上 下
14 / 34

14 春の嵐

しおりを挟む
 離れのお婆様の二階建ての小宅は、かくれんぼ屋敷と呼んでいた。
 収納場所も多くて子どもが隠れる場所がたくさんあった。

 クローゼットに調理台の下、カーテンの中、掃除用具入れ、屋根裏部屋、ピアノの後ろ、階段の下、書斎の机の下まだまだいっぱい、お婆様に見つかるのをドキドキしながら待っていた。
 
 お金に困った時に見つけたお婆様の隠し金貨。
 私がよく隠れていた場所にお婆様は金貨を少しずつ隠してあった。
 クロードと二人で探検すると隠し部屋まであって驚いたわ。

 亡くなった母と祖父母の遺産で平民になっても特別な贅沢をしない限り生活できる。
 だから私は強気でいられるの。


 離れに移ってから10日後に渋い顔をしたお父様が訪ねてきた。
 暫くは私の謝罪を待っていたが、堪忍袋の緒が切れたようだ。

「除籍は済んだ。以後バーンズは名乗らないように」
「承知いたしました男爵閣下。どうぞお体を大切になさって下さいませ」

 顔を歪めて荒々しく扉を閉め、父は出て行った。

 死神の言った『黒い糸』の意味が分かった気がする。

 「私をバーンズに縫い付け、幸福を奪う不幸の糸なんだわ」

 父との縁が切れて絡んでいた黒い糸がひとつ外れた気がする。

 愚かな父は義母に命を狙われているかもしれないけど、私が忠告してもムダね。
 アスラン様にお任せするしかない。

 前回、強盗団に奪われた物は義母の手に入ったのは間違いない。
 私達が渡す生活費よりも義母は多額のお金を使っていた。
 子爵の遺産だなんて言い訳していたけど嘘よ。義母が抱えていた多額の借金を婚前に父が肩代わりしていた。

 前回は私達を踏み台にして、義母と幸せに過ごして死んでいった父。
 今回はどうなるかしらね。


 クロードから手紙が来た。 
 自分が縁談を申し込んだせいで除籍されたのではないかと心配していた。
 家庭内の問題でクロードは関係ないと素っ気ない返事を出しておいた。



 春になってカイトが馬車でやって来た。

「寮の受付が始まってると母さんが言ってるぞ」

「そろそろだと思っていたわ」

「馬車は一日貸し出してやるよ。馭者付きだぜ」

「助かるわ。お礼はするわね」

「今日は行ける? 明日でもいいけど」

「今日でお願い!準備はしてあるの」

 カイトを馭者にして私は銀行に向かった。
 祖母の金貨を預けて、貸金庫に祖母の宝石も入れておいた。

「バーンズ商店が襲われてから、うちも銀行をよく利用するんだ」
「ここの銀行は安定しているから心配ないわよ」
「そっか、クレアのお薦めなら間違いないな」

 同じ年だけどカイトは可愛い。

「ん? 俺に見惚れた?」
「あははは そうねカイトは可愛いわね。孫みたい」
「なんだよ孫って・・・」
 だって中身は62歳なんだもの、子どもっぽい可愛い孫よ。

 王都聖女子学園に到着するとカイトは男性なので中に入れなかった。
「ごめんね、すぐ終わらせるわね」
「じゃぁ 帰りにデートな!」

 馭者までさせて、昼食デートくらい奢らないと悪いわね。
 私は校舎内の受付まで急いだ。

「平民になったですって?」
「はい なので只のクレアです」

「除籍なんて何があったの?」
「私が望んだことです」
「信じられないわ、それでいいの?」

 話しているのは1年の担任だったシスターだ。

「はい、いいのです。寮は入れますか?」
「ええ、手続きをこちらで。平民用になるわよ?」
「それでお願いします」

 学園が始まる1週間前から入れるようだ。平民用なので金額も安い。

「お友達のナタリーさんとも教室が離れてしまうわよ?」
「そうですね仕方がありません」

「貴方のお父様は何を考えていらっしゃるのかしら」
「自分の事だけを考えています」

「・・・もう聞かないわ。パンフレットもどうぞ」
 書類にサインして渡すとシスターは小さくため息をついた。


 ***


 カイトとのランチデートで食事も終わり、馬車代を払って領収書を書いて貰っていた。
 商店街のサーレン商店の斜め前にあるお洒落なお店だ。

「別に代金なんかいいのに」
「きっちりしないとサーレン夫人に怒られるわよ」

「・・・なぁクレア、卒業したらうちに来いよな」

「雇ってくれるの?」
「んー まぁそれでいいや。雇ってやる」

「有難う、カイトはいい子だね」

「時々俺を子ども扱いするのはやめろ」

 カイトはミリアと結婚したおバカな幼馴染から可愛い幼馴染に私の中で変化した。
 そういえば、離婚後カイトはどうしたんだっけ?全然覚えてないわねぇ。


 平和な日々が続いていたので父の件は大丈夫かもしれないと思い始めていた。
 義母や義妹と顔を合わせることもなかったし、マックスさんも時折連絡はあったが父に変化はなかった。

 そんな中アスラン様はずっと強盗団の黒幕を追い続けてくれていた。

 間もなくバーンズ家に、春の嵐が吹き荒れる事となる。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。 孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。

安らかにお眠りください

くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。 ※突然残酷な描写が入ります。 ※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。 ※小説家になろう様へも投稿しています。

おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。

石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。 ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。 騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。 ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。 力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。 騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

処理中です...