15 / 21
15
しおりを挟む
王太子殿下の誕生祭は二日間行われる。
オスカー様は初日に早く終わらせたいと仰った。
私はオスカー様の横で静かに微笑むだけでいいと何度も言われている。
廊下に出ると正装姿の輝くオスカー様が待ってくれていた。
黒に赤い刺繍を施した装いの上下は私とお揃いだ。
「はわぁ~・・・」
さりげなく私の瞳の薄い水色を施しているオスカー様が、素敵すぎてため息がでる。
「リアナ綺麗だ。とてもよく似合っている」
「有難うございます。オスカー様も素敵です」
腕を差し出され触れると、どうしようもなく胸が高まる。
こんな日がくるなんて。
使用人たちに見送られて馬車は動き出した。
ジッと見つめるオスカー様の熱い視線に、体は熱を帯びてくる。
「俺ならもっとリアナに似合うドレスを送るのにと、いつも悔しい思いをしていた」
何度も『似合わないな』と彼に言われた。
「そんなに似合っていませんでしたか?」
「いや、俺がドレスを送りたくて嫉妬しただけだ」
「お洒落したつもりだったのに、結構ショックだったんですよ」
「すまなかった。だが迎えに行った日の紺色のドレスは全然似合っていなかったぞ」
「あれは・・・ダイアナを引き立ててあげようと思ったんです」
「俺から逃げるつもりだったんだろう?」
──その通り。
オスカー様の不機嫌なオーラに、返事を笑顔ではぐらかした。
王宮に到着し、舞踏会場に足を踏み入れると無数の視線が突き刺さってきた。
俯かずに堂々とするの、オスカー様に恥を欠かせてはいけない。
ヒソヒソと悪評高い私を貶める声が途切れ途切れに聞こえてくる。
不思議な世界だ。誰も私の事なんて知りもしないくせに、それが本当の事のように話している。
ダイアナの性格が最悪なのも多くの貴族達は知っている。私の婚約者を誘惑し、そのハワードに離縁されたのも知っている。それでも私を悪者扱いしたいのか、私は異質な貴族世界の生贄、鶏と同等の残酷な世界だ。
「リアナ、大丈夫だ。今から誤解を解いていこう」
「はい大丈夫です。慣れていますから」
オスカー様がシュンとした顔で私の腰を抱き寄せた。
「すまなかった」
過去、ベニー様と一緒に私を嫌うオスカー様の姿は大勢に目撃されてきた。今の私達は周りの目に、茶番な婚約だと映っている。
「もう。何度も謝らないで下さい。私は分かっていますから」
「それでも胸が痛む。悔やんでも悔やみきれない」
こうして私達が親しく話していても、ベニー様への当て付けだと思われているんだろう。
そのベニー様の叔母である王妃殿下、そして陛下、王太子殿下が壇上にお見えになった。
王太子殿下は隣国の可愛らしい姫様をエスコートされている。
陛下のご挨拶が終われば、順次、壇上に伺ってお祝いの言葉を申し上げるのだ。
「王太子殿下に置かれましてはめでたく成人の日を迎えられました事、ご婚約が整われました事、謹んでお慶び申し上げます」
「有難うワイゼン侯爵。貴方も婚約されたんだね、おめでとう。今度は幸せになって欲しい」
「王太子殿下、有難く存じます」
にこやかに話される王太子殿下の傍で、王妃殿下に睨まれているが、私は黙って笑みを浮かべていた。
「ワイゼン侯爵、貴方とは後程ゆるりとお話をさせて頂きたいわ」
去ろうとする私達に王妃殿下は声を掛けてきた。
「ご連絡いただければ登城致します。挙式も迫っておりますゆえ、これでも多忙な身なので」
オスカー様は強気だ、怖くて王妃様のお顔は見れない。
「まぁ、お式が近いのですか?私もぜひ参列させて頂きたいですわ」
何もご存じない、無垢な姫様が申し出て下さった。
「喜んで、ぜひお願い致します。あとが閊えているようです。これにて失礼いたします」
壇上から降りると体が震えてオスカー様にしがみつき、オスカー様は「大丈夫か」と支えてくれた。
そんな私達を周りは遠巻きに見て、悪口は聞こえてこなかった。
楽団の演奏が始まり、王太子殿下と姫様がダンスを披露すると盛大な拍手が起こった。
「リアナ、もう帰ろう」
「いいのですか?ご挨拶に回らなくても」
「ああ、用は済んだ、煩い連中に見つからないうちに消えるとしよう。ダンスはまた今度だ、嫌な予感がする」
ダンスの練習をいっぱいしたのに、残念。オスカー様と1回だけでも踊りたかったな。
踊らないで帰ったらまたヘンな噂が立たないかな。
こんな事いったら危機感が薄いって、オスカー様に怒られるかな。
呑気な私はせっかちなオスカー様にグイグイ引っ張られて、慣れないハイヒールに足が痛い。
人の波を縫うように、私達は出口に向かっていた。
既に危険人物からロックオンされているのも気づかずに。
オスカー様は初日に早く終わらせたいと仰った。
私はオスカー様の横で静かに微笑むだけでいいと何度も言われている。
廊下に出ると正装姿の輝くオスカー様が待ってくれていた。
黒に赤い刺繍を施した装いの上下は私とお揃いだ。
「はわぁ~・・・」
さりげなく私の瞳の薄い水色を施しているオスカー様が、素敵すぎてため息がでる。
「リアナ綺麗だ。とてもよく似合っている」
「有難うございます。オスカー様も素敵です」
腕を差し出され触れると、どうしようもなく胸が高まる。
こんな日がくるなんて。
使用人たちに見送られて馬車は動き出した。
ジッと見つめるオスカー様の熱い視線に、体は熱を帯びてくる。
「俺ならもっとリアナに似合うドレスを送るのにと、いつも悔しい思いをしていた」
何度も『似合わないな』と彼に言われた。
「そんなに似合っていませんでしたか?」
「いや、俺がドレスを送りたくて嫉妬しただけだ」
「お洒落したつもりだったのに、結構ショックだったんですよ」
「すまなかった。だが迎えに行った日の紺色のドレスは全然似合っていなかったぞ」
「あれは・・・ダイアナを引き立ててあげようと思ったんです」
