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27 誤解
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帰省すれば早速ミリアンは冷たいオレンジジュースとチーズケーキを出してくれる。
「チーズケーキ美味しい!・・・お父様は出張ですか?」
「いいえ、日帰りで知り合いの令息の家庭教師を。夏季休みは稼ぎ時ですからね」
「なるほど、あの、お金は大丈夫ですか?」
「全然大丈夫。師匠は道楽で無駄遣いするんです」
「道楽?」
「魔道具を集めるのが趣味で塔の5階はガラクタだらけです!師匠は全く整理整頓が出来なくて足の踏み場もないくらい────」
この後はミリアンの師匠の道楽に対する愚痴を聞いて、私はグレンの話をした。
「鏡の運搬はガラクタの中からマジックバッグを探そうと思っていました」
「バッグに大きな鏡が入るんですか」
「ええ、中は広いんですよ。いつハサウェイ公爵家に行くんです?」
「明日の朝です。公爵は一昨日から領地に向かったみたいで」
「では昼にお弁当を持って僕も向かいます」
「ここ留守になるけど良いの?」
「泥棒なんて入ったこと無いですよ」
目標の一つが達成できそうだ。大きな姿見鏡は5階で保存してもらえるよう父に頼んでみよう。
最近は私の前世の世界の話をミリアンは聞きたがって、話題に事欠かない。
夜更けまで二人でお喋りして寝た。
*
ハサウェイ公爵まで風に乗って飛んでいく。郵便局まで一晩中歩いたのが遠い昔のようだ。
門番に自己紹介すると離れ屋のカギを渡され、勝手に行っても良いと言われた。
離れ屋の中は綺麗に維持されており、ヘレンの部屋は客室に、私の部屋は片付けられて何も残っていない。
屋根裏部屋に戻って来た!
姿見鏡は変わらず同じ場所にあった。高さは150センチ、幅が50センチほど、綺麗な彫刻の木枠に鏡は埋め込まれ、壁に立て掛けられている。何度触れても反応はしない。
階段を上ってくる足音が聞こえ、ドアが開くとグレンが入ってきた。
「お早うございますグレン様、お邪魔しています」
「おはよう」
グレンは私の隣に立って姿見鏡に触れた。
「こんな鏡が欲しいなんて、他に欲しい者は無いのか?君の荷物はそこだ、持って帰ると良い」
部屋の隅に大きなトランクが置いてあった。
「有難うございます。他に欲しい物はありません」
「そうか・・・シア、今だけ少し話したい」
「なんでしょうか」
後ろに下がって少しグレンと距離を取るとグレンは姿見鏡に映った私に話しかけてきた。
「まずは公爵の事だ。父・・・は感情が欠落した人間だ」
「知っています」
「損得で考えて、自分の非は決して認めない。そして周囲には完璧を求める冷血漢だ。なので絶縁した君は幸福だ」
グレンの公爵に対する憎しみを感じる。
「それからルナシアの件は謝っておく。公爵とも相談してルナシアには魅了魔法封じのチョーカーを付けさせた」
「魅了は危険ですものね」
「それほど強力なモノでは無いんだ。ルナシアに惹かれても自分の意志を持って善悪はきちんと判断できる。現に私も殿下も魅了はされていない。でも今回ルナはその力を利用した」
「周知される前に、対策を立てて良かったですね」
「そうなんだが・・・」
「お話は終わりですか?」
グレンは振り返って私と向き合った。
「私とアーヴィング殿下は幼馴染で派閥を超えた親友だ。ルナシアは殿下を慕い、殿下もルナシアを可愛がってくれていた。私が後継者になれば二人を結ばせたいと思っていた。でも以前殿下が我が家に泊まりに来た時があった。その日から殿下は変わった」
「番を探し求めたのでしょう?側近だった貴方はバレンシアの名前を聞いて驚いたでしょうね」
「驚いたさ、殿下はハサウェイ公爵家の秘密を知って直ぐにバレンシアを見つけた。図書館で出会ったのは偶然ではない」
「それをルナシア様はご存じで?」
「まだ言えない、でも・・・」
グレンが口籠ると急にドアの向こうが騒がしくなった。階段下で揉めている声が聞こえる。グレンはドアを開けて「なんだ、どうした!」と叫ぶと「お兄様!」とルナシアの声が。
ルナシアは屋根裏部屋まで来て私を見つけるとグレンを押し除け、こっちに来ようとしたが、グレンはしっかりと彼女の腕を掴んでいる。
全身ピンク色でコーディネートされているルナシアの首に黒いチョーカー。あれで魅了を封じているんだろうか。
「こんな場所で何をしていたの?人目を忍んで、不潔です!」
