6 / 42
6 塔のミリアン
しおりを挟む
「取り合えず、私の家に参りましょうか。公爵閣下の返事を待ちましょう」
「有難うございます!」
警備隊の詰め所を出ると、オーハン先生の家まで風魔法で一っ飛びだ。
住宅街の外れにある塔の形をした家の扉を開けると15~16歳に見える少年が出迎えた。
深緑の髪にシトリンの瞳の少年は落ち着いた柔らかな雰囲気をしている。
「師匠、こちらは?」
「しばらく預かるバレンシアお嬢さんだ。面倒見てやってくれ」
「すみません、お世話になります」
「綺麗な目ですね。金色の瞳は魔力が強い証です」
「こらこら女性の顔を不躾に見るんじゃない」
「すいません。弟子のミリアンです、良しなに」
「いえ、こちらこそ良しなに」
5階建ての塔の2階部分に部屋を与えてもらった。
3階より上は立ち入り禁止と念を押される。
ミリアンさんに何か手伝いをと申し出たが断られた。
「魔法でパパッと片付けるので、お気遣いなく」
「そうですか。何かあれば言って下さい」
「シアさんって呼んでいいですか?」
「いいですよ」
優しそうなミリアンさんとは仲良くなれそうだ。
その夜、夕食時に先生から眼鏡の魔道具を渡されて掛けてみた。
「ああ、シアさんの美貌が半減ですね」
「危険も半減。目は両方茶色に見えるので安心だな」
「有難うございます。これで街に買い物に行けます」
「僕もお供して案内しますよ」
「お願いします」
ミリアンさんの料理は美味しくて、久しぶりに柔らかいお肉を食べた。
公爵はどうやって用紙を盗んで、印を押したか聞いてくるだろう。
鏡の世界で盗めば、現実でなんでも手に入るなんて言えないし、困ったな。
公爵の返事を気にしながらベッドに横になると、どこからか視線を感じた。
「バレンシア?」
鏡に呼び掛けてみたが、返事はなかった。
***
翌朝、ミリアンさんと市場に出かけた。
「付き合ってもらってすみません」
「いえ僕も買い物がありますから、お気になさらず」
私は着替えと日用品を買うと、ミリアンさんは主に食料品を買っていた。
「そうだ、図書館で特待生の過去問題が閲覧できますよ」
市場を離れて、広場から十数分歩いた場所に図書館はあった。
過去問題は持ち出し禁止で閲覧のみ。
宿に泊まって、ここに通って勉強しようと気合を入れた。
「ミリアンさんは魔法学校に通わないのですか?」
「僕は適齢期が過ぎてます。魔法は師匠から習えば必要ありませんから」
「今はおいくつなんですか?」
「もう50歳過ぎたかな」
「へ?」
見た目は16歳くらいなのに?50歳?
「僕には妖精の血が流れているんですよ。成長期からゆっくり年を取るんです」
「妖精って、人間と結婚できるの?」
「出来ますよ。魔女や獣人とだって可能です。異類婚姻だと普通の人間とは変わってきます」
「そうなんですか。結婚できるんだ~」
「春の花まつりには妖精がやって来て、気に入った人間を見つけると誘惑するんです」
「おとぎ話みたいですね」
「一般常識の話なんですけど知らなかったのですか?試験は大丈夫かな」
「常識なんですか・・・頑張ります」
塔に戻ると公爵から返事が来たので1階の食堂で開封を待つ、ここはサロンも兼ねている。
「魔法学校に提出した申し込みは破棄。ハサウェイ公爵家を名乗らずに一般人として特待生入学するなら認める。ただ、公爵の印をどうやって持ち出したのか、それを答えなければならない、とありますな」
やっぱりそう来るか。
「答えは私が特殊スキルを持っているからです」
「へぇ」「ほぉ」
「私は・・・夜になったら透明人間になれるんです!」
「・・・凄いスキルですね、羨ましい」
「アサシンのスキルですな。夜限定なのかな?」
二人は疑っていないようだ。正直に鏡に入れると言うべきだが、いろいろ聞かれて私が偽物だと知られてしまいそうで嫌だった。
「はい、姿を消すことが出来るんです。悪いと分かっていても学校の寮に入りたくて、書斎に忍び込みました。後は土魔法を使って開錠し、印を持ち出しました」
「見てみたいですね、シアさんが透明になるのを」
「あぅ、そ、その・・・・裸にならないといけないので!」
「じゃぁ無理ですね。すみません」
「ではそう返事しておこう。バレンシア嬢、そのスキルは封印しなさいよ」
「はい、二度と盗んだりしません。封印します」
信じて貰えた。嘘ついてごめんなさい!
