14 / 24
【結婚式篇】
プログラムⅨ◆花束贈呈
しおりを挟む『それでは、これより新郎新婦によるそれぞれのご両親へ、感謝の気持ちとして、花束の贈呈です』
みどりちゃんの司会進行に合わせて、高砂に両親たちが並ぶ。あたしたちは、スタッフから用意していた花束を受け取って、進み出た。
定番の新婦からの両親への手紙は、無し。
感動的なイベントで、盛り上がるのはわかっているんだけど、あえてしないと決めたのだ。
フミタカさんと同居するときに挨拶を済ませていることもあるけれど、今まで育ててもらった感謝を、言葉にして伝えきれるものじゃないと思ったから。
こちらだけ親に感謝っていうのもフミタカさんとのバランスが悪いし、なら二人とも手紙を読もうかとも考えたけれど、結局はあたしも彼も、ここで感謝を一区切りにするのが嫌だったというのが本音。
夫婦になったあたしたちは、これからが親孝行の本番だと思っている。
うちの両親は、子どもたちが誰に恥じることもなく自由に笑って生きていれば、それでいいってシンプルな幸せを持つ人たちだから、この場で言葉にして表すのではなくて、これからあたしが選んだひととどう幸せに生きていくか、見てもらうことで示したい。フミタカさんも同じ考えだ。
言葉の代わりに、花束に思いを込める。
『新郎より新婦のお母様へ、新婦から新郎のお母様へそれぞれ花束の贈呈です。皆様、盛大な拍手をお願いいたします』
お互いの母に送る花束は、「あたしたちを今まで育ててくれてありがとうございます」と「これからよろしくお願いします」という気持ちを込めて、二人で選んだもの。
伯母様には、白をメインに黄色を加えた清楚で明るいイメージ。うちの母にはピンク色のバリエーションでロマンチックなイメージ。お揃いの小さな花束を、父たちにも渡す。
フミタカさんがピンク色を持った光景は、なかなか視覚的に攻撃力があったけれど、お母さんが喜んでいたのでよし。
センシティブな伯母様は始終涙を浮かべていらして、社長がおろおろしつつもなんだか嬉しそうだった。
――私が史鷹の母親として、出てもいいのかしら――
伯母様がそう呟かれたのは、最後の打ち合わせのときのこと。
本来ならその立場にいるはずの、南条母に対しての、罪悪感の吐露だったのだろう。
伯母様からは、南条家にいたころのことは、聞いたことはない。あたしが知っているのは全部フミタカさん伝て。
フミタカさんが物心ついたときには、伯母様といるのが当たり前になっていて、あちらの母上とは公の場でのみの接触だけだったという。
年子で政史さんが生まれたことと、付けられていた教育係を彼が拒否したため、伯母様が世話していたのがそうなった理由らしい。
それはフミタカさん個人にしてみれば良かったのだけれど、伯母様は母親から彼を奪ってしまったと、ずっと気にしていた。
フミタカさんを宥めて、母上を諌めて、母子の仲を取り持つことが出来たのではないかと。
あの独善的な親父様がいるかぎり無理だったと思うけど。
彼が、南条家の実父母をどう思っていたとしても、二人がいなければフミタカさんは生まれていなかったわけで――身内でもある伯母様の心中は、複雑なんだ。
子どもが産めなかったということに引け目を感じていらっしゃるから、余計に。
あちらのお母上は気にしないだろうと言っても、こればかりはどうしようもないんだろうな。
どんな慰めや励ましも相応しくない気がして、あたしは悪戯っぽく首を傾げて言った。
――来生のお母様は伯母様なんですから、出てくださらないとフミタカさんが拗ねちゃいますよ。ついでに、張り切っている社長も。
伯母様は、そんなフォローになってないあたしのフォローに、そうねと微笑まれたけれど。
きっと、今このときもどこか申し訳ないという気持ちを抱えている。
あたしから見れば、伯母様はちゃんと母親してると思うのにな。
遠慮なく母親として、息子の晴れの日を喜んでいいのに。
フミタカさんが二人の呼び方を改めるまではと思っていたけれど、ええい、フライングしてやる。
「これからよろしくお願いします。――お義母様」
そっとささやいたあたしに瞬いて、伯母様は恥じらうように頬を染めて、頷かれた。
0
お気に入りに追加
796
あなたにおすすめの小説

甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。

お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
最後の男
深冬 芽以
恋愛
バツイチで二児の母、アラフォーでパートタイマー。
恋の仕方なんて、とうに忘れた……はずだった。
元夫との結婚生活がトラウマで、男なんてこりごりだと思っていた彩《あや》は、二歳年下の上司・智也《ともや》からある提案をされる。
「別れた夫が最後の男でいいのか__?」
智也の一言に気持ちが揺れ、提案を受け入れてしまう。
智也との関係を楽しみ始めた頃、彩は五歳年下の上司・隼《はやと》から告白される。
智也とは違い、子供っぽさを隠さずに甘えてくる隼に、彩は母性本能をくすぐられる。
子供がいれば幸せだと思っていた。
子供の幸せが自分の幸せだと思っていた。
けれど、二人の年下上司に愛されて、自分が『女』であることを思いだしてしまった。
愛されたい。愛したい。もう一度……。
バツイチで、母親で、四十歳間近の私でも、もう一度『恋』してもいいですか__?
Perverse
伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない
ただ一人の女として愛してほしいだけなの…
あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる
触れ合う身体は熱いのに
あなたの心がわからない…
あなたは私に何を求めてるの?
私の気持ちはあなたに届いているの?
周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女
三崎結菜
×
口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男
柴垣義人
大人オフィスラブ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる