5 / 11
アリシアの死
しおりを挟む
アレンとアリシアの婚約の噂はあっという間に広まった。
王弟との婚約。本来なら羨望されるのだがアリシアには同情が集まった。
アレンは変わらず放蕩生活で女性たちと浮名を流し、アリシアを軽視していた。
その年のデビュタントに参加したアリシアは父親がエスコートしてアレンの姿はなかった。
貴族が開催する夜会にもアレンはどこかの未亡人を伴って現れたり、他の女性に有名店で高価な宝石をプレゼントしていたのが目撃されたりして、噂好きな貴族たちの格好のエサになった。
セルリアンは18歳になりナターシャと正式に婚約が決まった。
婚約者のお披露目のパーティが王宮で行われると、アレンはアリシアを伴って参加した。
祝いの言葉と祝い品を次々と受け取っていると、アレンとアリシアが挨拶に来た。
アリシアはハイネックの胸元のレースが美しい赤いドレスを身に纏っていた。
その姿は月の女神の如く、息を呑むほど神々しく美しかった。
美丈夫なアレンとはお似合いで、周囲からも称賛のため息が漏れた。
ナターシャは愛くるしい令嬢であるが美しさの比ではアリシアの足元にも及ばない。
それでもセルリアンはナターシャを選んだのだ、ただ優しくてたおやかなナターシャを。
王妃は体調を崩して参加していない。
まだ反対しているのだと思われた。
「殿下、ナターシャ様、この度はご婚約おめでとうございます」
「ありがとう。二人も婚約おめでとう。とてもお似合いだ」
一瞬アリシアの表情が曇ったが、にこやかなアレンに促されてその場を離れていった。
「アリシア様は幸福なのでしょうか」
ナターシャはポツリと呟いて、二人を目で追った。
アレンはもう令嬢達に囲まれて酒を飲んでいる。
アリシアは離れた場所で所在なく壁の花となっていた。
「相手がアレン叔父ではこの先も苦労するだろう。だが私達には関係の無いことだ」
「冷酷王子・・・」
「君は優しいね。さあ笑って、今日はおめでたい日だ」
優しいナターシャの顔が僅かに歪んで、二人の胸に僅かな黒いシミが広がった。
学園の卒業パーティにアリシアは一人で参加していた。
『冷酷王子には選ばれず、放蕩王弟にも愛されない傷物令嬢』
『アリシア様は公爵にも見放された気の毒な公爵令嬢』
────そんな印象を卒業生達の心に残して、アリシアは再び社交界から消えた。
それから二か月後、アリシアが病死したと連絡が入った。
療養中の領地で突然亡くなったと聞いて、セルリアンはアリシアが自害したのだと思った。
ナターシャも同じ考えだった。
「私は側妃を受け入れるべきだったのかしら」
「拒んだのは私だ。何も考えるなナターシャ。忘れるんだ」
「罪悪感は無いの?リアンはアリシア様に命を救われたのよ?」
「無いと言えば嘘になる。私はあの時刺されて死ねば良かったのか?」
「いいえ。でも私達は余りにもアリシア様に不誠実だった」
「偽善だ。今更、そんな話が何になるんだ。彼女はもういないんだ」
優しいナターシャはアリシアを哀れに思い泣いている。
やはりアリシアは酷い令嬢だ。死んで一生私達を苦しめるのだ。
胸が張り裂けそうに苦しい。すまなかった。
────アリシア許して欲しい。
私はもっと貴方に何かできたはずだ。けど何もしなかった。
アリシアは密葬された。それが自害の事実を物語っている。
王家の参列も拒否された。
アレン叔父は醜聞から逃げるように他国に渡ってしまった。
外務大臣になるのではなかったのか?
あんな放蕩人間に務まる筈もない。
アリシアはもういない。
婚姻の準備を始めて私達は今、幸福の絶頂にいるはずだ。
────笑え。私達は幸福なのだと。
将来立派な王と王妃になることだけを考えるんだ。
セルリアンは自責の念に無理やり蓋をし、心の奥底にアリシアへの想いを閉じ込めたのだった。
王弟との婚約。本来なら羨望されるのだがアリシアには同情が集まった。
アレンは変わらず放蕩生活で女性たちと浮名を流し、アリシアを軽視していた。
その年のデビュタントに参加したアリシアは父親がエスコートしてアレンの姿はなかった。
貴族が開催する夜会にもアレンはどこかの未亡人を伴って現れたり、他の女性に有名店で高価な宝石をプレゼントしていたのが目撃されたりして、噂好きな貴族たちの格好のエサになった。
セルリアンは18歳になりナターシャと正式に婚約が決まった。
婚約者のお披露目のパーティが王宮で行われると、アレンはアリシアを伴って参加した。
祝いの言葉と祝い品を次々と受け取っていると、アレンとアリシアが挨拶に来た。
アリシアはハイネックの胸元のレースが美しい赤いドレスを身に纏っていた。
その姿は月の女神の如く、息を呑むほど神々しく美しかった。
美丈夫なアレンとはお似合いで、周囲からも称賛のため息が漏れた。
ナターシャは愛くるしい令嬢であるが美しさの比ではアリシアの足元にも及ばない。
それでもセルリアンはナターシャを選んだのだ、ただ優しくてたおやかなナターシャを。
王妃は体調を崩して参加していない。
まだ反対しているのだと思われた。
「殿下、ナターシャ様、この度はご婚約おめでとうございます」
「ありがとう。二人も婚約おめでとう。とてもお似合いだ」
一瞬アリシアの表情が曇ったが、にこやかなアレンに促されてその場を離れていった。
「アリシア様は幸福なのでしょうか」
ナターシャはポツリと呟いて、二人を目で追った。
アレンはもう令嬢達に囲まれて酒を飲んでいる。
アリシアは離れた場所で所在なく壁の花となっていた。
「相手がアレン叔父ではこの先も苦労するだろう。だが私達には関係の無いことだ」
「冷酷王子・・・」
「君は優しいね。さあ笑って、今日はおめでたい日だ」
優しいナターシャの顔が僅かに歪んで、二人の胸に僅かな黒いシミが広がった。
学園の卒業パーティにアリシアは一人で参加していた。
『冷酷王子には選ばれず、放蕩王弟にも愛されない傷物令嬢』
『アリシア様は公爵にも見放された気の毒な公爵令嬢』
────そんな印象を卒業生達の心に残して、アリシアは再び社交界から消えた。
それから二か月後、アリシアが病死したと連絡が入った。
療養中の領地で突然亡くなったと聞いて、セルリアンはアリシアが自害したのだと思った。
ナターシャも同じ考えだった。
「私は側妃を受け入れるべきだったのかしら」
「拒んだのは私だ。何も考えるなナターシャ。忘れるんだ」
「罪悪感は無いの?リアンはアリシア様に命を救われたのよ?」
「無いと言えば嘘になる。私はあの時刺されて死ねば良かったのか?」
「いいえ。でも私達は余りにもアリシア様に不誠実だった」
「偽善だ。今更、そんな話が何になるんだ。彼女はもういないんだ」
優しいナターシャはアリシアを哀れに思い泣いている。
やはりアリシアは酷い令嬢だ。死んで一生私達を苦しめるのだ。
胸が張り裂けそうに苦しい。すまなかった。
────アリシア許して欲しい。
私はもっと貴方に何かできたはずだ。けど何もしなかった。
アリシアは密葬された。それが自害の事実を物語っている。
王家の参列も拒否された。
アレン叔父は醜聞から逃げるように他国に渡ってしまった。
外務大臣になるのではなかったのか?
あんな放蕩人間に務まる筈もない。
アリシアはもういない。
婚姻の準備を始めて私達は今、幸福の絶頂にいるはずだ。
────笑え。私達は幸福なのだと。
将来立派な王と王妃になることだけを考えるんだ。
セルリアンは自責の念に無理やり蓋をし、心の奥底にアリシアへの想いを閉じ込めたのだった。
116
お気に入りに追加
358
あなたにおすすめの小説
ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません
野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、
婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、
話の流れから婚約を解消という話にまでなった。
ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、
絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。
都合のいい女は卒業です。
火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。
しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。
治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。
どちらが王家に必要とされているかは明白だった。
「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」
だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。
しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。
この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。
それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。
「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」
2025年何かが起こる!?~予言/伝承/自動書記/社会問題等を取り上げ紹介~
ゆっち
エッセイ・ノンフィクション
2025年に纏わるさまざまな都市伝説、予言、社会問題などを考察を加えて紹介します。
【予言系】
・私が見た未来
・ホピ族の予言
・日月神示の預言
・インド占星術の予言
など
【経済・社会的課題】
・2025年問題
・2025年の崖
・海外展開行動計画2025
など
【災害予測】
・大規模太陽フレア
・南海トラフ巨大地震
など
※運営様にカテゴリーや内容について確認して頂きました所、内容に関して特に問題はないが、カテゴリーが違うとの事のでホラー・ミステリーから「エッセイ・ノンフィクション」へカテゴリー変更しました。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
【完結】私、妖精王の娘ですけど、捨てちゃって大丈夫ですか?
るあか
ファンタジー
「わたくし、王族になりますの。邪魔なあなたはここへ捨てていきます」
7つになったばかりの私へ告げられたのは、叔母エメリーヌのそんな言葉だった。
私は丁寧に叔母に別れを告げると、森の奥へと進んでいく。そして叔母の乗ってきた馬の蹄の音が聞こえなくなった瞬間、万歳をして喜んだ。
「やったー、やったー! ようやくあのヤバいクソババアからも退屈な毎日からも解放されたー!」
私が捨てられた森は偶然私のお父様が住んでいる森。
道中で気の良い魔物のピクシーを仲間に加え、私の本当のお家へと帰ることにした。
※全19話の予定。毎日更新。
※いいね、エール、ありがとうございます!
婚約者を交換ですか?いいですよ。ただし返品はできませんので悪しからず…
ゆずこしょう
恋愛
「メーティア!私にあなたの婚約者を譲ってちょうだい!!」
国王主催のパーティーの最中、すごい足音で近寄ってきたのはアーテリア・ジュアン侯爵令嬢(20)だ。
皆突然の声に唖然としている。勿論、私もだ。
「アーテリア様には婚約者いらっしゃるじゃないですか…」
20歳を超えて婚約者が居ない方がおかしいものだ…
「ではこうしましょう?私と婚約者を交換してちょうだい!」
「交換ですか…?」
果たしてメーティアはどうするのか…。
妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
夫の子ではないけれど、夫の子として育てます。
しゃーりん
恋愛
伯爵家から侯爵家に嫁いだ日、夫ディカルドから初夜を拒否されたフォルティア。
白い結婚のまま2年後に離婚されれば伯爵家からの援助も返さなければならないことを恐れた侯爵夫妻の企みによってフォルティアは襲われて純潔を失ってしまい、しかも、妊娠してしまう。
妊娠までは想定外だった侯爵夫妻は、不貞による妊娠を理由に慰謝料を貰って離婚させるつもりが、ディカルドが何故か自分が子供の父親だと思い込んでいるため、フォルティアのお腹の子供が誰の子供かわからなくなってしまった。
そんな中、ディカルドが事故で亡くなる。
フォルティアはお腹の子供が跡継ぎだからと侯爵家に居座り、自分の思うようにするというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる