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【結婚式篇】
プログラムⅩ◆代表謝辞
しおりを挟む披露宴は、結婚しましたという報告とお世話になった皆さま方へありがとうを伝えるという意味合いを持つ。新郎新婦は主役かつホストであって、内も外も忙しい。
ご招待してるんだもの。お客様に、ご満足していただけるように気を遣い、自分たちの希望も盛り込んで、一種の見世物状態だということも否定しませんよ、ええ。
昔むかしは、雛壇にいるドレス姿のお嫁さんがお姫様つまり主役で、ただひたすらキラキラと羨ましく見えたものだが、それがいざ自分の番になってみると――ずっと注目されてるの落ち着かないいぃ!
笑顔がっ、笑顔が貼り付いたまま直らなかったらどぉしよう隊長ううぅ! 試練ですかこれもー!!
隣で涼しく微笑んでいるフミタカさんが憎い。そりゃ昔から他人の視線に慣れてるよね、アナタは。どーしてシラッとしていられるのか教えてほしいですよ。
取引先の方々は、受付嬢鈴鹿を覚えていらしたかたもいて、意外そうだったり納得されたりおおむねにこやかに出席してくださった。まあ、中には誰コレ? と訝しげなひともいた。
鈴鹿でーすよろしくお願いしまーす、今日は化けているから通常モードでお会いしたらわからないんじゃないかと不安ですよ!
秘書室の皆さんも、華やかに場を彩ってくださった。いつも通りにつんとしているかと思った長船主任が、何故だか憐れみの中にも共感をたっぷり込めた眼差しで祝ってくださったのが、不思議なのですが。
主任の「おめでとうございます」に、「こいつとも長い付き合いになると思いますが、よろしく」と返したフミタカさんも謎なのよ……?
ひきつった微笑みの主任が、見慣れない指輪をしてたとかー、なんか、フミタカさんにプロポーズされた直後を思い出してしまったとかー、そういえば午前中のお式のときに室長と一緒に伯母様にご挨拶されてたのは何でかなーとか芋づる式に連想して、あたしは考えるのをやめた。
うん、とっても怖い結論が導き出されそうだったので……! あたしは気づかなかった! 察しもしないよ!
イロモノ戦隊との対面を楽しみにしていたから、残りのお二人ともお会いできて満足です。
塾講師の錦野さんが本当に普通のお兄さんで、フミタカさんの一番長いお友だちというのが意外だった。きっと隠された謎があるに違いない。いつか暴いてやる。
平生さんは、納得の派手さでした。芸能人だって言われても疑わないくらいの美形。……と、フミタカさんに言ったら、アレは擬態だと説明されました。
擬態ってなに……。
何でも、その場その場で雰囲気を変えることができるらしく、素の顔を知っているのは自分達くらいじゃないかって。
イロモノ過ぎるよ! いつか詳しく聞いてみたいと思います……
フミタカさんの元カノであるお姉様たちは、チクチクと彼を弄るのがお気に召されたらしい。
曰く、「あのときはこんな表情見せなかったものー」らしい、です。彼女たちの前ではカッコつけてたんだね、フミタカさん。
めでたく旦那様公認になったから、あたしとのお出掛けをおおっぴらにするそうです。みなさまとフミタカさんが付き合っていた当時のあんなことやこんなこと、聞きたいようなそうでないような。
あたしたちが仲良くしているとフミタカさんが本当に情けない顔をするので、お姉様がたはとっても楽しそうでした。
もちろん、本当にイロイロなあれこれをを話すわけはないとわかってる。
その辺りのルールはわきまえているひとたちだから、フミタカさんも困りながらもこの交流をやめさせようとはしないのだ。
これくらいの意趣返しは許してほしいのよ、と言う彼女たちに、フミタカさんは全面降伏するしかなかった。
どうしても仕事関係の招待客の割合が多くなってて、幼馴染みや学生時代の友人たちには肩身の狭い思いをさせちゃったかなと気がかりだったんだけど、なんとうちの弟妹がそっちに気を遣ってくれていてそれなりに楽しげにやっていた。
感謝で涙出そうになったよ、おねえちゃんは……!
二次会は幼馴染みたちと過ごす時間とろう。あと、遼太と茜には後日特別におこづかいやろう。
朝倉さまも、琴理さんも急なご招待だったけれど、楽しんでいただけたようでひと安心。よもや同じテーブルにいた人々が彼らのためのシークレットサービスだとは思うまい。
嵯峨さんのところの人材ってどうなってるんだろ……
唯一、悔やまれるのは同僚たちをフリーダムにしたことだ。
いや、皆さん余興を多いに楽しんでくださってましたけどね! あたしたちがお色直しのために退場したあとも、すごく盛り上がったようだけどね!
こっちのダメージが半端なかったんです……
義理でもなんでも、呼んだらみんな集まって、様々なものを胸に秘めながらも祝ってくれる、そのことがとても幸せだなって思う。
フミタカさんには、あたしが幸せにしてあげる! なんて、偉そうなこと宣言したし、もちろんするつもりだけれど、そのための力は、みんなにも、貰ってるの。
自分一人だけじゃない、周りで笑ってくれるみんながいるから、あたしも笑えるしフミタカさんを笑顔にだってできる。
いつもは忘れちゃう当たり前に大事なことを確認できた、そんな時間になった。
披露宴も最後のプログラムになり、フミタカさんの代表謝辞でお開きとなる。
「本日はお忙しい中、私たち二人のためにお集りいただき、ありがとうございます。ご来賓の皆様および御列席の皆様よりあたたかいお言葉を頂戴し、厚く御礼申し上げます」
フミタカさんが頭を下げるのに合わせて、あたしも礼をする。
右手にマイクを持ち、左手をあたしと繋いで、言葉が続けられる。
「私事ですが数年前まで、自分がたった一人で生きていると傲慢にも思っていた時期がありました。
他人を拒否し、ここにいる義父母や友人に心配をかけていたことも理解せずにいた、私の目を覚ましてくれたのが、妻の鈴鹿でした。彼女と出逢ったことで、たくさんの想いが自分の周りにあることを知りました」
繋がれた手に力がこもる。
「気づけたこと、支えてくださった皆様がいること、全て幸いに思います」
フミタカさんが、このときに何を話すかは聞いていなかったけれど、あんまりにもあたしが感じていたことと似ているので、ちょっと笑ってしまった。
あたしだって、フミタカさんに出逢ってたくさんのことを知った。
彼だけの言葉を聞いていると、あたしばかりが功労者みたいだけど、決してそんなことはない。お互い様の面が多々あるのだ。
結婚は、ゴールではありません。
しいていえば、最初の坂道を登りきったところかな。
この先に見える道にも、きっと大なり小なりの山や谷がある。
だけど、こうして二人、手を繋いで離れないで、進んでいく。
「まだ成長途中にある我々ですが、本日皆様から頂戴したお言葉を糧とし、明るく楽しい家庭を築いて参りたいと存じます。これからも、どうか変わらぬご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。――本日はまことに、ありがとうございました」
もう一度、二人そろって頭を下げる。
今日貰ったたくさんの祝いの言葉と、思いがこもったこの拍手を、忘れないでいよう。
ずっと。
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