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2 さようなら大好きだった人

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 夕飯は喉を通らず、バスタブに沈んでも昼間の会話が頭の中で繰り返された。

 胸がズキズキする。

 そんな私を気遣ってミリーが話しかけてくれる。
「キリアン様は無口なお方ですよね、お嬢様はどこに惹かれたんですか?」

「尊いお顔よ。頭もいいし、カッコイイし、時々優しいし」

「はぁ~・・カッコイイのは今だけですよ。年取ればみんな同じ顔ですよ」

「いいえ、キリアン様は死ぬまでカッコいいのよ」

「重症ですね」


「ねぇミリー 婚約解消したら忘れられるかな」

「次の恋が待ってますよ。顔だけでなくて中身も素敵な人が現れますって」

 ミリーは乾いた髪を丁寧にブラッシングしながら「まともな男性ならこの綺麗なブロンドに触れたいと思うはずです。美しい緑の瞳にも魅了されますよ。キリアン様は頭がおかしいのです」と慰めてくれた。

 ベッドに入ってもう追いかけるのはやめようと決めた。
 惨めになるだけだわ。さようなら大好きだった人。



 翌日学園に着くとキリアン様が待っていた。

「おはよう。昨日は何かあったの?」
(いっぱいあったわ。ありすぎて混乱したわ)

「先に帰ったから心配した」
(いつも迷惑そうな顔するのに)

「寄ろうかと思ったけど、時間が遅くなってやめたんだ」
(3年生は忙しいもんね。卒業控えてるから)

「ディアナ?」

「あ、おはよう。なんでもないから」

 耐えるのよ! 昨日さよならしたんだから。

「失礼します」と私は校舎に向かった。

「え、ディアナ!」

 いつまでも追いかけると思わないでよね。




「アナったら、なんで泣いてるのよ?」

「グスッ・・だって~ 珍しくいっぱい声かけてくれたのが悲しくて」

「はぁ?? キリアン様となんかあったの?」

 親友のガーネットが心配と興味から声を掛けてくれている。
 話したら絶対噂になるから言わないわ。

「ないけど、追いかけない事にしたの」

「アナはしつこいのよ。もう婚約者なのに追いかける必要あるの?」

「しつこい・・・だから(嫌われたのね)もういいの(こんな自分とも)お別れよ」

「あらまぁ!」


 なぜか昼休みには私とキリアン様が別れると噂になっていた。

 食堂で彼の顔を見たくなくてお弁当を持参していた。
 人目に付かない場所でこっそり食べたんだけど、こんな事ずっとやってられないわね。
 そういえば食堂でも一緒に食べてくれなかったわ。いつも友人が優先だった。

 教室に戻ろうとしたらキリアン様が待っていたので始業チャイムが鳴るまで隠れていた。
 なんだか拗ねているようで情けない。


 授業が終わって逃げるように帰宅するとエリサ姉様が来ていた。

「ディアナの好きなチョコレート買って来たわ」

 姉は買い物の帰りには息抜きに我が家に立ち寄る。侯爵家の嫡男の嫁は気苦労が多そうだ。

「大好きな彼と婚約は解消ですって?」

「お母様から聞いたのね。私はお姉様みたいに愛されて結婚したいの」

「よく言ったわ! キリアンは愛が足りないのよ。やめちゃいなさい」

「うっ、そうね。未だにリアンって呼ばせてくれないの」

「未だにキリアンって、呼ばせるのがおかしいのよ。私のアルフレッドは会って直ぐ『アルって呼んで欲しい』って言ったわよ」

 このあと姉夫婦がどんだけ学園でいちゃついたか、ラヴラヴだったか聞かされた。
 私もキリアン様とそんな相思相愛な関係になってみたかった。


 婚約したからって月2回のお茶の時間が出来ただけでデートも数えるほどだったわね。

 同じ学園に通えるようになると嬉しくて浮かれていた。

『ねぇ、私もお友達みたいにリアンって呼んでもいい?』

『キリアンのままでいいよ。学園では腕も組まないで欲しい』

『わかったわ』

 学年が違う校舎に会いに行くと嫌そうな顔されたけど、どうしてもお顔を見たかったのよ。
 キリアン様はきっと私の顔なんて見たくなかったのに。

 こういうの厚顔無恥っていうのかしら・・・恥ずかしくて胸が苦しくなる。




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