妹がナルコレプシーを拗らせまして

ミカン♬

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妹が大学3年生のクリスマスの日にポメラニアンのポメが死んだ。
家族の潤滑油となってギスギスした雰囲気も和やかにしてくれたポメが死んでしまった。
辛くて胸が痛んで二度と犬は飼えないと思った。

亡骸を火葬場に連れて行くと1000円で焼いてペット共同墓地に入れてくれた。
ポメは特に妹が可愛がっていて、私以上に泣いてショックを受けていた。



大学4年生になり妹は就活を本格的に始めたが内定は貰えずにいた。
朝起きられず面接をキャンセルしたり、最終までいっても自宅通勤を希望すると無理だと断られたりと、全然上手くいかなかった。

バイトはコンビニと家電店を掛け持ちして小遣い稼ぎに励んでいたが100万の借金は1円も返していなかった。
美容エステや友人達と旅行、パソコンを買い替えたりと全く反省などしていなかった。

就活も友人達が次々内定が決まって焦ってはいたがどこか『病気だから仕方ないよね』みたいな態度が見受けられた。

結局妹は就職が決まらずに卒業した。
バイトをしながらハローワークに通い、母にお金を出してもらってユーキャンで医療事務の資格を取った。

それで地元の個人医院に就職できたのだが、ナルコレプシーは内緒にしていた。
昼の休息時間でいったん帰宅して休眠して医院に通っていたが、週に1回休息時間を潰してミーティングがあった。
その時に妹は眠ってしまいナルコレプシーがバレて、ひと月も待たずクビになった。

「話していれば雇わなかったのに、またハローワークに募集しないといけなくなったじゃないか」
院長夫人に随分と叱られて、それまでの給金はバイト代としてお金を渡されて泣きながら帰ってきた。

「もうバイトでいいじゃない。病気なんだから就職は諦めな」
慰めにもならないけど、私の言葉に妹はホッとした顔で「バイト頑張るから、借金も返すから」と言った。
母に出してもらった医療事務の資格代の数万円はパァ~になった。

再びバイトを掛け持ちして朝はコンビニ、昼は仮眠、午後から家電店へ。
帰宅すると夕食を食べて、風呂でいつも2時間ぐらい寝ていた。何度も風呂場に声を掛けに行っても妹は気絶したようにバスタブの中で寝ていた。


私の方は恋人の圭ちゃんが九州に転勤が決まったが一緒に来て欲しいとは言われなかった。

「じゃあ、遠距離恋愛だね」
「うん」

10年付き合ってきたが圭ちゃんは私との結婚を踏み切れないでいた。
お互いに良い所悪い所を知り尽くしている。
私はクールで圭ちゃんは優しいけど優柔不断だ。

この転勤をきっかけにお互いを見直そうと提案したら「そうだね」と返された。

別れの予感がした。


大学を卒業してから妹と母はしょっちゅう衝突していた。
妹に期待していた母は落胆し、妹はイラ立ちを母にぶつけていた。

この頃の母の決め台詞は妹を傷つけていたと思う。
「就職も出来なかったクセに。偉そうに」

「何にも分かってないくせに!」
毎日何をそんなに揉めるネタがあるのか、些細な事で二人は直ぐ喧嘩していた。

思い返せば妹の病気に対して母も私も理解が浅かった。
ユイが病状で苦しんでいるのを判っていなかった。



     ***


「お姉ちゃん、私ね霊感があるんだよ。バイトからの帰り道ポメが走ってくるのが見えて、私をサァーっとすり抜けていったんだよ」

「へぇ、ポメに会えたんだ良かったね」
私はナルコレプシーの幻覚症状なのかなと思った。

「バイト中にね、友達の声が聞こえてテレパシーが使えるようになったみたい」

「幻聴じゃないよね?」

「違うよ、Sちゃんの声で、返事もしてくれたから」

おかしなことを言ってるなと思った。マジでナルコレプシーの症状なのか?

時々意味不明な事を言ったがバイトに支障は無さそうで毎日休まず通っていた。

「朝起きたら私は巨木になっていて、枝に鳥たちがいっぱい止まって寝てた。起こさないように動かないでいたんだけど少し動いたら鳥たちが一斉に飛び立って、羽音や飛び立つ感覚が体中に残っていて、あの鳥たちはどこに飛んでいったんだろう」

「はぁ? ユイ、大丈夫? バイト減らした方がいいよ」

「ダメ! 迷惑かけるから、やめたら迷惑だもん」

「病院で先生にそんな話ちゃんとしてる?」

「してるよ。不思議だねって言われた」

先生も症状は把握しているだろう、専門家に任せておけば大丈夫と軽く考えていた。


だがユイ23歳、私が27歳の1月の中頃に風呂から出ると母が仏壇の間で大騒ぎしていた。
行ってみると妹が真っ裸で仏壇にお経をあげていた。
「悪いものが手の先からす~って仏壇の中に吸い込まれていくの」

「なんで裸なのよ。服着なさい。風邪ひくよ」

「だって裸でやらないと効き目が無いって、この部屋に猫がいっぱいいるから追い払わないと」

これはもう異常だ。明日にでも病院に付き添って診て貰わないと。

しかし妹は「病院は予約制だから、予約日以外は行ってダメ」と病院に行くのを拒否し、次の日は普通にバイトに出かけて行った。

母と次の予約日には絶対に付き添って病院に行こうと話し合った。
だけどその日を待たずに数日で妹は壊れてしまった。

金曜日の夕方に帰宅すると母が父に泣きながら電話していた。
「2階から降りてこないの、下に下りたらいけないって。明日戻ってきて」

私が2階に行くと妹は階段の踊り場の壁に額をつけてブツブツ言っていた。

「ユイ、お腹空いたでしょう。ごはんにしよう。ここは寒いから下りよう」
できるだけ優しく言ったが妹は返事しなかった。

何が起こっているんだろう、私は怖くてたまらなかった。

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