確かに未婚の男女が二人っきりで話し合うには不適切な場所だった。
「誤解です」
「チーズケーキ美味しい!・・・お父様は出張ですか?」
「いいえ、日帰りで知り合いの令息の家庭教師を。夏季休みは稼ぎ時ですからね」
「なるほど、あの、お金は大丈夫ですか?」
「全然大丈夫。師匠は道楽で無駄遣いするんです」
「道楽?」
「魔道具を集めるのが趣味で塔の5階はガラクタだらけです!師匠は全く整理整頓が出来なくて足の踏み場もないくらい────」
この後はミリアンの師匠の道楽に対する愚痴を聞いて、私はグレンの話をした。
「鏡の運搬はガラクタの中からマジックバッグを探そうと思っていました」
「バッグに大きな鏡が入るんですか」
「ええ、中は広いんですよ。いつハサウェイ公爵家に行くんです?」
「明日の朝です。公爵は一昨日から領地に向かったみたいで」
「では昼にお弁当を持って僕も向かいます」
「ここ留守になるけど良いの?」
「泥棒なんて入ったこと無いですよ」
目標の一つが達成できそうだ。大きな姿見鏡は5階で保存してもらえるよう父に頼んでみよう。
最近は私の前世の世界の話をミリアンは聞きたがって、話題に事欠かない。
夜更けまで二人でお喋りして寝た。
*
ハサウェイ公爵まで風に乗って飛んでいく。郵便局まで一晩中歩いたのが遠い昔のようだ。
門番に自己紹介すると離れ屋のカギを渡され、勝手に行っても良いと言われた。
離れ屋の中は綺麗に維持されており、ヘレンの部屋は客室に、私の部屋は片付けられて何も残っていない。
屋根裏部屋に戻って来た!
姿見鏡は変わらず同じ場所にあった。高さは150センチ、幅が50センチほど、綺麗な彫刻の木枠に鏡は埋め込まれ、壁に立て掛けられている。何度触れても反応はしない。
階段を上ってくる足音が聞こえ、ドアが開くとグレンが入ってきた。
「お早うございますグレン様、お邪魔しています」
「おはよう」
グレンは私の隣に立って姿見鏡に触れた。
「こんな鏡が欲しいなんて、他に欲しい者は無いのか?君の荷物はそこだ、持って帰ると良い」
部屋の隅に大きなトランクが置いてあった。
「有難うございます。他に欲しい物はありません」
「そうか・・・シア、今だけ少し話したい」
「なんでしょうか」
後ろに下がって少しグレンと距離を取るとグレンは姿見鏡に映った私に話しかけてきた。
「まずは公爵の事だ。父・・・は感情が欠落した人間だ」
「知っています」
「損得で考えて、自分の非は決して認めない。そして周囲には完璧を求める冷血漢だ。なので絶縁した君は幸福だ」
グレンの公爵に対する憎しみを感じる。
「それからルナシアの件は謝っておく。公爵とも相談してルナシアには魅了魔法封じのチョーカーを付けさせた」
「魅了は危険ですものね」
「それほど強力なモノでは無いんだ。ルナシアに惹かれても自分の意志を持って善悪はきちんと判断できる。現に私も殿下も魅了はされていない。でも今回ルナはその力を利用した」
「周知される前に、対策を立てて良かったですね」
「そうなんだが・・・」
「お話は終わりですか?」
グレンは振り返って私と向き合った。
「私とアーヴィング殿下は幼馴染で派閥を超えた親友だ。ルナシアは殿下を慕い、殿下もルナシアを可愛がってくれていた。私が後継者になれば二人を結ばせたいと思っていた。でも以前殿下が我が家に泊まりに来た時があった。その日から殿下は変わった」
「番を探し求めたのでしょう?側近だった貴方はバレンシアの名前を聞いて驚いたでしょうね」
「驚いたさ、殿下はハサウェイ公爵家の秘密を知って直ぐにバレンシアを見つけた。図書館で出会ったのは偶然ではない」
「それをルナシア様はご存じで?」
「まだ言えない、でも・・・」
グレンが口籠ると急にドアの向こうが騒がしくなった。階段下で揉めている声が聞こえる。グレンはドアを開けて「なんだ、どうした!」と叫ぶと「お兄様!」とルナシアの声が。
ルナシアは屋根裏部屋まで来て私を見つけるとグレンを押し除け、こっちに来ようとしたが、グレンはしっかりと彼女の腕を掴んでいる。
全身ピンク色でコーディネートされているルナシアの首に黒いチョーカー。あれで魅了を封じているんだろうか。
「こんな場所で何をしていたの?人目を忍んで、不潔です!」
確かに未婚の男女が二人っきりで話し合うには不適切な場所だった。
「誤解です」
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