3 / 20
一年目◆秋 【紅葉狩りだよ鈴鹿ちゃん】
しおりを挟む「あたし、ちっちゃい頃ねえ、紅葉狩りのことを、“もみじまんじゅう食べ放題”のことだと思ってたんだ」
秋晴れの休日。
同期のみんなで車を借りて、郊外までドライブをすることになった。
二台に別れて車に乗り込み、到着地のキャンプ場ではバーベキューをする予定だ。
山の中に入るにつれ、緑の中に黄橙、鮮やかな赤が混じるのを楽しみながら、のんびりと車を走らせて、他愛もない会話を交わし。
ふと、助手席の窓にへばりついて外を眺めていた木内が、クルリと振り向いたかと思ったら、相も変わらず阿呆なことを発言した。
やめろ笑かすな。ハンドル操作誤るだろうが。
「お父さんが休みの日に、よし、紅葉狩りに行くか! って言って、出掛けることになって、ウキウキしながらついてったの。いろいろな味食べたいから、弟と、半分こずつしようねー、とか言ってさ」
弟まで間違った知識に巻き込んでいたのか。
堪えきれなかった数人が肩を震わせ始める。
「なのに、いつまでたってもまんじゅう屋さんには着かないし、何故か山ん中ズンズン入って行くし、え~、お父さん、紅葉狩り(イコールもみじまんじゅう食べ放題)は~? って文句言ったら、」
――ん? ほれ紅葉。
ちび木内をヒョイと抱き上げて、父親が目の前に差し出したのは――紅く色づいた手のひらの形の葉。
「葉っぱかよ! て、弟と二人でブーイングだよ!」
みんなの限界はそこまでだった。
乗員6名のワゴン車は、木内を除く全員の爆笑で揺れた。
いや、俺は爆笑とまでは行かなかったが。運転してるしな。我慢しましたよ。
尚も俺の腹筋を試すかのような木内の思い出話は続く。
「しかも紅葉狩りの意味が解ってなかったのか、なんてお父さん言ってさ、帰ったら勉強させられるしー。だってイチゴ狩りもブドウ狩りもナシ狩りも食べ物じゃん! 紅葉もそうだと思うでしょ!」
少なくとも“もみじまんじゅう食べ放題”だとは思わないだろう。
「この話にはオマケがあって、紅葉狩りが本物の紅葉だとしたら、紅葉おろしは紅葉のすりおろしたのが入ってるんだ! って更に間違った知識があたしの中にインプットされちゃったんだよね……」
やめろ腹筋が! 腹筋が痛ぇ!
「紅葉って辛いのかー、だから赤いんだー、って、かなり長いこと誤解してたよ」
しみじみ言うな!
腕を組んで頷きながら話を締めくくった木内に、全員息も絶え絶えに座席や隣の者の肩をバシバシ叩いていた。
「も、もう勘弁して鈴ちゃん……」
「たしかに、紅葉狩りだけ違うけども!」
「な、長いことって……いつまで?」
やめとけばいいのに、そう訊ねたヤツにきょとりと目を瞬いて、木内は答える。
「中3くらい?」
「……っ、……っ、……っ!」
気持ち悪いから声に出して笑え、みんなー。
もぉ、笑いすぎだよみんなー、と頬をふくらませた木内がのんきな声を出して。
何とか事故らずに目的地に着いたときには、こちらの車に乗っていたみんなは笑いすぎで疲労困憊だった。
腹筋イテェ。
(初出:2010/12/19)
0
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる