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魔力の対価

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ネフィリムさんを退出させたすぐ、ネフィリムさんから面会の申請が届いた為、ネフィリムさんに魔力を返す条件が決まったところで謁見を許可する。

「お時間を頂きありがとうございます。まずはこちらをお納めください」
ネフィリムさんが丁寧に布に包まれた箱を献上する。
兵が受け取り、中を確認してから僕のところへと持ってくる。
箱の中身は金色の皿だった。
食器として使うのではなく、美術品として飾る皿だ。

「名匠アクオンが手掛けたものですね。良い物です」
ルマンダさんに見せると教えてくれた。
アクオンが誰かは知らないけど、高そうな物なのはわかる。

「どのような用件で来られたのですか?」
献上品は持ってきた兵士に渡して、ネフィリムさんに謁見を申し出た理由を尋ねる。

「失礼は承知でお願い申し上げます。国王陛下が帝城を訪れて以来魔法を扱うことが出来なくなりました。可能であるならば、どうか以前のように魔法が扱えるようにして頂けないかお願いに参りました」
予想通りの内容だ。

「後悔することになると忠告をしたはずです。忠告を聞いていればこうはならなかった。これはあなたがみずから選んだ道です。他国の王に剣を向けて命があるだけ感謝するべきではないですか?」

「おっしゃる通りではあるのですが、何卒お願い申し上げます」

「これから協定を結ぶことになるとはいえ、いつ敵となるかわからない他国の者を強くするなんて、この国からすると不利益しかないのはわかるよね?」

「私が敵対することはないとお約束致します。今、皇帝陛下を裏切ることは出来ませんが、万が一皇帝陛下がルシフェル国に害を為そうとした際には、皇帝陛下に考えを改めるように進言し、それでも変わらぬ場合には、私はルシフェル国につくとお約束致します。皇帝陛下にその旨お伝え頂いても構いません」

「口でならなんとでも言えるよね?」

「こちらは契約の腕輪になります。隷属の首輪とは異なり主従の関係は結ばれませんが、契約に反したことを行えば腕輪が弾け、腕を失います。私はこちらを両手に装着する覚悟でいます」
ネフィリムさんが黒い腕輪を二つ袋から取り出す。

「……覚悟はわかりました。しかし、その腕輪を付ける必要はありません。他国の魔導部隊統括を前線に復帰させるデメリットを上回るメリットがあれば頂いたあなたの魔力はお返しします」
ネフィリムさんを腕輪で縛ったところで、リスクが軽減されるだけでこちらにメリットは何もない。
前もって決めていたメリットとなることを提示することにする。

「寛大なお心に感謝致します。ご所望の物があればお教えいただけますでしょうか?研究の過程で手に入れた国宝に劣らぬ魔導具をお渡しすることも出来ます」

「魅力的な提案ではありますが、こちらから提示出来るのは二つだけです。まず一つ目ですが、帝国にルシフェル国の国民が入国する際と帝国で商売をする際に税を免除・減税していただくこと。二つ目はネフィリムさんの研究の成果をルシフェル国にも提供していただくこと。どちらかを飲んで頂ければ魔力はお返しします。もちろん一つ目につきましては期限は設け、軍事利用はしないとお約束致します」
長い目で見たとき、研究の成果をこちらにも共有してもらった方がメリットは大きく、研究の成果はネフィリムさんのものなので最終的な決定権もネフィリムさんにある。

ただ、魔術の情報というのは時にお金よりも価値があるらしい。
なので、ルマンダさんの予想ではネフィリムさんは税の免除を選ぶだろうとの予想だ。
税が免除・減税されればルシフェル国に行商人を呼び込みやすくなるメリットが生まれ、今ルシフェルが抱えている国民の減少を解消する足がかりになる。

「……わかりました。どちらも私一人で決められることではありません。一度皇帝陛下にご相談するお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「もちろん構いませんよ。元々ネフィリムさんの頼みの対価として提示したことです。どれだけ時間が掛かろうとも、それまでネフィリムさんの魔力が戻らないだけです」

「本日はわたくしの為に貴重なお時間を頂きありがとうございました。失礼致します」
ネフィリムさんが頭を下げてから帝国へと帰っていく。


「あれでよかったですか?」
会議室に移動した後、ルマンダさんに先程のやりとりについて確認する。

「問題ありません。予想通り税の緩和となれば城下町も賑わいを増すことになるでしょう。研究成果を見させてもらうことになりましても、ネフィリム殿のものであれば十分なメリットとなるはずです」

「それはよかったよ。ネフィリムさんが戻ってきた後のことは任せていいんだよね?」

「はい、回答によって人員を選出します」

「ネフィリムさんと話している途中で思ったんだけど、どちらにしても皇帝としては面白くはないよね?皇帝がネフィリムさんの魔力を戻させないという選択をすることはないの?」

「ネフィリム殿はフェレス殿と同じように魔力に取り憑かれていると思います。そうでなければ謁見に来ていないはずですから。皇帝がどちらも拒否した場合には、ネフィリム殿はこちらにつくことにするでしょう。今までの研究成果は話さずとも、人材として十分国の利益となっていただけると思います。流石に皇帝が手放すとは思いませんが」

「そっか。それじゃあどうなるか楽しみに待つことにしようか」
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