30 / 42
30 裏切者
しおりを挟む「ああ、これでミリアンと暮らせるのね。優しいお兄さまとお父様。学校では素敵な仲間のサイラスにロアン。アーヴィング殿下はルナシアに譲ってあげるわ。私はミリアンとずっと一緒に暮らすの」
「私の偽物だって直ぐにバレるわよ。それよりも私と一緒に行こうよ。そうすれば仲良くなって皆、貴方を受け入れてくれるわ」
「嫌よ!ルナシアみたいに、妖精さんだけ大切にされるんだわ。私は私だけを愛して欲しいの。大丈夫よ、シアの様子はずっと見ていたから上手にマネが出来るわ」
「他人のマネなんかしても虚しいだけよ!」
「貴方は私の成り代わりだったのよ?もう契約は終了よ、ご苦労様でした」
全て奪われる。私が努力して築いたものを全てバレンシアに奪われる。
「お願いよバレンシア!ここから出して!」
「それはダメだね、やっと手に入れた可愛い妖精だ」
冗談じゃない!魔女のペットなんて気持ち悪い。
私とバレンシアの服も交換させられた。
「殿下のネックレスも渡してもらうわ」
「これだけは嫌よ!」
「仕方ないわね、紛失した事にするわ。さようなら妖精さん、ミリアンが待ってるから行くわね!」
「待ってぇえーーーーーーバレンシアの恩知らず!裏切りもの!」
金網にしがみ付いて叫んだ。────酷い、悔しい!
四角の鳥籠の中はドールハウスのようだ。ベッドにトイレ、ソファーに机、バスタブもある。
どうにかして逃げ出せないか、ソファーに座って魔女に話しかけた。
「魔女のお婆さん、私はもう元の大きさに戻れないの?」
「いや、そこから出れば元通りだよ」
「バレンシアはここに戻ってくる?」
「もうあの小娘には用はないね」
「でもこのままだと私はずっとバレンシアの成り代わりよね」
「珍しい目だからそのままでいいさ。妖精には変わりないからね」
「バレンシアとどんな取引をしたの?教えて」
「ああいいとも。可愛い妖精シアの頼みなら」
魔女は椅子に腰かけるとゆっくりと話し出した。
バレンシアは当てもなく鏡のトンネルを使い魔女を探し始めた。
長い時間を経て見つけ出し、最初は『ヘレン叔母様をを消して欲しいの!妖精さんを助けてあげて、私の代わりに虐められているの!』と頼んだそうだ。
話を聞いた魔女はバレンシアに【覗き見の鏡】を渡した。
そこに映ったのは既にヘレンを排除し、オーハン先生の塔で暮らしている私の姿。
やがてオーハン先生の養女となり、家族3人で幸せに暮らす私をバレンシアは羨ましく思うようになった。
魔女は妖精を、バレンシアは私が持つ全てが欲しくなり、お互いを利用して手に入れる取引をした。
「毎日食い入るようにシアの生活を見つめていたよ。もし交代しなければ全て自分の物だった、と」
「私だって、ただ幸福だったわけじゃない。ヘレンの苛めは辛かったし、学校でも嫌な目にあった。勉強も魔法の訓練も頑張ったのに。バレンシアは大丈夫なの?マネできると言ってたけど、ここで努力していたの?」
「さぁね。アタシも魔法の練習は手伝ってやった」
あの日私とバレンシアは鏡越しに出会った。屋根裏部屋の鏡は【妖精の潜む鏡】だったのだ。
鈍い私は魔女の存在に一向に気付かなかった。悔しくも今日気づいたばっかりに魔女に囚われてしまった。
「私が魔女の店に来なかったらどうしたの?」
「バレンシアはいずれ訪れると信じていたね。それまで熱心にシアを観察していたよ」
「会いに来て欲しかった。話し合えば、仲良くなれたと思うのに」
「押し付けた罪悪感もあっただろうね。最後には好きな男が出来て欲が出た。まぁアタシもいつまでも待つ気は無かった。魔女の存在を知らせて、そのうち捕まえるつもりだったさ」
「冷遇されてきたから優しいミリアンに惹かれたのね、もしかして寮の脅迫文はお婆さんの仕業?」
「ひっひっひ、さぁね」
「きっとお父様とミリアンが助けに来てくれるわ」
「フン、お前さんを捕まえたから直ぐに他国に移る予定だ。見つけるのは不可能さ。ああ、夜が明けたね、すこし休むとしようか」
魔女の姿は奥へと消えた。籠の中で一切魔法は使えない、一生鳥籠の中で暮らすなんて御免だ。
ミリアンとオーハン先生は塔で四人で暮らそうって言ってくれたのに。
ずっとバレンシアを幸せにしてあげたいと思っていたのに、彼女は私の不幸を願った。
全て奪って、アーヴィング殿下はルナシアに譲ると言った。許せない。
「アーヴィング殿下」
私はネックレスの指輪を握りしめて、助けが来るのを祈った。
10
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる