9 / 11
後日談 再会
しおりを挟む1週間の船旅を終えてセルリアン一行はハイビスカス国に到着しようとしていた。
「リアン、あれは?」
ナターシャが空を指す先には飛行船が浮かんでいる。
「大帝国の飛行船だね。まさかこの国に発着場があるのか?」
ハイビスカス国の港に到着してセルリアンはこの国に対する認識を誤っていた事に気づいた。
王国よりも整備された賑やかな港、立派な建物が立ち並び大勢の人々が行き来している。
船が到着すると王宮からの使者が来ており「お待ちしておりました」と世界共通語で出迎えた。
広道も整備され両脇には国花のハイビスカスの花が咲き誇っている。馬車は揺れることなく快適に走り道路には見た事のない乗り物が何台も走っていた。それはまるで馬車の箱の部分だけが走っているように見える。
「あれはなんだ?」
「ビスカーという乗り物で人力で走るのです。小型ビスカーですと少ない荷物や、人間なら2人乗せて走れます。ここでは結構普及しています」
褐色の使者はすました顔で答えた。
海沿いの道路を数十分走ると白い巨大な宮殿が見えてきた。
宮殿に到着し部屋に案内されると正装に着替えて、王太子夫妻は国王の謁見に向かう。
ラフな服装の国王は友好的でセルリアン夫妻を大歓迎してくれた。
叔父のアレンに会いに来たと伝えると「歓迎の宴を開くのでその時に会えるだろう。彼は娘の婿殿なのだよ」と話してセルリアンを驚かせた。
部屋に戻るとこの国の正装だという衣装を用意された。部屋付きのメイド達は平民のようだが共通語で丁寧に説明してくれる。国の教育水準も思ったより高そうだ。
「国王のラフな格好は正装だったんだね」
「そうですね。暑いからこれは涼しくて良いですね」
ナターシャはゆったりとした木綿の花柄ドレス、セルリアンは派手なデザインのシャツに綿のパンツスタイルに着替えると、二人は宴会場に案内され国王の傍に立った。
国王によって参加者達に紹介され、挨拶と乾杯が済むと叔父のアレンが駆け寄って来る。
「叔父上!ご無沙汰しています。お変わりありませんでしたか?」
「よく来たなセルリアン、待っていたよ。妻を紹介しよう」
セルリアンとナターシャは声を失った。
紹介された女性はアリシアに見える。だが日焼けした健康そうな姿は記憶の中のアリシアとは違う、生き生きして輝くばかりの美貌を誇っている。
「アレンの妻のアリアでございます」
「アリアはハイビスカス国の第五王女なんだ」
「初めまして・・・」と挨拶を返したセルリアンは(っ!そんな訳あるか!)と内心で舌打ちした。
褐色の王の娘な訳が無い。彼女はアリシアだ!肩から背にかけて大きな傷があるはずだ。
だがアレンから無言の圧力を感じて何も言えなかった。
(国王の養女、そして叔父上の妻になったのか)
「俺はこの国でアリアの婿になってね、今はヒューゼン公爵家と共同でリゾート開発をやってるんだ」
「そうでしたか。ハイビスカス国がこのような発展した国だとは驚きました」
「うん、高級リゾート地を作ろうと思ってね。まだ開発途中だが幸い他国の貴族にも知り合いが多いので上手くいってるよ。ところで俺に何か用があったのか?」
「ここではちょっと・・・・」
「そうか、後で話し合おう。その前に宴会に参加している俺の知り合いを紹介するよ」
アレンは他国の高位貴族を次々とセルリアンに紹介した。そして最後に大帝国の美しい皇女の前で足を止めた。
「少し宜しいでしょうかアドニス皇女殿下。私の甥夫婦を紹介させて頂けますか?」
「まぁアレンったら!他人行儀な話し方は止めてちょうだい」
皇女はアレンの腕に躊躇なく抱き着いてセルリアンに熱いまなざしを向ける。大帝国の皇女と親密なアレンに驚きながらもセルリアンはアドニス皇女に一礼した。
「ナバール王国王太子のセルリアンと申します。そして妻のナターシャです」
「まぁ本当にアレン様に似ていらっしゃいますわね。素敵!」
「可愛い甥なんだ。苛めないでやってくれよ」
「酷いわ、そうだセルリアン様、飛行船でぜひ帝国にもいらして下さいませ」
セルリアンよりも4歳年下のアドニス皇女は積極的にセルリアンに話しかけてくる。隣で無視されたナターシャが不機嫌になるのを感じながらセルリアンは皇女と会話を続けていた。
「王太子妃がそのようなお顔をなさってはいけませんわ。誰もが貴方に注目していますのよ」
アリアに小声で囁かれてナターシャはハッとした。
「よろしければあちらで飲み物でもどうですか?王太子殿下、どうも妃殿下はお疲れのようですわ」
「ああ、休んでいると良いよ、ナターシャ」
頬を染めて夫のセルリアンと話しているアドニス皇女をナターシャは遠い目で見つめていた。
「王妃の次は宰相の横暴、本当にあの国は腐っていますわね。側妃に迎えるのは悪い話ではないけど宰相の手駒令嬢では頂けませんわね」
飲み物を差し出し唐突に側妃の話を始めたアリアにナターシャは返事に迷った。
「側妃・・・そんな話は・・・」
「5年間お子が授からないなら、避けて通れない話ですわ」
「アリシア様・・・」
「セルリアン殿下には強力な助けが必要よ。無力な貴方が出来るのは黙って認めることだわ」
「側妃を認める・・・」
「彼を守りたいと思わないの?」
「アリシア様は身を挺してリアンを守りましたね」
「貴方は黙って彼を守りなさい。私が命懸けで守ったセルリアン様を」
アリシアの厳しい眼差しにナターシャは、彼女は未だセルリアンに未練があるのだと思えた。
「アレン様を愛していますか?」
「ええ、だって殿下にお顔がそっくりでしょう?それに頼りになるし、なんのしがらみも無く私だけを愛してくれるのよ。ふふふ」
幸福そうに笑うアリシアをナターシャは心底羨ましく思うのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~
*ビスカー=自転車タクシーみたいな乗り物です。
120
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる