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しおりを挟むチョコレートを口に放り込んでいるとサロンにミリーが入ってきた。
「お嬢様、キリアン様がお見えになっています」
「え、どうしよう」
「私に任せなさい!」
姉は意気揚々とサロンから出て行った。
少し待っていたけれど「ああ、やっぱり心配」
部屋を出ると姉とキリアン様の声が聞こえてきた。
「だから会いたくないって言ってるのよ。顔も見たくないそうよ」
「会わせて下さい。何か誤解があったのかもしれない」
「ディアナは婚約解消を望んでいるの、私がもっと素晴らしい婚約者を見つけるわ」
「そんな!」
エントランスから声は聞こえて、更にどこからか母も参加してきた。
「誤解されてるのはどっちかしら。キリアン、貴方をお金で買ったつもりはありません!」
「あ!それは・・・」
「身に覚えがあるようね。大事な妹を愛情の欠片もないキリアンには渡せないわ!」
「ディアナはあそこにいたのか。違うんだあれは嘘なんだ」
(嘘なの?)私はエントランスに出て行こうとした。でも次の姉の言葉で足が止まった。
「嘘でも何でも、思っていなければ口には出ないわ。心のどこかでキリアンは売られたと思っていたのよ!」
「俺は言ってない! ただ頷けと言われただけなんだ」
「同意したから頷いたのよ。妹は傷ついたわ。婚約は解消よ。父からの連絡を待っていなさい!」
「はぁ~ お客様はお帰りよ。外にご案内して」母が執事に命令した。
「キリアン様こちらに」
「帰りません!ディアナと話をさせて下さい」
「しつこいわね、そういえばキリアンは私が好きなんですって? 妹には愛情が無いそうね」
「俺はエリサ姉さんなんか好きじゃない。ディアナが好きです」
「それってあの子に伝えた? キリアンは言葉も愛情も足りないの。何もかも全然足りないわ!」
ぐうの音も出ないキリアン様は執事と姉の護衛に外に連れ出された。
初めて「好き」って言われたけど嬉しくない。
嘘だったなんて、そんなの嘘、信じられない。
だって私は見ていたのよ。
「前々から思っていたのよ。キリアンはディアナの愛情に甘え過ぎよ。お母様もそう思わなくて?」
「そうね・・遅くなるからエリサも帰りなさい。今日はありがとう」
「お姉様・・・」
「ディアナ、簡単に許してはダメよ。お父様も政略結婚だなんて思ってないから」
「うん。ありがとう」
「言われるがままに頷くなんて、当主には出来ないわ。見損なったわね」
母が彼を批判するなんて、婚約解消宣言は本気だったんだ。
キリアン様はうちの家族には気に入られていた筈だった。2年前に婚約が決まった時も両親は『キリアンならディアナを任せられる』って、姉も『大好きな彼と婚約出来ておめでとう』って喜んでくれたのに。
翌日私は学園を休んだ。どんな顔してキリアン様に会えばいいか分からなかったから。
彼がどんな顔をして私に会いに来るのか、それとも怒って無視されるのか。
いろいろ想像すると怖くて部屋から出られなかった。
思い返せば婚約してからずっとそうだった。彼に嫌われるのが怖くて顔色ばかり見ていた気がする。
そしてこの日に父が領地から戻って来た。
サロンに呼ばれて私がソファーに座わるなり「婚約は解消でいいのか?」と尋ねた。
「迷ってます。でも今のままだと結婚は不安です」
「そうか、男性は彼だけじゃない、安心させてくれる人を探せばいい」
家族は誰も婚約解消に反対しない。私の婚約はやはり間違っていたの?
最初から最後まで、言い出したのは自分だわ。後継ぎとして自分の行為に責任を取らなければいけない。
「キリアン様には自分でちゃんと伝えます」
「ではディアナが納得したら解消の申し込みをしよう」
明日キリアン様に気持ちを伝えよう。彼のご両親にも話を聞いていただこう。
そう決心して翌日学園に向かうと、とんでもない事になっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【3か月の停学処分】
キリアン・トレバー トーマス・スミスの二名は上記の処分と科す。
学園長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なにこれ?」
私は掲示板の前でサーシャを探した。
「おはようディアナ、この二人大喧嘩したのよ。止めに入った先生や生徒も巻き込んで大騒ぎだったそうよ」
「サーシャ、詳しく聞かせて!」
「詳しくは分からないけど、二人とも大怪我したらしいわ。卒業は難しいわね」
たった一日学園を休んだ間にキリアン様に一体何があったの?
*
「キリアンは思慮が浅すぎるようだね」
停学処分の件で私の父は婚約解消を決定事項にしてしまった。
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