Open Sesame

深月織

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Ⅱ.記憶の迷夢

-1.ココハドコ

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 指差し確認。
「でぃれいさん、りんどうさん、マシアスさん、ろーだりあさん」

「ディレイ」
「リンドウ」
「ローダリア」

「でぃレイさん、リンドウさん、ろーダリあさん。む?」
 なにが違うのかわからなくて首を傾げる。
「私は誰?」発言のあと、とりあえずそれぞれに自己紹介して頂いたワケですが、何だか私の名前の発音が微妙らしく、訂正されてしまった。
「舌ったらずもカワイイし、そう無理に直さずともいいんじゃね?」
「そのうち慣れるでしょうしね」
 被害に遇わなかったマシアスさんと、言い直して訂正できたリンドウさんは軽く言う。
 しかし納得の行かない私はしつこく名前を繰り返し――
「でぃれいさん、ろー、ダリア、さん、リンドウさんとダリアさんはご夫婦なんですねー。お花のお名前カップルですっ」
 そんな小ネタに気づいてニマリと笑う。どんな花かしらとダリアさんが聞くので身ぶり手振りを交えて説明してると、奥の部屋に行っていたディレイさんに、大人しくしてろと頭をくしゃくしゃされた。
 大人しくしてるじゃん、と言いかけて、息切れしている自分に気づく。うう、そういや病み上がりだったー。
 この中で一番偉いらしいディレイさんが、私を保護したひと。こちらの住居もディレイさんのものだそう。
 ……お金持ち?
「これに見覚えは?」
 そうして渡されたのは、手のひらサイズの冊子――いわゆる、生徒手帳だった。
「保護したときにお前が持っていたものだ。少し表面は破損しているが、中はなんともない」
 まあ、私ってばかなり怪我してたそうですから、これがポケット等に入っていたならボロボロも当然か。
 私のない記憶のうち常識としてある記憶の通り、少しページを繰ると、おだんご頭の少女の写真とその学籍番号が記載されていた。
 写真の少女はさっき鏡の中で見た私の顔と同じもので――
「おうかこうこういちねんよんくみじゅうにばんくらいしはすみ……どうやら私の名前はハスミですね。倉石羽純、十五歳」
 私の体内感覚では春のような気がするから、一ヶ月半後ということは十六歳になったのかな? 四月二十八日生まれです。
「じゅうろく……?」
 疑わしげに私に集中する八つの瞳。ムッとして反論した。
「十六歳ですよ! 結婚も出来る歳ですよ! 童顔なのは種族特徴ですっ」
 ぷりぷりする私をあやすように微笑んだダリアさんが、お茶を手渡してくださる。ミルクたっぷり、どうやらお砂糖も入っているらしきそれは当然お子さま仕様で、余計に私の怒りを煽ることに気づいていない。
「まあまあ、どっちにしろ閣下もリンドウも十六のハスミちゃんから見ればオッサンな年齢だし、君を子ども扱いしちゃうのも仕方がないってことで許してやってよ、ね?」
 マシアスさんのフォローなんだかそうでないんだかな発言に、首を傾げた。
「オッサンておいくつですか、お二人は」
「閣下――ディレイが二十六でリンドウが三十」
 女子高生羽純は頷く。
「オッサンですね。マシアスさんは?」
「俺は二十三~。あれ? 俺もハスミちゃんからだとオッサンになっちゃう?」
 情けない顔になりかけたマシアスさんにグッと親指を立てた。
「ギリギリお兄さんでオケ」
 胸を撫で下ろすマシアスさん、ショックを受けたのかたそがれているリンドウさんと、不穏な空気を醸し出されているディレイさんを眺めて、ダリアさんが頬に手をあて眉を寄せられた。
「それじゃあ私もおばさんになっちゃうのかしら」
 ダリアさんは閣下と同い年らしい。
「女の人はいくつでもお姉さんです!」
「あらうふふ」
 握りコブシで否定すると、頭を撫でられた。
 わーいきれいなお姉さんにナデナデしてもらったー。
「――で、他に覚えていることはないんだな」
 おもーいため息を吐いたディレイさんが、改めて私に聞き直し、頷いた。
「個人的な記憶っていうんですか、そーゆーことがキレイサッパリ思い出せません。頭でも打ったんですかねー?」
 頭部を探ってみても、タンコブは見当たらないけど。
 そうしてると何ともいえないような顔になった四人が、目を見交わす。
 なあに?

 ここまでのおさらい。
 怪我を負い、意識不明だった私――倉石羽純は、倒れているところをこの人たちに助けてもらったらしい。ていうかそれってなんだか事件の臭いがしますよ。
 更に私、一ヶ月半ほど寝たきりだったそう。その間、寝てるかもしくは半覚醒状態で、今のように意思の疎通はできなかった。
 何故いきなり私目覚めちゃったんでしょう。と訊ねても誰にわかるはずもなく。
 そして目が覚めたら覚めたで、ココハドコワタシハダレ――な状態で。
「まいりましたねぇ」
「他人事か」
 ふむぅと胸の前で腕を組んで呟くと、冷静なツッコミが入る。
「一ヶ月半ボケていたんだ。頭が少々鈍くなっていても仕方ないだろうさ」
 もっともですが、カチンと来るのは何故でしょう。
 魔王様もといディレイさんは大きなソファをほぼお一人で占領していて、何様だという態度。そのはしっこに私がちんまり座らせて頂いてるわけだけど。
 ディレイさんてば、偉そうにふんぞり返ってジロジロジロジロとこっちを眺めてるんですよ。
 私は珍獣ですか。噛みついてやろうかな。
 ガチガチ歯を噛み鳴らして威嚇すると、何だその反抗的な態度は、と言わんばかりにまた頬をつねられた。
「なにやってらっしゃるんですか、閣下」
 叱るような声と共に、身体が背後に引かれた。フンワリした感触が後頭部に当たって、ダリアさんに抱き寄せられたことがわかる。
 つねられたほっぺをナデナデされて、ほにゃんと顔がゆるむ。
 キレイなお姉さんは好きですか。大好物です。うふー。冷たい目をするディレイさんなんて無視無視。
「……まあいい。ローダリア、それにある程度の常識を教えてやってくれ。リンドウ、しばらく妻さいを借りるぞ。マシアス、これまでと同じ様に一応警戒は続けてくれ」
 諦めたようなため息をついたあと、彼は偉そうな態度にふさわしく偉そうな上から目線でみなさんに指示を出し、構える私にチラリと目をくれた。
「お前は大人しくしてろ」
 また言った!
 何ですか私が暴れん坊みたいに! 念を押される覚えはないよっ、記憶喪失だけど!
 むきぃ、と噛みつこうとする私を無視してディレイさんは生徒手帳をヒョイと取り上げる。
「これは身分証のようなものだったのか」
 カクカクした文字だねーと覗き込んでマシアスさん。リンドウさんは、私の写真に興味津々のようだ。
「この絵は? ……精巧な」
「幻影術を張り付けてあるのか? 紙に」
「閣下、魔術士の顔になってるよー」
 写真の私をつつかれて、何だか痒いような気がしてヘン顔になってしまう。
「……意味不明。写真ですよ?」
 ぽそりと呟いた言葉にディレイさんが食いついた。
「シャシン。どういうものだ」
「はあ? 写真は写真でしょう」
 重ねて、仕組みを思い出せなんて言われて、何で写真を知らないの! と悪態をつきながら昔理科の実験で日光写真で遊んだことを思い出す。もちろん、それと生徒手帳の写真とは違うことくらい知っているけど。
「絵を? ……とれーしんぐぺーぱー? インガシ……日に当てて……焼き付けるのか」
「うぇっ?」
 こめかみに指先を当てて、どこか遠くを見ていたディレイさんが呟く。――私が思い出していた通りのことを。
 え、なんで同じこと――と訊ねようとした瞬間、失望したという感情アリアリな視線が向けられた。
「使えん。もっとハッキリ覚えてろ」
「んな!  失礼です児童に無茶言わんでくださいっ」
 いやそんなことよりも。
 写真を知らないってどういうこと。
 今、私、くちに出してないよ、日光写真のことなんて。
 ていうか。

 ココハドコワタシハダレ――ここは、何処?

 フィクションの中でしか見たことがないような、衣服。
 どう見ても、アジア系でない人々。
 ある程度の文明人なら当然の知識を知らない。
 怪我をしていた私を自宅で保護――病院じゃなく。
 一ヶ月半意識不明だったとしても、事故に遭った該当者の問い合わせとか、調べたり届け出たりするよね?
 コトバ。
 私が普通に話しているのは日本語――のはずなのに、何故か違和感。
 日本語を話せるなら生徒手帳の文字くらい読めるでしょう。――だけど私が言葉にするまでわからなかった。
 頭の中を、覗かれた。

 ここは、何処?

 ぱちくりと瞬きして、今更な問い掛けを心の中で繰り返していると。
 じっとこちらの様子を窺っていたらしい、ディレイさんと目が合う。
 ゆっくりと、彼が言葉を紡いだ。
「――ここはシェントーラ大陸北、クロウゼル王国、王都ワルトゥ――お前が存在いた処からで言うならば、異世界、ということになるな」

 へええ。
 ……で、それって、ドコですか?

 
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