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34 私が本物
しおりを挟む「ここだ!この店だ。ボスがピーコを取り返しに来るかもね」
現実で何が起こっているか分からない、いつだって夜の鏡の中は静かだ。
魔女の店の中は記憶のままだった。
ネーロが順番に鳥籠のカギを開錠すると、次々に蓋を開けていった。
ワンコもネーロも籠に吸い込まれなかった。
最初に魔女に捕まった時に光った魔法陣が関係しているんだろう。
カラスがいる黒い籠はパス。
暫くすると信じられない光景を目にした。
魔女の店の中が荒れだしたのだ。鳥籠は吹き飛んで壊れ、店のガラスもすべて割れていく。
生物は私達以外存在しないのに物がある。それが勝手に動いている。不思議な光景だ。
風が吹き荒れ立っていられない、こんなの初めての経験だった。
「外に出よう!」
二人で慌てて逃げ出した。
「あれって魔女がやったの?妖精?まさかボス達が暴れてる?」
凄まじい魔力だった。
確認しようと少し離れた位置からコンパクトミラーを使って現実に戻った。
大きな竜巻が巻き起こり、魔女の店は上空に舞い上がり、ドーンッ!と落ちて地面を揺らした。
それを裏ギルドの一味や近所の人たちが唖然と見ている。
魔女の店は周囲を巻き込んで瓦礫の山になってしまった。
出来るのはここまでだ。ネーロが待っている、戻ろうとするといきなり髪の毛を後ろから掴まれた。
「痛ッ!」
「おい、ヤツはどこだ!」
カラス王子、生きてたのか。髪を掴むのマジで腹立つ!
「その辺の影に潜んでます」
「どこだ、アイツだけは殺さないと俺は戻れないんだよ!」
私の首に腕を回し、カラス王子は辺りを見回している。ネーロは鏡の中だ。
落ち着いて対処すれば怖くない。ミリアンに訓練を受けているんだもの。
カラス王子の足のすねを踵で蹴って、肘で横腹を思いっきり殴ってやると、あっけなくカラス王子は蹲った。
魔法で倒してやる!
「ファイアーフレイム!」
こいつが炎に弱いのはわかってる。
「き・・貴様!殺す!」
「きゃぁあ!フレイムボム!」
「殺す・・・」
カラス王子は立ち上がって黒い魔力を捏ねる、これはカオスサークルと言う闇魔法で、超強力だが作り出すのに時間がかかるとネーロは言っていた。
私の力では、まだヤツを倒しきれないみたいだ、逃げよう!
コンパクトミラーを出すと、背後から「セイクレッドフレア!」「フレア!」と聞こえ、目の前を閃光が走った。カラス王子は白い炎に包まれ「ぐぎゃぁああああ、!!!」と叫んで倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「シア! 大丈夫か!」「ピーコさん!」
「へぁ?殿下・・・」
アーヴィング殿下と鳥籠を抱えたワンコさんが並んでこちらに向かっていた。
なんで? どういうこと?
「シア、怪我はないか?」
「はい。ワンコさんその男を籠の中に入れて!」
カラス王子に籠の入り口を押し付けるとスーーッと中に吸い込まれていった。
「まだ生きてるな、魔族ですよね?」
「うん、しつこく狙ってくるカラス王子、ボスにあげる」
「ボスは喜ばないと思うけど・・・あ、お二人とも隠れて下さい」
殿下に腰を引かれて建物の影に隠れるとボスたちがやって来た。
「何だったんだありゃ? ワンコ、ピーコは見つかったか?」
「いえ、カラスを見つけました」
「そんなのいらねーんだよ!捨てろ!」
「ボス、ピーコちゃんはもう飛んで逃げちまったんじゃ?」
「ピーコ・・・・くっそ!ババァめ!次に会ったら始末してやる!」
危険な魔女は逃げてしまったのか。
「騎士達に見つかるとヤバイ、ズラかるぞ!」
カラス王子の入った鳥籠を捨ててワンコさんとボス達は逃げて行き、瓦礫になった場所に大勢の騎士や警備隊が集まっている。
「シア、私達もここから離れよう」
「はい、ちょっと待って下さいね」
カラスの籠を拾った私を、殿下は抱えてフワリと空に浮き上がった。
「ひゃぁ・・・で、殿下どうしてここに?」
「シアが行方不明になって探していたに決まってるだろう。心配したんだよ」
「どうして、だってバレンシアが、・・・本物が戻ったのに」
「私にとっては君が本物だ。名前を、これからはなんと呼べばいい?」
「私が本物?・・・ユナって呼んで下さい」
「ユナ、君は私の番に違いないのにどこか違和感があった。謎が解けたよ、その姿は偽りだったんだね」
「はい、私は自分の姿を知らないんです。こんなに可愛くないかもしれませんよ?」
「関係ないよ、早く元の姿に戻って欲しい」
殿下は獣人国の城に向かって飛んでいた。
とってもロマンチックで夢のような光景なのにグゥゥゥウ・・・とお腹が鳴って、死にたくなった。
「直ぐに食べるものを用意しよう」
「お願いします・・・」
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