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王太子殿下の誕生祭は二日間行われる。
オスカー様は初日に早く終わらせたいと仰った。
私はオスカー様の横で静かに微笑むだけでいいと何度も言われている。
廊下に出ると正装姿の輝くオスカー様が待ってくれていた。
黒に赤い刺繍を施した装いの上下は私とお揃いだ。
「はわぁ~・・・」
さりげなく私の瞳の薄い水色を施しているオスカー様が、素敵すぎてため息がでる。
「リアナ綺麗だ。とてもよく似合っている」
「有難うございます。オスカー様も素敵です」
腕を差し出され触れると、どうしようもなく胸が高まる。
こんな日がくるなんて。
使用人たちに見送られて馬車は動き出した。
ジッと見つめるオスカー様の熱い視線に、体は熱を帯びてくる。
「俺ならもっとリアナに似合うドレスを送るのにと、いつも悔しい思いをしていた」
何度も『似合わないな』と彼に言われた。
「そんなに似合っていませんでしたか?」
「いや、俺がドレスを送りたくて嫉妬しただけだ」
「お洒落したつもりだったのに、結構ショックだったんですよ」
「すまなかった。だが迎えに行った日の紺色のドレスは全然似合っていなかったぞ」
「あれは・・・ダイアナを引き立ててあげようと思ったんです」
「俺から逃げるつもりだったんだろう?」
──その通り。
オスカー様の不機嫌なオーラに、返事を笑顔ではぐらかした。
王宮に到着し、舞踏会場に足を踏み入れると無数の視線が突き刺さってきた。
俯かずに堂々とするの、オスカー様に恥を欠かせてはいけない。
ヒソヒソと悪評高い私を貶める声が途切れ途切れに聞こえてくる。
不思議な世界だ。誰も私の事なんて知りもしないくせに、それが本当の事のように話している。
ダイアナの性格が最悪なのも多くの貴族達は知っている。私の婚約者を誘惑し、そのハワードに離縁されたのも知っている。それでも私を悪者扱いしたいのか、私は異質な貴族世界の生贄、鶏と同等の残酷な世界だ。
「リアナ、大丈夫だ。今から誤解を解いていこう」
「はい大丈夫です。慣れていますから」
オスカー様がシュンとした顔で私の腰を抱き寄せた。
「すまなかった」
過去、ベニー様と一緒に私を嫌うオスカー様の姿は大勢に目撃されてきた。今の私達は周りの目に、茶番な婚約だと映っている。
「もう。何度も謝らないで下さい。私は分かっていますから」
「それでも胸が痛む。悔やんでも悔やみきれない」
こうして私達が親しく話していても、ベニー様への当て付けだと思われているんだろう。
そのベニー様の叔母である王妃殿下、そして陛下、王太子殿下が壇上にお見えになった。
王太子殿下は隣国の可愛らしい姫様をエスコートされている。
陛下のご挨拶が終われば、順次、壇上に伺ってお祝いの言葉を申し上げるのだ。
「王太子殿下に置かれましてはめでたく成人の日を迎えられました事、ご婚約が整われました事、謹んでお慶び申し上げます」
「有難うワイゼン侯爵。貴方も婚約されたんだね、おめでとう。今度は幸せになって欲しい」
「王太子殿下、有難く存じます」
にこやかに話される王太子殿下の傍で、王妃殿下に睨まれているが、私は黙って笑みを浮かべていた。
「ワイゼン侯爵、貴方とは後程ゆるりとお話をさせて頂きたいわ」
去ろうとする私達に王妃殿下は声を掛けてきた。
「ご連絡いただければ登城致します。挙式も迫っておりますゆえ、これでも多忙な身なので」
オスカー様は強気だ、怖くて王妃様のお顔は見れない。
「まぁ、お式が近いのですか?私もぜひ参列させて頂きたいですわ」
何もご存じない、無垢な姫様が申し出て下さった。
「喜んで、ぜひお願い致します。あとが閊えているようです。これにて失礼いたします」
壇上から降りると体が震えてオスカー様にしがみつき、オスカー様は「大丈夫か」と支えてくれた。
そんな私達を周りは遠巻きに見て、悪口は聞こえてこなかった。
楽団の演奏が始まり、王太子殿下と姫様がダンスを披露すると盛大な拍手が起こった。
「リアナ、もう帰ろう」
「いいのですか?ご挨拶に回らなくても」
「ああ、用は済んだ、煩い連中に見つからないうちに消えるとしよう。ダンスはまた今度だ、嫌な予感がする」
ダンスの練習をいっぱいしたのに、残念。オスカー様と1回だけでも踊りたかったな。
踊らないで帰ったらまたヘンな噂が立たないかな。
こんな事いったら危機感が薄いって、オスカー様に怒られるかな。
呑気な私はせっかちなオスカー様にグイグイ引っ張られて、慣れないハイヒールに足が痛い。
人の波を縫うように、私達は出口に向かっていた。
既に危険人物からロックオンされているのも気づかずに。
オスカー様は初日に早く終わらせたいと仰った。
私はオスカー様の横で静かに微笑むだけでいいと何度も言われている。
廊下に出ると正装姿の輝くオスカー様が待ってくれていた。
黒に赤い刺繍を施した装いの上下は私とお揃いだ。
「はわぁ~・・・」
さりげなく私の瞳の薄い水色を施しているオスカー様が、素敵すぎてため息がでる。
「リアナ綺麗だ。とてもよく似合っている」
「有難うございます。オスカー様も素敵です」
腕を差し出され触れると、どうしようもなく胸が高まる。
こんな日がくるなんて。
使用人たちに見送られて馬車は動き出した。
ジッと見つめるオスカー様の熱い視線に、体は熱を帯びてくる。
「俺ならもっとリアナに似合うドレスを送るのにと、いつも悔しい思いをしていた」
何度も『似合わないな』と彼に言われた。
「そんなに似合っていませんでしたか?」
「いや、俺がドレスを送りたくて嫉妬しただけだ」
「お洒落したつもりだったのに、結構ショックだったんですよ」
「すまなかった。だが迎えに行った日の紺色のドレスは全然似合っていなかったぞ」
「あれは・・・ダイアナを引き立ててあげようと思ったんです」
「俺から逃げるつもりだったんだろう?」
──その通り。
オスカー様の不機嫌なオーラに、返事を笑顔ではぐらかした。
王宮に到着し、舞踏会場に足を踏み入れると無数の視線が突き刺さってきた。
俯かずに堂々とするの、オスカー様に恥を欠かせてはいけない。
ヒソヒソと悪評高い私を貶める声が途切れ途切れに聞こえてくる。
不思議な世界だ。誰も私の事なんて知りもしないくせに、それが本当の事のように話している。
ダイアナの性格が最悪なのも多くの貴族達は知っている。私の婚約者を誘惑し、そのハワードに離縁されたのも知っている。それでも私を悪者扱いしたいのか、私は異質な貴族世界の生贄、鶏と同等の残酷な世界だ。
「リアナ、大丈夫だ。今から誤解を解いていこう」
「はい大丈夫です。慣れていますから」
オスカー様がシュンとした顔で私の腰を抱き寄せた。
「すまなかった」
過去、ベニー様と一緒に私を嫌うオスカー様の姿は大勢に目撃されてきた。今の私達は周りの目に、茶番な婚約だと映っている。
「もう。何度も謝らないで下さい。私は分かっていますから」
「それでも胸が痛む。悔やんでも悔やみきれない」
こうして私達が親しく話していても、ベニー様への当て付けだと思われているんだろう。
そのベニー様の叔母である王妃殿下、そして陛下、王太子殿下が壇上にお見えになった。
王太子殿下は隣国の可愛らしい姫様をエスコートされている。
陛下のご挨拶が終われば、順次、壇上に伺ってお祝いの言葉を申し上げるのだ。
「王太子殿下に置かれましてはめでたく成人の日を迎えられました事、ご婚約が整われました事、謹んでお慶び申し上げます」
「有難うワイゼン侯爵。貴方も婚約されたんだね、おめでとう。今度は幸せになって欲しい」
「王太子殿下、有難く存じます」
にこやかに話される王太子殿下の傍で、王妃殿下に睨まれているが、私は黙って笑みを浮かべていた。
「ワイゼン侯爵、貴方とは後程ゆるりとお話をさせて頂きたいわ」
去ろうとする私達に王妃殿下は声を掛けてきた。
「ご連絡いただければ登城致します。挙式も迫っておりますゆえ、これでも多忙な身なので」
オスカー様は強気だ、怖くて王妃様のお顔は見れない。
「まぁ、お式が近いのですか?私もぜひ参列させて頂きたいですわ」
何もご存じない、無垢な姫様が申し出て下さった。
「喜んで、ぜひお願い致します。あとが閊えているようです。これにて失礼いたします」
壇上から降りると体が震えてオスカー様にしがみつき、オスカー様は「大丈夫か」と支えてくれた。
そんな私達を周りは遠巻きに見て、悪口は聞こえてこなかった。
楽団の演奏が始まり、王太子殿下と姫様がダンスを披露すると盛大な拍手が起こった。
「リアナ、もう帰ろう」
「いいのですか?ご挨拶に回らなくても」
「ああ、用は済んだ、煩い連中に見つからないうちに消えるとしよう。ダンスはまた今度だ、嫌な予感がする」
ダンスの練習をいっぱいしたのに、残念。オスカー様と1回だけでも踊りたかったな。
踊らないで帰ったらまたヘンな噂が立たないかな。
こんな事いったら危機感が薄いって、オスカー様に怒られるかな。
呑気な私はせっかちなオスカー様にグイグイ引っ張られて、慣れないハイヒールに足が痛い。
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