異世界転生先は鏡の妖精だった⁉ちょっぴりハードモードです

ミカン♬

文字の大きさ
上 下
4 / 42

4 千載一遇のチャンス

しおりを挟む
 朝になり、顔を洗い服を着替えるとメイドがパンとスープとリンゴを持ってきた。

 壁の丸鏡に手を触れても何も起こらない。昨夜のクッキーは机に隠した。
「鏡の中で食事可能。餓死はしないわね」

 ヘレンにバレないようにしなければ、家中の鏡を全て割られると困る。


 ヘレンは朝はゆっくりと過ごし、正午前後からと称し私を虐めにやって来る。
 午前中は本棚にある教科書を貪るように読み解いていった。それが出来るのはバレンシアが最初にヘレンから認められようと懸命に勉強をしていたからだ。
 そんなバレンシアの気持ちをヘレンは踏みにじって壊していった。絶対に許せない。


 夜になると鏡の中に再び侵入できた。黒猫が足に纏わりついてくる。
「猫ちゃんは何者なの?」
「ニャァ~」
「会話ができるといいのにね」

 屋根裏部屋に行ったが、バレンシアとは会えなかった。
【妖精の鏡】に触れても特に変化はない。
 バレンシアは鏡の世界のどこかにいるはずなんだけど見つけられない。


 ヘレンの部屋に入った。ここは以前バレンシアの部屋だった。
 宝石にドレス、美しい小物に隠し金貨。これらは給料の他に、バレンシアの養育費を着服しているに違いない。

 鏡の世界で変化を起こすと、現実世界にも変化が起こると分かった。
 鏡の中で床を濡らしコップを割ると、現実の同じ場所でコップは割れて床は濡れていた。

 クッキーを持ち出せたように、鏡の世界を利用して盗みも出来る。
「壊したり盗まなければ問題ない。夜限定なのね、なんでだろ」



 午後、ヘレンの監視がない日は、必ずピアノの音色が聞こえてくる。ピアノ教師と逢引きをしていると思われた。

 部屋の本を読破すると、夜に母屋に行き書蔵庫から本を盗み出してきた。
 歴史や中級の魔法書、いろんな本を持ち出して、午前中に読みふけった。

 時々黒猫に会えない時がある。
 なので土魔法を駆使して家のスペアーキーを作り、カギを解除できるようにした。

 夜は鏡の中で魔法の練習、加えてバレンシアを捜索しながら歩いて体力づくりに励む。
 これをヘレンの虐待に耐えながら私は日々くり返した。


 母屋のルナシアの部屋にも訪れてみた。
 美しい部屋だ。彼女が大切にされているのが良くわかる。バレンシアがこれを見たらどう思うだろう。
 グレンという兄がいるのも知った。あの夜に遭遇した少年は兄だろうか?

 ルナシアと対峙する勇気は無かった。温かく迎え入れてくれる保証は無く、鏡の秘密を知られて窮地に陥っても困る。

 公爵の書斎を何度も訪れて、私は魔法学校の存在を知った。
 ルナシアは来年から魔法学校に入学する。
 そこには寮もあった。行きたい!ヘレンから逃げたい。

 そうして待っていると、遂に大きなチャンスを得た。

「来た!魔法学校の入学申し込みの用紙だ!」

 申し込み用紙を盗み、バレンシアの名前を記入し、推薦者の名前の欄にオーハン先生の名前を書いた。
 公爵の印を押して自室の本棚の大きな絵本の中に隠した。
 申込書は郵送しなければいけない。


 ──バレンシアに成り代わった春から1年以上過ぎていた。

「この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない!」

 バレンシアには机の引き出しに家出の旨を書いた手紙を残して置く。
 お金は黙ってヘレンから拝借した。


 夜に鏡の世界から、王都の街の中心にある郵便局へ。歩いて行けば朝までかかるだろう。ハサウェイ公爵家は王都の端に広大な土地を持ち、そこに邸宅を構えている。

 私には秘策があった。
 1年前はミニゴーレムしか作れなかったが土魔法が優秀な私は練習を経て、人型や動物型ゴーレムの作成に成功していた。

 黒豹をイメージして、私を運ぶゴーレムを作り出す。ライトを照らし颯爽とゴーレムに跨って夜の道を進んだ。誰もいない夜の王国は私だけの世界。

 しかし長時間乗っているとお尻が痛くなって────
「クッションを持ってくれば良かった、イテテテ・・・歩こう」

 夜通し歩いて王都の街の中心地に到着すると、いつの間にか黒猫が足元にいた。
「ついてきたの?」
「ニャァ~」

「あ、待って」
 追いかけると酒場の中に入って手洗い場に向かう。

「鏡の場所を教えてくれたの?」
「ニャン」
「ありがとう、不思議な猫ちゃん」

 壁の鏡から現実の酒場に足を踏み入れ息を潜めた。
 酔っ払いが転がる酒場の店内をこっそり通り抜け、外に出ると太陽が昇り始め人の姿もちらほら見える。

 街の中心地まで行くと郵便局があった。私は封筒を握りしめ郵便局の前に座り込んで営業時間を待った。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
 魔族の住むゲヘナ国の幼女エウリュアレは、魔力もほぼゼロの無能な皇帝だった。だが彼女が持つ価値は、唯一無二のもの。故に強者が集まり、彼女を守り支える。揺らぐことのない玉座の上で、幼女は最弱でありながら一番愛される存在だった。 「私ね、皆を守りたいの」  幼い彼女の望みは優しく柔らかく、他国を含む世界を包んでいく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/20……完結 2022/02/14……小説家になろう ハイファンタジー日間 81位 2022/02/14……アルファポリスHOT 62位 2022/02/14……連載開始

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...