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39 全ては元通り

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 私をミリアンに引き渡すとアーヴィング殿下はお父様と少し内緒話をして「ユナをもうしばらく預かって欲しい。ユナ、すぐに迎えに来るからね」
 そう告げて慌ただしく城に戻って行った。

「何の話だったんですか?」
 ミリアンが訪ねてもお父様は黙って首を振った。

 気になりますが、さてさて私はバレンシアと再会した。
 彼女は怯えたように「ごめんなさい」を泣いて繰り返す。

 ミリアンには私の偽物だと直ぐに見破られたと聞いて、ちょっと溜飲が下がった。
 泣いて謝られても、許せない。

 ミリアンの後ろに隠れ、ミリアンもバレンシアを庇っている。その姿にちょっぴり傷つく。

「僕だって許した訳じゃないですよ。ただこの子は幼い子供と変わり無いみたいで」
 だから大目に見ろと言うのか、ミリアンは相変わらず優しくて甘い。

「ユナ、その姿は偽りでしょう?早く元の姿に戻りませんか?」

 私だって早く元の姿に戻りたい、戻りたいけど────

「あの時と同じ方法でいいのかな?バレンシアこっちに来てくれる?」

 私達が手を合わせると二人の体が重なり私はバレンシアを通り抜けた。

「ほぉ・・」
「別人ですね・・・」

 魔法は解けた。鏡を見ると見慣れたバレンシアでは無く、加賀美由奈でもない。
 日本人の面影はあった。黒い髪に・・・茶色と金色の瞳、バレンシアとはまた違う美しさがある。

「でも目が、・・・オッドアイは私だったの?」

「いいえ、私の左目が金色だったの、でも今は消えているわ。もう私は忌み子じゃないのね!」
 バレンシアが手をたたいて喜んでいる。


「ふぁあ~、バレンシアは女神の祝福が消えたのね。魔女に加担したんだもの仕方ないわね」
 欠伸しながらミリアンによく似たゴージャスな美女が階段を下りてきた。

「ユナ、紹介するよ。僕の母さんのオフィーリアだよ」
 ミリアンのお母様?私がいない間にいろいろあったようだ。

 オフィーリア様が私の瞳を覗き込んで「おめでとう」と言った。

 女神の祝福が私に移ったの?なんでだろう?

「でも・・・神様有難う。今世は美人だ」
「当たり前でしょう、妖精は美女って相場が決まっているのよ」

「オフィーリア様、私は妖精の記憶が無いんです。どうしてこうなったのか分からなくて」

「ふーん、女神様に聞けばいいわ。祝福も頂いたんだし、春の妖精の国に里帰りしましょうか」

 女神様に会える。オフィーリア様と一緒に妖精の国に戻ることにした。

「すぐに帰ってきますよね?」
 不安そうなミリアンに「2~3日は戻れないわ。あっちとは時間の流れが違うから」と言って私を外に連れ出し、庭に咲く赤い薔薇の花に手を翳すと私達は花の中に吸い込まれていった。

「赤い花が妖精国の入口ってのも忘れてるのね?」
「全然記憶が無いんです」


 花が咲き誇る妖精の国に戻ると白い神殿の中に、女神フローリス様は私達を迎えてくれた。

「ご苦労様でしたユナリス。予想外の出来事も多くありましたが、魔女から妖精を救ってくれてありがとう」

「勿体ないお言葉です。私はユナリスという名前なのですね。それであの・・・」

「ユナリスの記憶を戻しましょう」
 女神様がそう言うと、ここで暮らしていた記憶が蘇ってきた。



「私は・・・そうだ春祭りの日に王都に行ったんだ!」

 そして、広場で踊るルナシアとアーヴィング殿下を見かけたんだった。

「一目惚れだった。殿下と踊りたいと思って、でも警護が厳しくて殿下に近づけなかった。妖精の国に戻って女神様に『どうすればアーヴィング殿下に愛されますか?』と質問したんだわ」

 すると『バレンシアを救ってあげて欲しい』と女神様にお願いされた。

 バレンシアは前世で善行を重ねた女性だった。
 生まれ変わって幸福になる筈だったのに、輪廻の神様は転生先を誤ったのだと言う。

『バレンシアなんてどうでもいいです。私はアーヴィング殿下に会いたいの』

 気まぐれな妖精の私はそう答えた。

『バレンシアを幸福に導けば、愛の神アンテローシュに、貴方とアーヴィングの運命の糸を結ぶように頼んであげましょう』

『それならやります!なんでもやります!』



 そして気が付くと妖精の記憶が消えて、生真面目な前世の加賀美由奈の記憶が蘇り、屋根裏部屋での出来事は起こった。

 私のスキルは【変貌】と【鏡の中への出入り】
 チートなバレンシアのスキルが【スキルの移行】

 バレンシアは鏡越しだったせいで私の能力を半分だけ奪い取った。それで日中は自由に鏡を出入り出来るようになり、お陰で私にもスキルは半分残されたのだ。全部奪われていたらどうなった事やら。

 互いの魔法は解除され私のスキルは元に戻り、バレンシアは女神の加護を失いチートスキルは消えてしまった。


「ユナリスの気まぐれな性格では上手くいくと思えなかった。それで前世の記憶に頼りました」

「ということは、殿下は私と無理やり運命の糸を結ばされたの?」

「ああ、まだ結んでいませんよ?貴方がここに戻ったらアンテローシュにお願いしようと思ったの」

「はぁあ良かった!」

「どうかしら。まだ結ばれていないから他者からの糸がアーヴィングに忍び寄っています」

 女神様の不吉な言葉に「アンテローシュ様に早く結んでもらって下さい!」と私は叫んだのだった。



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