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降伏

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ルマンダ侯爵視点

愚王と争うべく、戰の準備を進めていた私の元に、大慌てで兵士が入ってきた。
こいつは見張りをやらせていた者だな。

「至急お伝えしなければならないことがあります」

「王国に何か動きでもあったのか?」
私は王国に何か動きあり、慌てて報告に来たのだと思った。

「違います。フェレス・ファウスト様が攻めてきました。フェレス様は侯爵様と国王が争うことが気に入らないそうです」
フェレス・ファウストだと……、この忙しい時にあの異常者が……!
帝国も何故あのような男を寄越すんだ。

「相手は何人だ?千か……二千か?」

「いえ、見える限りだと2人です。それと狐が一匹。それからフェレス様は帝国は関係ないと言っておられました」

「ふざけるな!私が忙しいことくらいお前にもわかるだろう。追い返せ!」
フェレス・ファウストが頭のいかれた魔導士だったとしても、あそこに配備していた兵士でなんとかなっただろう。

「私にはどうしようもありません。あれは化け物です。侯爵様にはあの火球が見えませんでしたか?あそこに配備されていた兵は私を残して皆、闇に飲み込まれていきました。近くに住んでいた領民もです。何が起きたのかさえわかりません。フェレス様は2日だけ待つと言っていました。降伏するなら侯爵様自らが来るようにとのことです。……来られないなら侵略を開始するそうです」
まさか、あの火球がフェレス・ファウストの仕業だと言うのか……。
深淵の樹海に住むドラゴンか何かが放ったものとばかり思っていたが……。

あんなものが放たれたら街が一瞬で蒸発する。
しかし、脅されたからと降伏するわけにはいかない。

「報告ご苦労。下がってよい」
私は王国と戦う為に集めていた兵をぶつけることにする。
何がしたいのか分からないが、先程の話が本当で、あの火球を放てるほどの力があるなら、こちらの最大の戦力を当てるしかない。

「最後にもう一つだけ失礼します。フェレス様は逃げる事は許さないと言っておりました。現在領地を闇が囲っているようです。闇に触ると飲み込まれる可能性が高いと思われます。お気をつけ下さい」
意味不明だが、厄介そうな事だけ言って下がっていった。

私の最大戦力である兵達をすぐに向かわせたが、いつまで経っても戻ってこない。
私のところに来るのは、領地の外に出ようとした者たちが黒い地面に飲み込まれたという報告だけだ。

本当に逃げ道を塞がれているようだ。

しばらくして、街が壊滅したとの報告を受ける。
フェレス・ファウストは私の元へ近づいて来ているらしい。
街を滅ぼしながら……。

私は伝令を出すことにする。
何を考えているのか、こちらには貴殿と争う気がないことを記して持たせる。

3人で向かわせたはずなのに、戻って来たのは1人だけだった。

「侯爵様の書状は読まれることなく燃やされました。侯爵様以外の者が来たから戦いに来たのだと判断したと言われ、私は伝言役だと生かされました。領民が全員死ぬか、侯爵様自らが出向き降伏するか選べとのことです」

「報告ご苦労。下がってよい」
私はフェレス・ファウストの元へと向かう決断をした。

――――――――――――――――――――――
マオ視点

誰もいなくなった街で時間を潰していると、豪華な馬車がやってきた。

「あれがルマンダ侯爵だ」
降りてきた初老の男性がルマンダ侯爵だとフェレスさんに教えてもらう。

「ルマンダ侯爵、やっと降伏する気になりましたか?」
フェレスさんが侯爵に問いかける。

「フェレス殿にお尋ねしたい。何故このようなことをするのだ?」

「主であるマオ様が王国の内乱を望まないからだ。侯爵は降伏しにきたのか、それとも自ら戦いに来たのかどちらだ?」

「……降伏する。これ以上の犠牲は出させないでくれ」

「賢明な判断だな。マオ様の配下となることを許す」
ん……?
何故かルマンダ侯爵を僕の配下にさせようとしてないかな?

「ルマンダ侯爵を配下に加えるなんて聞いてませんよ」
僕はフェレスさんに小声で言う。

「なら始末するか?そうするとこの地を治めるものがいなくなるがいいのか?」

「僕としては内乱が無くなればそれでいいんですけど……」

「せっかく侵略したんだ。今後、王国と対峙することになった時に、この地を得ておくのは悪くないはずだから、もらっておくべきだ」

「でもここって王国の領地ですよね?」
国王と侯爵が対立しているとしても、ここが王国の領土であることには変わりない。

「先日も言ったが、現在王国は財政難のはずだ。この地は広さこそあれど、場所としての重要度は低い。魔族と戦を構えようとしているなら、この地が奪われても無視される可能性は高いだろう。侯爵家とのいざこざが無くなって喜ぶくらいだと思うがな」
フェレスさんがそう言うなら、それでいいか。

「わかりました。そうしましょう」

「待たせたな。配下になるか、死ぬか選べ」

「マオ様というのはそこの少年のことか?」

「そうだ」

「フェレス殿は何故その少年に仕えるのだ?」

「私の目的の為だ。マオ様に仕えることは私の夢を叶えることに繋がる」
フェレスさんは深淵を覗く為に僕の元で働いてくれているからなぁ。
侯爵にはちゃんと伝わらないだろうなぁ。

「……わかった。フェレス殿がそこまで言うのだ。私も配下に加わろう。私は何をすればいい?」
絶対に勘違いしている。
でも都合はいいので、勘違いしたままでいてもらおう。

「この地はマオ様が治める最初の地となる。その地をマオ様の代わりに治めることを許す。まずは城を建てよ。マオ様の力をこの世界に知らしめるのだ」

「はっ!」
なんだか、規模が大きくなってきた。
城を建てるとか、そんなの聞いてないんだけど……。

「マオ様は寛大なお方だ。争いを好まぬ。故に今回の事に及んだ」
フェレスさんが言った事に対して、侯爵は信じられないという顔をしている。

これだけの人を殺しておいて、よくそんな事が言えるな!と言いたげである。

「今回の侵略で、こちらはもちろん、そちらにも犠牲は出していない」
フェレスさんが合図をすると、飲み込まれていた人が地上に浮き上がってくる。

皆、意識を失っているが、命は落としていないはずだ。

「見ての通りだ。もちろん命を奪う事も出来た。しかしマオ様がそれを望まなかった。この者達が生きているのはマオ様の温情によるものだ。その意味をよく考えて、マオ様の為に残りの人生を捧げよ」

「はっ!この命、マオ様に捧げます」
なんだか重い。
どんどんと話が大きくなっていく。
確かに配下にしないと、またいつ侯爵が内乱を起こすかわからないから、必要なのはわかるけど、やり過ぎな気がしてならない。

でも、結果としては侯爵が僕の下に付いただけで、何も変わらない。
侯爵が王国の貴族でなくなり、ただのルマンダさんになったわけだけど、それは僕達に関係なく爵位を返上していたみたいだし、ルマンダさんは引き続きこの地を治める。

この地に住む人達に恐怖を植え付けただけだ。

実際には誰一人として犠牲にしていないのだから、許して欲しい。
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