続・乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~恋人になった攻略対象の溺愛が止まりません

syouki

文字の大きさ
上 下
12 / 12
Version.圭

5.《完》隣に

しおりを挟む
「南部のある州で、強盗にあったんだ」

 この話が始まってから、彼は一度も彼女の顔を見ない。一番辛い部分が始まろうとしていた。

 夜の一〇時半すぎに、二人で郊外の大型スーパーに買いだしと給油に行っていた時だった。その日は市街地を流していたが、翌日からはまた砂漠地帯に入る。荒野のど真ん中でガス欠や水不足にならないために、物資の補給は日本でドライブするより切実だった。

「スーパーを出て駐車場歩いてるとき、俺が買い忘れに気づいたんだよ。……煙草とか、カミソリの刃とか、そういう些細なもの。ひょっとして、眠気ざましのガムだったかもしれない。だから、『すぐ買ってくる』って言って閉店まぎわのスーパーに走って、彼女は車で待ってるはずだった。『車のロックは絶対に忘れるな』って言ったんだけど、拳銃持った二人組があらわれたら、もう逃げ場なんてないだろ。結局、俺が彼女のそばを離れたのがいけなかったんだ。……戻ったときには、彼女は犯人の一人に殴りつけられながら縛りあげられてて、もう一人の男は俺の財布を狙って待ちかまえていた」

「えっ。飛豪さん、どうやって……」

「幸運だったのは俺も銃を持ってて、みっちり訓練を受けていたこと。あとは向こうが素人強盗で、こっちを見くびってミスしたこと」

 拳銃をつきつけられて、飛豪が自分と彼女の命乞いをしながら財布を渡したとき、犯人に油断が生まれた。

 飛豪に銃を向けていた方の男が、車にいるもう一人に運転するように指示したが、視線が動くと同時に握っていた拳銃の銃口が下がった。車中のもう一人はハンドルを握ろうとしたところで、咄嗟とっさに撃ちかえせる状況ではなかった。

 一瞬の隙をみて飛豪は、腰に挿していたセーフティーレバーなしで撃てる自分のグロックを抜いた。

「一人目は至近距離で腹と頭部を撃った。……二人目は、車まで三メートルくらいの距離があったし、中にアネットもいたから、絶対に手元が狂わないようにって、氷みたいに冷静だった。あの時の汗が背筋を伝っていく感覚は、今でも覚えてる。胸と、顔面と……とにかく接近しながら三発くらい、動きが完全に止まるまで撃ちつづけた」

 淡々と彼は語った。言葉に迷いはなく、映画のあらすじのように簡潔な説明だった。

「要するに、俺は二人殺したんだ。車からアネットを引っ張りだしたとき、彼女は真っ白な顔色なのに、犯人の血をあびて全身が真っ赤になっていた。最初は放心したような顔をしてたけど、我にかえると俺の手を振りはらって、『フェイ、あなたのせいよ!』って叫んできた。あとは、スウェーデン語でなにか喚きながら泣きじゃくってた。……なに言ってるのか全然分かんなかったけど、とにかくヒステリックな調子で、でも、俺の名前呼んでるのは分かるんだ。だからその時から、好きな女の子に『フェイ』とか『フェイハオ』で呼ばれるのは苦手」

 あまりの話に、瞳子は言葉もなく茫然としていた。彼はようやく彼女に顔をむけて、苦く笑った。

「そんな顔させるのが見えてたから、話したくなかったんだ。現に君は、俺に幻滅してる」

「…………」

「やっぱ俺と暮らすのは無理って言うなら、今からでもホテルかサービスアパートメント探すけど」

「そうじゃない。……だけど、気持ちの整理が……」

「うん。それも分かる。悪いな、退院したばっかなのに。俺、外そうか?」

 無理して笑ってみせながら、飛豪は腰を浮かしかけた。

「行かないでッ!」瞳子は彼の腕をつかんで叫んだ。「だめ。行かないで。傍にいて。ううん、わたしが傍にいたい。……ごめん、頭の中ぐちゃぐちゃだけど、とにかくわたし、飛豪さんの隣にいたいの。それだけは本当なの。ここは飛豪さんの家なんだから、遠慮してほしくない」

 自分がどうしたいのか、まだよく分からない。彼の過去を、自分が抱えられるのかも想像がつかない。

 だが今、彼にこれ以上一人きりで苦痛を背負わせたくなかった。それに、自分に話したことで彼がもっと傷つくのも嫌だった。

「……分かった」

 彼は諦めたように座りなおし、冷めたミルクティーを口に運んだ。「うわッ、甘すぎ」と、顔をしかめる。

「事件のあと、どうなったの?」

「普通に、警察に通報したよ。俺が持ってた銃、所持登録してたやつだったし、状況も店の監視カメラに残ってたから罪には問われなかった。でも、彼女とはすぐダメになった。母親の三番目の夫がアメリカ人だったから、その人にも色々手伝ってもらって……うん、処理は早く進んだんだ。修士マスター入るときには全部片づいてて、やり直そうって思ってたんだ。だけど、上手くいかなかった」

 最初は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の典型例である、過呼吸や不眠、頭痛、感情の激しい起伏におそわれたという。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

ヒロインの兄は悪役令嬢推し

西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...