を「ジゼル」と呼んだ日から俺の中で彼女への気持ちが変化した。
ジゼル、いや、カレンが好きだ。この気持ちはセーラの時と似ている。同情から変化していくこの気持ちは果たして恋なんだろうか。
恋人に捨てられて落ち込んでいるセーラを励ましているうちにどんどん好きになって、プロポーズしたけど振られた。
僅かな間だったけど俺達は確かに恋人同士だった。セーラが幸せなら今は素直に祝福できる。
『早く告らないと俺がカレンちゃん貰っちゃうよ?』とザックは本気か揶揄っているのか分からない。
カレンと性格が正反対のジゼルに対して本気とは思えないが、あれから二人は仲がいい。ジゼルも笑顔が増えて楽しそうだ。
明日は三人揃って休日が取れた。今夜は仕事終わりに俺の家に集まって飲み会の予定だ。今頃はカレンが料理を用意してくれていると思うと胸が弾む。
「ケイン、俺は後から行くよ。高い酒を飲ませてやる」
仕事が終わるとザックと別れて、俺は急いでカレンの待つ自宅に急いだ。
家に到着すると鍵がかかっておらず「不用心だな」と言いながら中に入ると、部屋の中が散乱していた・・・なんでこれは・・・まさか男爵の仕業か?
床には血痕がこびりつき、鍋がひっくり返って料理がぶちまけられていた。
ガラスの破片が飛び散って、空の酒瓶で殴られて誰かが怪我をしたようだ。
(この血はカレンなのか!?)
俺は外に飛び出してカレンの行方を追った!
***
(頭が痛い・・・ここは?・・)
「気が付いた?愛人さん」
(誰?・・愛人?)
今日は・・・
ケインの家で料理していたら警備隊の人が来て・・・ケインの伝言を預かっていると言われて、ドアを開けたんだった・・・
開けた途端・・・男女三人が押し入ってきた。
『貴方は・・・』
『やっと見つけたわ!あんたのせいでクビになったのよ、花瓶も弁償させられたわ!』
そうだ・・・伯爵家から逃げる時に私が花瓶で殴ったメイドだ。
『貴方が私の世話を怠ったからでしょう!逆恨みだわ』
『そういう命令だったの!弱らせて毒を飲ませようとしたら、あんたは逃げちゃって散々叱られたわよ』
そうだったのか・・・死んだあの二人は同情する価値も無かった。逃げて本当に良かった。
『花瓶代、払ってもらうわよ、何倍も利子をつけてね!』
男達が迫って来る。私は台所まで逃げて・・・手を伸ばした男にシチューの入った鍋を投げつけたんだわ・・・シチューを浴びた男は大声で喚いて・・・逃げようとした私は後頭部に激痛があって・・・そうか、あのメイドに殴られたのか。
意識がハッキリしてきた。
やはり偽りの人生なんて神は認めないようだ。どうあっても、あのメイドに命を奪われる運命なのかもしれない。
「簡単に死なせないわよ。お金を払って貰わないとね。奴隷になって苦しめばいいわ。仲間が戻れば奴隷商に連れて行ってあげる」
体は縛られて動かない、頭がズキズキ痛んで吐き気がする。
(これでは逃げ出せない・・・ケイン・・たすけて・・)
「ゴフッ!」
嘔吐して喉が詰まって息が苦しい・・・奴隷になるなら死んだ方がマシだ、諦めて死を覚悟すると意識は遠くなっていった。
「カレン!」
気が付くと私はケインに起こされて背を叩かれていた。
「ゲフッ!」
口から吐物が出て、私は思いっきり息を吸い込んだ。
泣きそうな顔のケインに抱きかかえられると再び意識が遠くなっていった。
***
目が覚めるとセーラさんがいた。
「気分はどう? 出血が酷かったの、しばらくは安静にしてね」
「どうしてセーラさんが・・・」
「都合で医療班に移ったの、貴方が運ばれてきて驚いたわ。ケインはパニックになってるし」
「セーラさん、どうしてケインと別れたの?」
「ケインは私には勿体ない人・・・私の愛情はね、歪んでいるの。私を捨てた男が私に縋って『捨てないで』と泣くのが嬉しくてね、見捨てられなかった」
正直、恋愛未経験の私には分からない愛だ「余計なこと聞いてすみませんでした。治療して頂いて有難うございます」とお礼を言った。
「お大事に」と言ってセーラさんが出て行くと入れ替えにケインが入ってきた。
「カレン、間に合って良かった、本当に良かった」
「見つけてくれたのね」
「シチューを浴びた男が火傷の治療に向かうと思って、治療院を当たったんだ。直ぐに見つけたよ」
あの時は夢中で熱々のシチュー鍋を投げつけたんだった。ケインの好物がシチューで良かった。
「他に君を狙う悪党はいないか?先に捕まえて締め上げてやる」
「もう心当たりはないわ。殴ったメイドの事も忘れてたもの」
殴ったり火傷させたり、カレンに成り済ましたり、私も悪党だなと自嘲した。
花瓶代を請求すれば支払ったのに。欲張ったメイド達三人は鉱山送りになった。
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