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「リアナ、気が付いた?」

知らない部屋でベッドに横になっていた。体中が痛い、どうしたんだろう?

「ここはどこ?」

なぜか脇にはクラリス様がいて、泣きそうな顔をしている。

「王宮の医務室だよ。ごめん、こんなことになるなんて。許してリアナ」

頭が重くて、混乱している。私に何が起こったの?



「王宮?どうして・・・」

「リアナ、年はいくつ?」

「19歳です・・・」

「良かった!ハワードと婚約していた時期に遡るかと心配したよ」

「ハワード?・・・オスカー様はどこ?」

「彼は重傷でね、別室で手当てを受けている、何があったのか今から説明するよ」

クラリス様から事件のあらましを聞いて驚いた。まさかダイアナが王宮で事件を起こすなんて。


私は舞踏会の記憶は無く、数日前に記憶は遡っていた。

「一歩間違えればオスカーもリアナも命を失ったかもしれない」

「どうしたのですか?優しいですねクラリス様」

「うん、本当はリアナが大好きなの。幼い頃は大嫌いだった。私の母を奪われたみたいで」

「クラリス様のお母さまですか」


「リアナ『お兄さま』は本当は私なの。返事を書いていたのはオスカーだけどね」

「シスター・マーベルの手紙ですか?でも息子って・・・」

「私はね中身が『男性』なの。性同一性って障害なんだ」

「あ、それで・・・」

「体が弱かった母は父に再婚を勧めシスターになった。捨てられたと思って母を恨んでいたよ。そんな母から手紙を送られて、私は自分の悩みを打ち明けた。貴方が私を男に産んでくれていれば良かったのに!ってね。」

「それでシスターは『私の息子』と仰っていたんですね」

「文通をしているとリアナからの手紙が同封され、私は母との時間を邪魔されているような気持ちになった」

「ごめんなさい」

「お節介なオスカーが『可哀そうだ』って、君に返事を書き出した」

筆跡が違っているのでシスターは気づいていたのね。だから最後までご子息の名前を教えてくれなかったんだ。


「この話は終わり。待ってて、医者を呼んでくる」



クラリス様が出ていくと、待っていたようにハワードが部屋に入ってきた。

「リアナ、ベニー様がリアナは僕に返してくれるって。僕の家に行こう」
「へ?」


「侯爵はリアナを忘れてベニー様とやり直すんだって。僕たちもやり直そう」
「・・・うそ」

アランのようにオスカー様も私を忘れてしまったのだろうか。

「本当だよ、今はベニー様に手厚く看護してもらっているそうだよ」

私を愛しているのは嘘だったの?ベニー様の嫉妬を煽る為の・・・当て馬?


「あぁぁ、いやだ、もう何も信じられない・・・・」
「リアナ、泣かないで、リアナ・・・」



その後、クラリス様が戻り私は解毒薬を与えられ、正常に記憶が戻った。

戻ってもただ、悲しいだけだった。


     ***


クラリス様に引き取られて私は再びワイゼン侯爵の屋敷に戻って来た。

オスカー様との婚約はすぐに解消された。
彼に思い出してもらえなかった。私は忘れなかったのに、信じていたのに。

「私はここにいてもいいのかしら?」
「リアナは私の客人だ。遠慮はいらないよ」


連日ハワードと義兄が私を迎えに来るのを、クラリス様は追い返してくれる。
ベストスーツに髪を後ろで括りつけているクラリス様の姿は凛々しい男性のようだ。


オスカー様が今どうしているのか情報が入ってこなくて、重傷で完治に時間がかかるとしか分からない。
王妃様の宮で手当て受け、ベニー様が泊まり込んで面倒を見ているそうだ。



ダイアナが服毒自殺したと知らせがあった。

あのダイアナが?

「多分消されたんだ。罪を全て着せられて」

「セルマー家はどうなりますか?」

「一応、首の皮は繋がったみたいだよ。男爵に格下げ、領地も大部分没収だ」


現実味が全くなかった。
改めてあの人達を家族だと意識していなかったと感じる。涙も出ない。

「私は冷たいですね」
「向こうも冷たいからいいじゃないか。他人だったんだ」

そうか、私には家族なんていなかったんだ、どこにも。



     ***



数日すると朝からアランが書類を持って訪ねてきた。
私はまだ打撲痛で寝込んでおり、対応はクラリス様がしてくれた。


「婚約解消が無効?」


記憶喪失中に婚約を解消したので無効だとアラン・スコットが教会に訴えたのだ。
審議のうえ訴えは認められ、私とアランは再婚約となった。


「でも安心して、これはハワードとセルマー家を牽制するためだから」

「アランが私の為にそんなことを」

「しつこいハワードをこれで堂々と追い返せる。もちろんリアナは私が面倒みるからね」

侍女たちが今も変わらず世話してくれる。
クラリス様の中が男性だと聞いて、世話をして頂くのはちょっと恥ずかしい。


「オスカーがいないと執務が滞っている。それを理由に会ってくるよ。面会謝絶とかほざいて会わせないんだよね。ベニーは私が嫌いだからな。執事のテリーも連れて行く」

もう解毒薬でオスカー様の記憶も戻っているはずだ。それでもここに戻らないのは、やはり私は当て馬だったのだ。

「会えるといいですね」

「会えないと困るよ」
クラリス様は厳しい顔をして王宮に出かけて行った。




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