魔女とお婿様

深月織

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小話

あまあまデイズ

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 だだ甘い。
 それがあたしの旦那様。
 いや、王子様だからね? 比喩でもなんでもなく、うちの旦那、王子様だからね、いろいろと価値観が違うのはわかっておりますが!
 
「……あのね王子、毎日毎日オミヤゲ持って帰ってくることないのよ?」
 お仕事から帰っていらした旦那様は、出迎えたあたしにいつものようにキスを落としたあと、いいものを見つけたんですよ、とこれまたいつものように上着から包みを取り出す。
 繊細な細工の髪飾り。それをあたしの髪にあて、旦那様が微笑んだ。
「カノンどのに似合うと思って」
 いや、うん、その気持ちはとっても嬉しいし、プレゼントされるのが嫌ってわけでもないんだけど。
 それが毎日だとね?
 花やら服やら髪飾りやら小物やら甘いお菓子やら珍しい魔術書やらよくネタが尽きないっていうか。
 今はいいけど、そのうち何だか義務になっちゃわないかしらって思うのよ。
 はふりと息を吐いて肩を落とすと、シャラリと髪飾りについた翡翠の珠が音を立てる。
 ……しかもハズレがないんだよね、王子が選んでくるものって。
 別に、王家御用達、とかそういった店で買ってくるわけではなく、帰り道で目についた、とか王子にとっては小銭程度の金額の物なんだけど、その品質は最上級のもので。
 露店とか城下町で何故こんな品がとちょっと驚く。でもって、それを見つけてきちゃう王子にもビックリよ。
 この翡翠、めちゃくちゃ良いものじゃない。それが適当な端切れに包まれて出てくるんだから、どういうこと?
 髪に留められた状態のそれに、王子が目を細める。
「先日、魔女のお里の民族服を着ていたでしょう? あのドレスに似合いませんか」
 ああうん、確かにね。
 にこにこと上機嫌な旦那様を眺め、あたしは今日もオミヤゲ攻撃に敗北を喫したのだった。
 
 
 
「贅沢ですよー、お嬢様ったら」
「そうですよぅ、釣った魚に餌もくれない男の方が多いっていうのに」
「顔よし家柄よし性格もよし妻溺愛な旦那様もらっといて、罰当たりますよっ」
 着替えを手伝ってくれるメイドたちが口々に言う。
 いちいちもっともで反論できないけども。
「この勢いで毎日オミヤゲもらってたら半年たたないうちに部屋が埋まるし……」
 すでに棚の一部を占領している贈り物をあたしは半眼で見た。
 王子のお財布の心配はしない。
 王位継承権は放棄したとはいえ、所領もあるし、働いてもいるしね。
「まあ確かに……じゃあ、こういうのはどうです?」
 こしょこしょと耳元で囁かれたコリーンのアドバイスに、あたしは疑問の眼差しを送る。
 ええー? そんなんで効くー?
 自信満々に頷くメイド。
「てゆうか、お嬢様が変なんですよ。贈り物くらい当然だーって思えばいいのに、伯爵令嬢なのに貧乏性……」
「ですよね、うち、かなり名家ですのに」
「お嬢様のお小遣い、使い道がドレスや宝飾品じゃなくて薬草の苗やら魔術に使う材料とかって、ねぇ?」
 あんたたちちょっとは主を敬え。
 好き勝手言われている間に支度は済み、フィナが編んでくれた髪を確認して、最後に今日のオミヤゲを手に取った。
「……なんだかんだ言って、お嬢様もノリノリじゃないですか」
 なんとでもお言い。
 王子のお望み通り、着物に合わせてさっき貰ったばかりの髪留めをつける。
 うん、いい感じ?
 王子、喜ぶかなー。
「……わたし、ご当主さまの奥様スキスキアピールも大概うっとうしいと思ってましたけど」
「新婚夫婦のバカップルぶりの方が更にウザって思います……」
「おじょー様ぁ、王子様に頼んであたしたちと釣り合いが取れそうな身分の近衛さん連れてきてもらってくださいよ! 自分たちだけ幸せってズルいですぅ!」
 それって集団お見合いってやつでは。
 確かに近衛には、お貴族サマのボンボンとは別に実力重視で選ばれた庶民の方々もいるけどね? 余計に競争率が高いってわかってるのかなー。
 あー、まあ、機会があったらねー、そう適当に誤魔化して、あたしは旦那様が待つ部屋へ向かった。
 えへー、どうかなー、なんて照れながら顔を覗かせたあたしを迎えたのは、想像通り満面の笑みを浮かべた王子。
「お似合いですよ。可愛い」
 こうしてとても嬉しそうに笑ってくれちゃうから、贈り物攻撃禁止! って、強く言えないんだ。
 童顔からくる“可愛い”って褒め言葉があたしはキライだったんだけど、王子にそう言われるのは嫌じゃない。意味が違うから。
 にこにこにこにこしながら王子はあたしを抱き上げて、ソファに移動する。
 そんなにこにこしちゃって、可愛いのは王子の方だー!!
 なんだかたまらん気分になって、王子の頭をグシャグシャした。きょとんとした様がまた可愛いし。
 なんですか? と訊ねる紫の瞳に、さっきの助言を思い出す。そうそう、嬉しいのは置いといて、一応言っておかなきゃね。
「あのね、オミヤゲありがとう。でも、オミヤゲ買うのに悩む時間、王子が早く帰って来てくれる方がいいな」
 ちょこっと上目遣いで、だっけー?
 身長差があるからいつも見上げてるけど、膝だっこされてる今は丁度いい距離感。
 これでいいのか、コリーン?

「……………わかりました」

 おっ、効いたっ!
 ニコッと笑うと同じく微笑んだ王子が頬を撫でてくる。
「そうですね、時間が勿体無いですものね、仕事も最速で終わらせて帰ります、明日から」
 え、お仕事はちゃんとしていいのよ? オミヤゲさえ控えてくれたら……って王子どこいくの? 移動するときあたしを常に抱き上げるのも控えて欲しいのよ、子どもじゃないんだから……いや何で寝室。
 え。

「カノンどのを置いて仕事に行くのは私も嫌ですが、帰ってきたらご褒美があると思えば……」
 ね? なんてそんなトコ触りながら爽やかな笑顔で言わないでー!
 なんか違うっ、というあたしの叫びは口づけに飲み込まれた。

 ……うん、ええと、このようにうちの旦那様は毎日毎日だだ甘です……。

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