ボロボロに傷ついた令嬢は初恋の彼の心に刻まれた

ミカン♬

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後日談 再会

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 1週間の船旅を終えてセルリアン一行はハイビスカス国に到着しようとしていた。

「リアン、あれは?」
 ナターシャが空を指す先には飛行船が浮かんでいる。

「大帝国の飛行船だね。まさかこの国に発着場があるのか?」

 ハイビスカス国の港に到着してセルリアンはこの国に対する認識を誤っていた事に気づいた。
 王国よりも整備された賑やかな港、立派な建物が立ち並び大勢の人々が行き来している。

 船が到着すると王宮からの使者が来ており「お待ちしておりました」と世界共通語で出迎えた。

 広道も整備され両脇には国花のハイビスカスの花が咲き誇っている。馬車は揺れることなく快適に走り道路には見た事のない乗り物が何台も走っていた。それはまるで馬車の箱の部分だけが走っているように見える。

「あれはなんだ?」

ビスカーという乗り物で人力で走るのです。小型ビスカーですと少ない荷物や、人間なら2人乗せて走れます。ここでは結構普及しています」
 褐色の使者はすました顔で答えた。


 海沿いの道路を数十分走ると白い巨大な宮殿が見えてきた。

 宮殿に到着し部屋に案内されると正装に着替えて、王太子夫妻は国王の謁見に向かう。
 ラフな服装の国王は友好的でセルリアン夫妻を大歓迎してくれた。

 叔父のアレンに会いに来たと伝えると「歓迎の宴を開くのでその時に会えるだろう。彼は娘の婿殿なのだよ」と話してセルリアンを驚かせた。

 部屋に戻るとこの国の正装だという衣装を用意された。部屋付きのメイド達は平民のようだが共通語で丁寧に説明してくれる。国の教育水準も思ったより高そうだ。

「国王のラフな格好は正装だったんだね」
「そうですね。暑いからこれは涼しくて良いですね」

 ナターシャはゆったりとした木綿の花柄ドレス、セルリアンは派手なデザインのシャツに綿のパンツスタイルに着替えると、二人は宴会場に案内され国王の傍に立った。


 国王によって参加者達に紹介され、挨拶と乾杯が済むと叔父のアレンが駆け寄って来る。

「叔父上!ご無沙汰しています。お変わりありませんでしたか?」
「よく来たなセルリアン、待っていたよ。妻を紹介しよう」

 セルリアンとナターシャは声を失った。
 紹介された女性はアリシアに見える。だが日焼けした健康そうな姿は記憶の中のアリシアとは違う、生き生きして輝くばかりの美貌を誇っている。

「アレンの妻のアリアでございます」
「アリアはハイビスカス国の第五王女なんだ」

「初めまして・・・」と挨拶を返したセルリアンは(っ!そんな訳あるか!)と内心で舌打ちした。
 褐色の王の娘な訳が無い。彼女はアリシアだ!肩から背にかけて大きな傷があるはずだ。

 だがアレンから無言の圧力を感じて何も言えなかった。
(国王の養女、そして叔父上の妻になったのか)
 
「俺はこの国でアリアの婿になってね、今はヒューゼン公爵家と共同でリゾート開発をやってるんだ」

「そうでしたか。ハイビスカス国がこのような発展した国だとは驚きました」

「うん、高級リゾート地を作ろうと思ってね。まだ開発途中だが幸い他国の貴族にも知り合いが多いので上手くいってるよ。ところで俺に何か用があったのか?」

「ここではちょっと・・・・」

「そうか、後で話し合おう。その前に宴会に参加している俺の知り合いを紹介するよ」

 アレンは他国の高位貴族を次々とセルリアンに紹介した。そして最後に大帝国の美しい皇女の前で足を止めた。

「少し宜しいでしょうかアドニス皇女殿下。私の甥夫婦を紹介させて頂けますか?」
「まぁアレンったら!他人行儀な話し方は止めてちょうだい」

 皇女はアレンの腕に躊躇なく抱き着いてセルリアンに熱いまなざしを向ける。大帝国の皇女と親密なアレンに驚きながらもセルリアンはアドニス皇女に一礼した。

「ナバール王国王太子のセルリアンと申します。そして妻のナターシャです」
「まぁ本当にアレン様に似ていらっしゃいますわね。素敵!」

「可愛い甥なんだ。苛めないでやってくれよ」
「酷いわ、そうだセルリアン様、飛行船でぜひ帝国にもいらして下さいませ」

 セルリアンよりも4歳年下のアドニス皇女は積極的にセルリアンに話しかけてくる。隣で無視されたナターシャが不機嫌になるのを感じながらセルリアンは皇女と会話を続けていた。


「王太子妃がそのようなお顔をなさってはいけませんわ。誰もが貴方に注目していますのよ」
 アリアに小声で囁かれてナターシャはハッとした。

「よろしければあちらで飲み物でもどうですか?王太子殿下、どうも妃殿下はお疲れのようですわ」
「ああ、休んでいると良いよ、ナターシャ」


 頬を染めて夫のセルリアンと話しているアドニス皇女をナターシャは遠い目で見つめていた。

「王妃の次は宰相の横暴、本当にあの国は腐っていますわね。側妃に迎えるのは悪い話ではないけど宰相の手駒令嬢では頂けませんわね」

 飲み物を差し出し唐突に側妃の話を始めたアリアにナターシャは返事に迷った。
「側妃・・・そんな話は・・・」

「5年間お子が授からないなら、避けて通れない話ですわ」
「アリシア様・・・」

「セルリアン殿下には強力な助けが必要よ。無力な貴方が出来るのは黙って認めることだわ」
「側妃を認める・・・」
「彼を守りたいと思わないの?」

「アリシア様は身を挺してリアンを守りましたね」
「貴方は黙って彼を守りなさい。私が命懸けで守ったセルリアン様を」

 アリシアの厳しい眼差しにナターシャは、彼女は未だセルリアンに未練があるのだと思えた。

「アレン様を愛していますか?」
「ええ、だって殿下にお顔がそっくりでしょう?それに頼りになるし、なんのしがらみも無く私だけを愛してくれるのよ。ふふふ」

 幸福そうに笑うアリシアをナターシャは心底羨ましく思うのだった。



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 *ビスカー=自転車タクシーみたいな乗り物です。

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