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実家に戻ると父から直ぐに嫁に出すと言われた。
元々私は実家に居場所は無い。
私は父の愛人の子で5歳から12歳まで修道院に預けられていたのだ。
父に捨てられた母は私を友人のシスター・マーベルに託し、姿を消した。
シスター・マーベルは私にとって母親のような存在だった。
シスターのようになりたいと私はずっと思っていた。
そんな願いは叶わず、私はセルマー伯爵家に引き取られ、すぐにハワードと婚約させられた。
ポッチャリして可愛い顔のハワードと私は最初は仲が良かった。
でもダイアナに誘惑されてハワードは私を裏切ったのだ。
「いいかリアナ、この婚姻は失敗するんじゃないぞ!」
「婚姻? 婚約ではないのですか?」
「チッ!」と舌打ちした不機嫌な父に代わって義兄のトーマスが私に事情を説明した。
婚姻相手の名前を聞いて驚愕とする。
──オスカー・ワイゼン侯爵。
真っ黒な髪と赤い瞳の悪魔。
過去に、ベニー様と共に何度も私を罵倒した男、オスカー。
嫌がらせで私に求婚したとしか思えない。
オスカー様はベニー様と昨年に離縁している。
私を再婚相手に選ぶなんて、何を考えているんだろう。
ハワードとアランが義姉の嘘に惑わされたのはベニー様の悪意も関係していた。
──ベニー・ネイラム伯爵令嬢。
王妃様の姪である彼女は私に攻撃的だった。
ダイアナの嘘に便乗して私を見かけると罵り、私は学園で孤立させられ、そんな私を婚約者だったハワードは庇う事もなく離れていった。
侯爵に嫁ぐより修道院に行く方がマシと告げると、義兄は実家の苦しい財政状況を長々と説明した。
「侯爵はうちの支援を申し出てくれている。リアナは身一つで嫁げばいいそうだ。有難い話だ。
次の婚約・婚姻まで2か月の待期期間があるが、侯爵から直ぐに侯爵家に来るよう要求もされている」
すべて聞き終えると胃が熱い鉛を飲み込んだように痛む。
「吐きそうです・・・」
「あ・・実は他からもお前への婚姻の話が来ているんだ、ハワードとか・・・」
「どうして今更、そんな」
「ダイアナの子をお前に育てて欲しいそうだ。叔母になるし」
甥は可哀そうだが、ハワードとの再婚など考えられない。
「ハワードはダイアナを選んで後悔していた」
「それでも嫌です」
「ハワードには断った。だからリアナ、侯爵と結婚してセルマー家を救ってくれ、頼む、すまない!」
「そんな・・・お兄様だってオスカー様が私を嫌悪していたのをご存じでしょう」
「そこはリアナを大事に扱うように侯爵に頼んである。幸せにしてくれるはずだ」
今の私に義兄はどうして結婚して幸せになれると思うのか。
その後、私は胃痛で寝込んでしまった。
***
翌日、オスカー・ワイゼン侯爵が訪れた。
きちんと正装した姿は立派な美丈夫だ。
真っ赤な薔薇の花束と、義兄夫婦に沢山のプレゼントを用意してくれた。
彼が知らない人だったなら好感を持ったかもしれない。
「花束はリアナ嬢に」
低音で魅力的な声、以前はこの声で嫌味を言われて怖い思いをした。
「有難うございます」
花束を受け取り、侯爵と目が合うとスーッと逸らされた。
本当に私なんかを妻にしたいのだろうか。
侯爵は私より2歳年上の21歳。兄よりも年下だが落ち着いて貫禄がある。
「話は聞いてくれているな?」
「はい」
「では明日改めて迎えに来るので準備をしておいてくれ」
「わかりました」
今日は求婚ということか。そんな言葉はなかったけど。
「顔色が悪いが大丈夫なのか?」
「大丈夫です」
まだ少し胃が痛い。
「あの、私で本当にいいのですか?」
「ああ構わない」
「そうですか」
僅か数十分で侯爵は帰って、入れ替えにダイアナが戻って来た。
「ワイゼン侯爵家の馬車だったわ?どんな御用だったの?」
義兄に私との婚姻の話を聞くと義姉は喚きだした。
「どういうこと?リアナはハワードと再婚すればいいのよ!」
「はぁ?なぜそうなるんだ?」
「だってハワードはリアナと結婚するべきだったと言ったのよ。だから身を引いてあげたのに」
勝手な言い草に返す言葉もない。
「バカ言ってないで、さっさとアランと再婚してしまえ。お前の面倒見る余裕はないんだよ!」
「いやよ、アランは素敵だけど、お金持ちじゃないもの」
サロンに置かれたプレゼントを見ながらダイアナは手をパン!と叩いた。
「そうだ私が侯爵と再婚するわ。アランはリアナに返してあげる!」
呆れた。義姉はまたアランを裏切るつもりだ。
「明日、侯爵様が迎えに来るからお姉様から頼んでみて下さい」
返してもらっても、中身が15歳のアランとやり直す気力など残ってはいない。
元々私は実家に居場所は無い。
私は父の愛人の子で5歳から12歳まで修道院に預けられていたのだ。
父に捨てられた母は私を友人のシスター・マーベルに託し、姿を消した。
シスター・マーベルは私にとって母親のような存在だった。
シスターのようになりたいと私はずっと思っていた。
そんな願いは叶わず、私はセルマー伯爵家に引き取られ、すぐにハワードと婚約させられた。
ポッチャリして可愛い顔のハワードと私は最初は仲が良かった。
でもダイアナに誘惑されてハワードは私を裏切ったのだ。
「いいかリアナ、この婚姻は失敗するんじゃないぞ!」
「婚姻? 婚約ではないのですか?」
「チッ!」と舌打ちした不機嫌な父に代わって義兄のトーマスが私に事情を説明した。
婚姻相手の名前を聞いて驚愕とする。
──オスカー・ワイゼン侯爵。
真っ黒な髪と赤い瞳の悪魔。
過去に、ベニー様と共に何度も私を罵倒した男、オスカー。
嫌がらせで私に求婚したとしか思えない。
オスカー様はベニー様と昨年に離縁している。
私を再婚相手に選ぶなんて、何を考えているんだろう。
ハワードとアランが義姉の嘘に惑わされたのはベニー様の悪意も関係していた。
──ベニー・ネイラム伯爵令嬢。
王妃様の姪である彼女は私に攻撃的だった。
ダイアナの嘘に便乗して私を見かけると罵り、私は学園で孤立させられ、そんな私を婚約者だったハワードは庇う事もなく離れていった。
侯爵に嫁ぐより修道院に行く方がマシと告げると、義兄は実家の苦しい財政状況を長々と説明した。
「侯爵はうちの支援を申し出てくれている。リアナは身一つで嫁げばいいそうだ。有難い話だ。
次の婚約・婚姻まで2か月の待期期間があるが、侯爵から直ぐに侯爵家に来るよう要求もされている」
すべて聞き終えると胃が熱い鉛を飲み込んだように痛む。
「吐きそうです・・・」
「あ・・実は他からもお前への婚姻の話が来ているんだ、ハワードとか・・・」
「どうして今更、そんな」
「ダイアナの子をお前に育てて欲しいそうだ。叔母になるし」
甥は可哀そうだが、ハワードとの再婚など考えられない。
「ハワードはダイアナを選んで後悔していた」
「それでも嫌です」
「ハワードには断った。だからリアナ、侯爵と結婚してセルマー家を救ってくれ、頼む、すまない!」
「そんな・・・お兄様だってオスカー様が私を嫌悪していたのをご存じでしょう」
「そこはリアナを大事に扱うように侯爵に頼んである。幸せにしてくれるはずだ」
今の私に義兄はどうして結婚して幸せになれると思うのか。
その後、私は胃痛で寝込んでしまった。
***
翌日、オスカー・ワイゼン侯爵が訪れた。
きちんと正装した姿は立派な美丈夫だ。
真っ赤な薔薇の花束と、義兄夫婦に沢山のプレゼントを用意してくれた。
彼が知らない人だったなら好感を持ったかもしれない。
「花束はリアナ嬢に」
低音で魅力的な声、以前はこの声で嫌味を言われて怖い思いをした。
「有難うございます」
花束を受け取り、侯爵と目が合うとスーッと逸らされた。
本当に私なんかを妻にしたいのだろうか。
侯爵は私より2歳年上の21歳。兄よりも年下だが落ち着いて貫禄がある。
「話は聞いてくれているな?」
「はい」
「では明日改めて迎えに来るので準備をしておいてくれ」
「わかりました」
今日は求婚ということか。そんな言葉はなかったけど。
「顔色が悪いが大丈夫なのか?」
「大丈夫です」
まだ少し胃が痛い。
「あの、私で本当にいいのですか?」
「ああ構わない」
「そうですか」
僅か数十分で侯爵は帰って、入れ替えにダイアナが戻って来た。
「ワイゼン侯爵家の馬車だったわ?どんな御用だったの?」
義兄に私との婚姻の話を聞くと義姉は喚きだした。
「どういうこと?リアナはハワードと再婚すればいいのよ!」
「はぁ?なぜそうなるんだ?」
「だってハワードはリアナと結婚するべきだったと言ったのよ。だから身を引いてあげたのに」
勝手な言い草に返す言葉もない。
「バカ言ってないで、さっさとアランと再婚してしまえ。お前の面倒見る余裕はないんだよ!」
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サロンに置かれたプレゼントを見ながらダイアナは手をパン!と叩いた。
「そうだ私が侯爵と再婚するわ。アランはリアナに返してあげる!」
呆れた。義姉はまたアランを裏切るつもりだ。
「明日、侯爵様が迎えに来るからお姉様から頼んでみて下さい」
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