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3 ユキ
しおりを挟む「あ、今日から夏休みだった」
朝、目覚めた私は台所に向かった。
「おはよー。私はトーストがいい」
「ユキ、夏休み中は自分でやりなさい。受験勉強もちゃんとやるのよ」
「うっさいなぁ」
「親に向かってなに?」
食パンをトースターに入れると父が来た。
「おい、トイレのスリッパがないぞ?」
「取り替えようと思って新しいの買ってあるけど、なんで無いのかしらね?」
「ハンカチが落ちていた」
獅子のようなエンブレムを刺繍した立派なハンカチだった。
「爺さんのかな?」
「さぁ、スリッパを出してくるわ」
母が廊下に出ると、祖父が祖母を相手に騒いでいるのが聞こえる。
「爪を切っていたら消えたんじゃぁあ。この輪ゴムが急に現れて・・・」
「いやだねぇ、爺さん惚けたのかい?」
「婆さん本当なんじゃ、信じてくれ、爪切りが消えたぁあ!」
「はぁ~ 朝から、うっさいなぁ」
「ユキ!」
父が出勤すると煩い母もパートに出かけ、私は洗面台に向かった。
「あれ?歯磨きがない、お姉ちゃんの歯ブラシもない???」
そこにはなぜかフォークとナイフが置いてあった。
「なんでこんな所に?」
歯磨きの新品を出して、ナイフとフォークは台所の流し台に持っていった。
勉強する気にもなれず漫画を読んでいると10時過ぎに、お姉ちゃんの友人の萌さんから電話がかかってきた。私も誘ってカラオケに行く約束をしたが、待っても来ないと言う。
「お姉ちゃん!電話~」叫びながら2階に上がったが姿が無い、机にはカップラーメンの空容器が。
「おーいどこだ!・・・いないじゃん」
お姉ちゃんがいないと知らせると、萌さんはカラオケBoxに向かってみると言って電話を切った。
萌さんとの待ち合わせ場所を間違えたのか?なんで私を誘ってくれなかったんだろう。
ちょっと腹が立ったけど、優しいお姉ちゃんらしくない。
「まさかまた事故にあったんじゃないよね・・・」
急に心配になり、もう一度お姉ちゃんの部屋に行くとスマホはベッドの上に置いてあった。
昨日着ていたTシャツとハーフパンツが洗濯籠にもどこにもない。
(着替えてない?じゃぁまだ家にいるの?)
家中探し、敷地内、畑も見たけど見つけられなかった。
やがて正午になって萌さんが家に来た。
「萌さん、お姉ちゃんがどこにもいないの」
「私も心当たりを探したんだけど居なかった」
「服を着替えてないから、出かけてないと思うんだけど」
私が話していると萌さんが「まさか!」と泣きそうな顔をした。
お姉ちゃんは昨日、タケ先輩に振られて『死にたい・・・』と泣いたそうだ。
「アイツ!二股なんて、最低!」
「ユキちゃんそれよりミオを探さないと」
「でも探したけど、どこにも見つからないよ」
「・・・・・は!もしかしたら海に・・・」
「いやぁあ、やめてぇぇ!」
それからは両親に連絡して、警察にも知らせて大騒ぎになった。
いつ、部屋から消えたのか分からない。靴も全部残っている。捜索は夜まで続いたがお姉ちゃんは見つからなかった。
竹本武夫のせいでお姉ちゃんが行方不明になったと町中で噂になり、タケは外に出られなくなった。
「また明日朝から捜索を開始します。家出、誘拐も視野に入れましょう」
警察に言われて、居間で家族全員が緊迫した夜を迎えていた。
みんな疲労で疲れ切っていた。
「タケなんかの為に死んだりしないよ。誘拐じゃないの?お姉ちゃん美人だし狙われていたのかも」
「そんな・・・ぅぅう」と母が泣き出す。
監禁なんかされていたらどうしよう。
「神隠しじゃ、儂の爪切りも消えたんじゃ!この輪ゴムが!」
「輪ゴム。髪を括るのはミオちゃんだけだから、ミオちゃんのよね」
受け取った母が、黒い輪ゴムを握りしめる。
「そういえば、スリッパも消えたな」
「お姉ちゃんのハブラシも無いよ?お母さんナイフとフォークはなんで洗面台に置いたの?」
「置かないわよ」
全員で台所に行って流し台のナイフとフォークを見ると、我が家のではなく高級な感じがする。
「おい、ハンカチはどこにやった?」
母がエプロンのポケットから出すと、これも我が家の物じゃない。
「何かおかしい、変だぞ」
父が台所を見渡して「あ!」と棚を指さした。
食パンとトースターが消えており、そこにはお皿とガラスコップが置かれてあった。
「犯人は我が家の物を自分の持ち物と交換しているのか、じゃぁミオと何かを交換したのか?」
「ねぇ、変わったものが存在しないか調べてみようよ。何か手掛かりがあるかもしれないよ」
私達は家中を探し回った。
「あった!」
母の声に床下収納を覗くと、外国の銅貨が数枚置いてあって、代わりにペットボトルの炭酸飲料水が数本消えている。
「ここにも」
カップラーメンが消えて、綺麗な青石が数個見つかった。
「なにこれ、どういうことなの?」
朝から何者かが侵入していたんだ。そしてお姉ちゃんを誘拐したんだ!
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