「まさか透明人間とは、意外でした」
「内緒にして下さいね」
山を一つ乗り切った、後は特待生になれるよう頑張るだけだ。
「有難うございます!」
警備隊の詰め所を出ると、オーハン先生の家まで風魔法で一っ飛びだ。
住宅街の外れにある塔の形をした家の扉を開けると15~16歳に見える少年が出迎えた。
深緑の髪にシトリンの瞳の少年は落ち着いた柔らかな雰囲気をしている。
「師匠、こちらは?」
「しばらく預かるバレンシアお嬢さんだ。面倒見てやってくれ」
「すみません、お世話になります」
「綺麗な目ですね。金色の瞳は魔力が強い証です」
「こらこら女性の顔を不躾に見るんじゃない」
「すいません。弟子のミリアンです、良しなに」
「いえ、こちらこそ良しなに」
5階建ての塔の2階部分に部屋を与えてもらった。
3階より上は立ち入り禁止と念を押される。
ミリアンさんに何か手伝いをと申し出たが断られた。
「魔法でパパッと片付けるので、お気遣いなく」
「そうですか。何かあれば言って下さい」
「シアさんって呼んでいいですか?」
「いいですよ」
優しそうなミリアンさんとは仲良くなれそうだ。
その夜、夕食時に先生から眼鏡の魔道具を渡されて掛けてみた。
「ああ、シアさんの美貌が半減ですね」
「危険も半減。目は両方茶色に見えるので安心だな」
「有難うございます。これで街に買い物に行けます」
「僕もお供して案内しますよ」
「お願いします」
ミリアンさんの料理は美味しくて、久しぶりに柔らかいお肉を食べた。
公爵はどうやって用紙を盗んで、印を押したか聞いてくるだろう。
鏡の世界で盗めば、現実でなんでも手に入るなんて言えないし、困ったな。
公爵の返事を気にしながらベッドに横になると、どこからか視線を感じた。
「バレンシア?」
鏡に呼び掛けてみたが、返事はなかった。
***
翌朝、ミリアンさんと市場に出かけた。
「付き合ってもらってすみません」
「いえ僕も買い物がありますから、お気になさらず」
私は着替えと日用品を買うと、ミリアンさんは主に食料品を買っていた。
「そうだ、図書館で特待生の過去問題が閲覧できますよ」
市場を離れて、広場から十数分歩いた場所に図書館はあった。
過去問題は持ち出し禁止で閲覧のみ。
宿に泊まって、ここに通って勉強しようと気合を入れた。
「ミリアンさんは魔法学校に通わないのですか?」
「僕は適齢期が過ぎてます。魔法は師匠から習えば必要ありませんから」
「今はおいくつなんですか?」
「もう50歳過ぎたかな」
「へ?」
見た目は16歳くらいなのに?50歳?
「僕には妖精の血が流れているんですよ。成長期からゆっくり年を取るんです」
「妖精って、人間と結婚できるの?」
「出来ますよ。魔女や獣人とだって可能です。異類婚姻だと普通の人間とは変わってきます」
「そうなんですか。結婚できるんだ~」
「春の花まつりには妖精がやって来て、気に入った人間を見つけると誘惑するんです」
「おとぎ話みたいですね」
「一般常識の話なんですけど知らなかったのですか?試験は大丈夫かな」
「常識なんですか・・・頑張ります」
塔に戻ると公爵から返事が来たので1階の食堂で開封を待つ、ここはサロンも兼ねている。
「魔法学校に提出した申し込みは破棄。ハサウェイ公爵家を名乗らずに一般人として特待生入学するなら認める。ただ、公爵の印をどうやって持ち出したのか、それを答えなければならない、とありますな」
やっぱりそう来るか。
「答えは私が特殊スキルを持っているからです」
「へぇ」「ほぉ」
「私は・・・夜になったら透明人間になれるんです!」
「・・・凄いスキルですね、羨ましい」
「アサシンのスキルですな。夜限定なのかな?」
二人は疑っていないようだ。正直に鏡に入れると言うべきだが、いろいろ聞かれて私が偽物だと知られてしまいそうで嫌だった。
「はい、姿を消すことが出来るんです。悪いと分かっていても学校の寮に入りたくて、書斎に忍び込みました。後は土魔法を使って開錠し、印を持ち出しました」
「見てみたいですね、シアさんが透明になるのを」
「あぅ、そ、その・・・・裸にならないといけないので!」
「じゃぁ無理ですね。すみません」
「ではそう返事しておこう。バレンシア嬢、そのスキルは封印しなさいよ」
「はい、二度と盗んだりしません。封印します」
信じて貰えた。嘘ついてごめんなさい!
「まさか透明人間とは、意外でした」
「内緒にして下さいね」
山を一つ乗り切った、後は特待生になれるよう頑張るだけだ。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる