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4 千載一遇のチャンス
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朝になり、顔を洗い服を着替えるとメイドがパンとスープとリンゴを持ってきた。
壁の丸鏡に手を触れても何も起こらない。昨夜のクッキーは机に隠した。
「鏡の中で食事可能。餓死はしないわね」
ヘレンにバレないようにしなければ、家中の鏡を全て割られると困る。
ヘレンは朝はゆっくりと過ごし、正午前後から教育と称し私を虐めにやって来る。
午前中は本棚にある教科書を貪るように読み解いていった。それが出来るのはバレンシアが最初にヘレンから認められようと懸命に勉強をしていたからだ。
そんなバレンシアの気持ちをヘレンは踏みにじって壊していった。絶対に許せない。
夜になると鏡の中に再び侵入できた。黒猫が足に纏わりついてくる。
「猫ちゃんは何者なの?」
「ニャァ~」
「会話ができるといいのにね」
屋根裏部屋に行ったが、バレンシアとは会えなかった。
【妖精の鏡】に触れても特に変化はない。
バレンシアは鏡の世界のどこかにいるはずなんだけど見つけられない。
ヘレンの部屋に入った。ここは以前バレンシアの部屋だった。
宝石にドレス、美しい小物に隠し金貨。これらは給料の他に、バレンシアの養育費を着服しているに違いない。
鏡の世界で変化を起こすと、現実世界にも変化が起こると分かった。
鏡の中で床を濡らしコップを割ると、現実の同じ場所でコップは割れて床は濡れていた。
クッキーを持ち出せたように、鏡の世界を利用して盗みも出来る。
「壊したり盗まなければ問題ない。夜限定なのね、なんでだろ」
午後、ヘレンの監視がない日は、必ずピアノの音色が聞こえてくる。ピアノ教師と逢引きをしていると思われた。
部屋の本を読破すると、夜に母屋に行き書蔵庫から本を盗み出してきた。
歴史や中級の魔法書、いろんな本を持ち出して、午前中に読みふけった。
時々黒猫に会えない時がある。
なので土魔法を駆使して家のスペアーキーを作り、カギを解除できるようにした。
夜は鏡の中で魔法の練習、加えてバレンシアを捜索しながら歩いて体力づくりに励む。
これをヘレンの虐待に耐えながら私は日々くり返した。
母屋のルナシアの部屋にも訪れてみた。
美しい部屋だ。彼女が大切にされているのが良くわかる。バレンシアがこれを見たらどう思うだろう。
グレンという兄がいるのも知った。あの夜に遭遇した少年は兄だろうか?
ルナシアと対峙する勇気は無かった。温かく迎え入れてくれる保証は無く、鏡の秘密を知られて窮地に陥っても困る。
公爵の書斎を何度も訪れて、私は魔法学校の存在を知った。
ルナシアは来年から魔法学校に入学する。
そこには寮もあった。行きたい!ヘレンから逃げたい。
そうして待っていると、遂に大きなチャンスを得た。
「来た!魔法学校の入学申し込みの用紙だ!」
申し込み用紙を盗み、バレンシアの名前を記入し、推薦者の名前の欄にオーハン先生の名前を書いた。
公爵の印を押して自室の本棚の大きな絵本の中に隠した。
申込書は郵送しなければいけない。
──バレンシアに成り代わった春から1年以上過ぎていた。
「この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない!」
バレンシアには机の引き出しに家出の旨を書いた手紙を残して置く。
お金は黙ってヘレンから拝借した。
夜に鏡の世界から、王都の街の中心にある郵便局へ。歩いて行けば朝までかかるだろう。ハサウェイ公爵家は王都の端に広大な土地を持ち、そこに邸宅を構えている。
私には秘策があった。
1年前はミニゴーレムしか作れなかったが土魔法が優秀な私は練習を経て、人型や動物型ゴーレムの作成に成功していた。
黒豹をイメージして、私を運ぶゴーレムを作り出す。ライトを照らし颯爽とゴーレムに跨って夜の道を進んだ。誰もいない夜の王国は私だけの世界。
しかし長時間乗っているとお尻が痛くなって────
「クッションを持ってくれば良かった、イテテテ・・・歩こう」
夜通し歩いて王都の街の中心地に到着すると、いつの間にか黒猫が足元にいた。
「ついてきたの?」
「ニャァ~」
「あ、待って」
追いかけると酒場の中に入って手洗い場に向かう。
「鏡の場所を教えてくれたの?」
「ニャン」
「ありがとう、不思議な猫ちゃん」
壁の鏡から現実の酒場に足を踏み入れ息を潜めた。
酔っ払いが転がる酒場の店内をこっそり通り抜け、外に出ると太陽が昇り始め人の姿もちらほら見える。
街の中心地まで行くと郵便局があった。私は封筒を握りしめ郵便局の前に座り込んで営業時間を待った。
壁の丸鏡に手を触れても何も起こらない。昨夜のクッキーは机に隠した。
「鏡の中で食事可能。餓死はしないわね」
ヘレンにバレないようにしなければ、家中の鏡を全て割られると困る。
ヘレンは朝はゆっくりと過ごし、正午前後から教育と称し私を虐めにやって来る。
午前中は本棚にある教科書を貪るように読み解いていった。それが出来るのはバレンシアが最初にヘレンから認められようと懸命に勉強をしていたからだ。
そんなバレンシアの気持ちをヘレンは踏みにじって壊していった。絶対に許せない。
夜になると鏡の中に再び侵入できた。黒猫が足に纏わりついてくる。
「猫ちゃんは何者なの?」
「ニャァ~」
「会話ができるといいのにね」
屋根裏部屋に行ったが、バレンシアとは会えなかった。
【妖精の鏡】に触れても特に変化はない。
バレンシアは鏡の世界のどこかにいるはずなんだけど見つけられない。
ヘレンの部屋に入った。ここは以前バレンシアの部屋だった。
宝石にドレス、美しい小物に隠し金貨。これらは給料の他に、バレンシアの養育費を着服しているに違いない。
鏡の世界で変化を起こすと、現実世界にも変化が起こると分かった。
鏡の中で床を濡らしコップを割ると、現実の同じ場所でコップは割れて床は濡れていた。
クッキーを持ち出せたように、鏡の世界を利用して盗みも出来る。
「壊したり盗まなければ問題ない。夜限定なのね、なんでだろ」
午後、ヘレンの監視がない日は、必ずピアノの音色が聞こえてくる。ピアノ教師と逢引きをしていると思われた。
部屋の本を読破すると、夜に母屋に行き書蔵庫から本を盗み出してきた。
歴史や中級の魔法書、いろんな本を持ち出して、午前中に読みふけった。
時々黒猫に会えない時がある。
なので土魔法を駆使して家のスペアーキーを作り、カギを解除できるようにした。
夜は鏡の中で魔法の練習、加えてバレンシアを捜索しながら歩いて体力づくりに励む。
これをヘレンの虐待に耐えながら私は日々くり返した。
母屋のルナシアの部屋にも訪れてみた。
美しい部屋だ。彼女が大切にされているのが良くわかる。バレンシアがこれを見たらどう思うだろう。
グレンという兄がいるのも知った。あの夜に遭遇した少年は兄だろうか?
ルナシアと対峙する勇気は無かった。温かく迎え入れてくれる保証は無く、鏡の秘密を知られて窮地に陥っても困る。
公爵の書斎を何度も訪れて、私は魔法学校の存在を知った。
ルナシアは来年から魔法学校に入学する。
そこには寮もあった。行きたい!ヘレンから逃げたい。
そうして待っていると、遂に大きなチャンスを得た。
「来た!魔法学校の入学申し込みの用紙だ!」
申し込み用紙を盗み、バレンシアの名前を記入し、推薦者の名前の欄にオーハン先生の名前を書いた。
公爵の印を押して自室の本棚の大きな絵本の中に隠した。
申込書は郵送しなければいけない。
──バレンシアに成り代わった春から1年以上過ぎていた。
「この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない!」
バレンシアには机の引き出しに家出の旨を書いた手紙を残して置く。
お金は黙ってヘレンから拝借した。
夜に鏡の世界から、王都の街の中心にある郵便局へ。歩いて行けば朝までかかるだろう。ハサウェイ公爵家は王都の端に広大な土地を持ち、そこに邸宅を構えている。
私には秘策があった。
1年前はミニゴーレムしか作れなかったが土魔法が優秀な私は練習を経て、人型や動物型ゴーレムの作成に成功していた。
黒豹をイメージして、私を運ぶゴーレムを作り出す。ライトを照らし颯爽とゴーレムに跨って夜の道を進んだ。誰もいない夜の王国は私だけの世界。
しかし長時間乗っているとお尻が痛くなって────
「クッションを持ってくれば良かった、イテテテ・・・歩こう」
夜通し歩いて王都の街の中心地に到着すると、いつの間にか黒猫が足元にいた。
「ついてきたの?」
「ニャァ~」
「あ、待って」
追いかけると酒場の中に入って手洗い場に向かう。
「鏡の場所を教えてくれたの?」
「ニャン」
「ありがとう、不思議な猫ちゃん」
壁の鏡から現実の酒場に足を踏み入れ息を潜めた。
酔っ払いが転がる酒場の店内をこっそり通り抜け、外に出ると太陽が昇り始め人の姿もちらほら見える。
街の中心地まで行くと郵便局があった。私は封筒を握りしめ郵便局の前に座り込んで営業時間を待った。
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