「俺から逃げるつもりだったんだろう?」
──その通り。
オスカー様の不機嫌なオーラに、返事を笑顔ではぐらかした。
王宮に到着し、舞踏会場に足を踏み入れると無数の視線が突き刺さってきた。
俯かずに堂々とするの、オスカー様に恥を欠かせてはいけない。
ヒソヒソと悪評高い私を貶める声が途切れ途切れに聞こえてくる。
不思議な世界だ。誰も私の事なんて知りもしないくせに、それが本当の事のように話している。
ダイアナの性格が最悪なのも多くの貴族達は知っている。私の婚約者を誘惑し、そのハワードに離縁されたのも知っている。それでも私を悪者扱いしたいのか、私は異質な貴族世界の生贄、鶏と同等の残酷な世界だ。
「リアナ、大丈夫だ。今から誤解を解いていこう」
「はい大丈夫です。慣れていますから」
オスカー様がシュンとした顔で私の腰を抱き寄せた。
「すまなかった」
過去、ベニー様と一緒に私を嫌うオスカー様の姿は大勢に目撃されてきた。今の私達は周りの目に、茶番な婚約だと映っている。
「もう。何度も謝らないで下さい。私は分かっていますから」
「それでも胸が痛む。悔やんでも悔やみきれない」
こうして私達が親しく話していても、ベニー様への当て付けだと思われているんだろう。
そのベニー様の叔母である王妃殿下、そして陛下、王太子殿下が壇上にお見えになった。
王太子殿下は隣国の可愛らしい姫様をエスコートされている。
陛下のご挨拶が終われば、順次、壇上に伺ってお祝いの言葉を申し上げるのだ。
「王太子殿下に置かれましてはめでたく成人の日を迎えられました事、ご婚約が整われました事、謹んでお慶び申し上げます」
「有難うワイゼン侯爵。貴方も婚約されたんだね、おめでとう。今度は幸せになって欲しい」
「王太子殿下、有難く存じます」
にこやかに話される王太子殿下の傍で、王妃殿下に睨まれているが、私は黙って笑みを浮かべていた。
「ワイゼン侯爵、貴方とは後程ゆるりとお話をさせて頂きたいわ」
去ろうとする私達に王妃殿下は声を掛けてきた。
「ご連絡いただければ登城致します。挙式も迫っておりますゆえ、これでも多忙な身なので」
オスカー様は強気だ、怖くて王妃様のお顔は見れない。
「まぁ、お式が近いのですか?私もぜひ参列させて頂きたいですわ」
何もご存じない、無垢な姫様が申し出て下さった。
「喜んで、ぜひお願い致します。あとが閊えているようです。これにて失礼いたします」
壇上から降りると体が震えてオスカー様にしがみつき、オスカー様は「大丈夫か」と支えてくれた。
そんな私達を周りは遠巻きに見て、悪口は聞こえてこなかった。
楽団の演奏が始まり、王太子殿下と姫様がダンスを披露すると盛大な拍手が起こった。
「リアナ、もう帰ろう」
「いいのですか?ご挨拶に回らなくても」
「ああ、用は済んだ、煩い連中に見つからないうちに消えるとしよう。ダンスはまた今度だ、嫌な予感がする」
ダンスの練習をいっぱいしたのに、残念。オスカー様と1回だけでも踊りたかったな。
踊らないで帰ったらまたヘンな噂が立たないかな。
こんな事いったら危機感が薄いって、オスカー様に怒られるかな。
呑気な私はせっかちなオスカー様にグイグイ引っ張られて、慣れないハイヒールに足が痛い。
人の波を縫うように、私達は出口に向かっていた。
既に危険人物からロックオンされているのも気づかずに。
19
お気に入りに追加
710
あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

政略結婚で「新興国の王女のくせに」と馬鹿にされたので反撃します
nanahi
恋愛
政略結婚により新興国クリューガーから因習漂う隣国に嫁いだ王女イーリス。王宮に上がったその日から「子爵上がりの王が作った新興国風情が」と揶揄される。さらに側妃の陰謀で王との夜も邪魔され続け、次第に身の危険を感じるようになる。
イーリスが邪険にされる理由は父が王と交わした婚姻の条件にあった。財政難で困窮している隣国の王は巨万の富を得たイーリスの父の財に目をつけ、婚姻を打診してきたのだ。資金援助と引き換えに父が提示した条件がこれだ。
「娘イーリスが王子を産んだ場合、その子を王太子とすること」
すでに二人の側妃の間にそれぞれ王子がいるにも関わらずだ。こうしてイーリスの輿入れは王宮に波乱をもたらすことになる。

この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」
ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる
婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。
それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。
グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。
将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。
しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。
婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。
一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。
一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。
「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる