上 下
23 / 42

23 カラスの襲撃

しおりを挟む
 


「ギルドって、シアは冒険者になるつもりですか?」

 塔に戻り、明日はギルドに行くとミリアンに告げると歓迎されない返事。

「ギルドカードを作るだけです」
「危険な事はしないですよね?」

 絶対に危険な事はしないと約束してミリアンは許可してくれた。

「お父様は?また出張ですか」
「あ・・・ちょっと王宮に行ってます」
「王宮ですか」

「ところで学校で、殿下はシアを守ってくれましたか?」
「ええ、きちんと対処してくれて噂も嫌がらせも減りました」

 寮の食堂では時々『ブサイク眼鏡』と囁きが聞こえるが、実際ブス眼鏡着用だもの。
 眼鏡を外すわけにはいかない。外せば『忌み子』って言うに決まっている。

「なら良かった。でも共通語はしっかりマスターして下さいね」
「はい、大丈夫です」

     *


 翌日、王都の中心広場に行くとロアンが待ってて、サイラスとポールも直ぐにやって来た。
 ギルドの受付で手続き終えて私達は冒険者カードを手に入れた。

 それから初めて王都の外に出た。城壁に囲まれて女神フローリスの加護を受けたこの国の王都は平和で安全な場所だ。王都の外は街道となり郊外に続く。東西南北を屈強な辺境伯の騎士団に守られている。


「初心者用の安全なダンジョンに行ってみるか?」
 ロアンに誘われて近くのダンジョンに潜ってみた。

 1階がスライムだけの誰もいないダンジョンだった。

「本当に初心者用だね、魔法の練習でもしていこうか?」
 サイラスの提案で魔法の訓練がてらスライムを倒し、王都の街に戻ると私達は解散した。


 解散後、急いでスライムダンジョンに戻りネーロを召喚。
 王都の外に出られたのをネーロはとても驚いた。

「王都の外に出られるとは思わなかった。裏の世界でも王都の外には出られなかったんだ」
「私が召喚すれば王都から出られるのね。ネーロの魔法を見せて」

「僕は闇魔法」
 土を捏ねるようにネーロは影を自在に操れた。
 影は矢に形を変えてスライムにポスポスと刺さっていく。

「この魔法で私をガードしてくれてたのね」
「うん」

 黒い影に身を置けばネーロの姿は消えた。
「影に潜むこともできるんだ。他には?」

「今はこれだけ、前は王都を消滅出来る力があった」
「なんで王都を狙ったの?」

「お父さんに名前を返してもらうため」
「フールじゃないの?何て名前だったの?」
「忘れた」

 ネーロは都合が悪いと何でも忘れるのだ。
 お父さんを怒らせて名前をフールに変更された。そこまでは分かった。

「なんでお父さんは怒ったの?」

「倒せると思った。挑んだら半殺しにされた」

 魔王に挑んだのか、うわぁ・・・フールだな。
 でも結構な実力者だったようだ。女神に封印されて良かったのか?

「そっか、魔法も見せてもらったし、帰ろうか」

 二人でダンジョンを出た所で、視線を感じた。
 辺りを見回すと大きなカラスが一匹、低空を旋回している。


「あるじ、逃げろ!」
 急にネーロが私を突き飛ばして走り出し、尻餅をついて私は唖然としていた。

「ネーロ?」「逃げろ!」

 何が起こったのか分からず立ち上がると、ネーロに無数の黒い矢が落とされ、ネーロの姿は消えた。

「攻撃されたの?」


「おい、お前!フールの仲間か?」

 いきなり男が現れて乱暴に私の髪を掴んだ。顔を近づけて私の顔を覗き込む男はネーロに似ていた。

「そ、そっちが仲間じゃないの?」
「フールは俺達の標的だ、ずっと探していた。どこに潜伏していたんだ」

「標的?」
「生き残った者だけが継承者に選ばれる、グッ!!」

 男は私を地面に叩きつけると振り返った。その背には数本の黒矢が刺さっている。
「フールのくせに生意気な、次は確実に殺す!」

 男は大きな黒い魔力を練り始め、どんどん膨れ上がっていく。

「あるじ、逃げろ!・・・さらばだ」
 ネーロは覚悟を決めたように動かない。

 私は急いでポケットから手鏡を出した。
「ネーロ帰れ!」

 ネーロは猫に戻ると地面に吸い込まれるように消えていった。

「はっ⁉・・・お前は何をした⁉」

 ネーロが消えて男の標的がこっちに変更された。とにかく逃げないと殺されそうだ。

「よ、弱い者いじめは最低です!」
「弱い奴から消されていく、それが暗黙のルールだ!」

 切羽詰まって、脳をフル回転させた結果────

「だめ!フール!逃げて!」
 大声で叫んで、男が振り返った隙に私は走り出した...



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

竜の契約者

ホワイトエンド
ファンタジー
一人の青年は魂の半分を失った------ 1体の竜は肉体を失った-------- 二つの魂は混ざり合い生まれ変わった----- あの日、全てを失った彼はその身に宿した力を振るう 悪を裁くために 正義をまっとうするために 例え、歪んでいようとも

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

私、幽閉されちゃいました!!~幽閉された元男爵令嬢に明日はあるか?~

ヒンメル
恋愛
公爵領に実質幽閉されることになったリリア・デルヴィーニュ(旧姓リリア・バインズ男爵令嬢)。 私、ゲームのヒロインだったはずなのに何故こんな事になっているの!!おかしい!!おかしい!!おかしい!! ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」のBL色強めの番外編「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」  (https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/974304595)にも登場していたリリアのその後の話です。BL的な話はなく、淡々とリリアの日常を書いていく予定なので、盛り上がり(鞭とか鎖とか牢獄とか?)を期待されている方には申し訳ないですが、(たぶん)盛り上がりません。 「婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました」ががっつりBLになってしまったため、話が読みにくいとおっしゃる方がいらっしゃるかと思うので、最初に簡単ですが、登場人物の説明を入れました。 いきなりこの話を読んでも大体はわかりますが、わかりにくいところがあると思います。登場人物説明を読んでから、第一話を読んでいただければと思います。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...