クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫

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国盗り編

モルモット

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歌奈は緊張していた。

対面の席に呼ばれた時はその口がら心臓が飛び出すのではないかと思うくらいだった。
しかし、歴史上の濃姫に会える事に少なからず興奮していた。

「面を上げよ。」
優しい声が響く・・

顔を上げると、凛としてそこに鎮座する美しい濃姫がそこにいた。

思わず見とれてしまう・・

ただただボ~っと自分を見ている歌奈が何だか可笑しく濃姫は笑いながら話しかけた。
「どうかしましたか?」

「ごめんなさい!!あまりにお綺麗なので見とれてしまいました。」
その唐突で素直な言い方に思わず声を出して笑った。
「もう少し傍へどうぞ。」

我に返った歌奈は自分には使命がある事をようやく思い出した。

「濃姫様にお会いしたかったんです。なので私がお館様にお願いしたんです。ご迷惑では無かったですか?」
「私も吉乃殿と話しがしたいと思ってました。」
「本当ですか!良かった~私、濃姫様と仲良くなりたいんです。濃姫様の事、もっと知りたいと思ってたんです。」

そして歌奈の怒涛の質問攻めが始まる。

「濃姫様はお好きな食べ物はなんですか?私はここの鰻が好きです!尾張にきて楽しい事はなんですか?私は乗馬!野山を駆け回るのがとっても楽しいです。もちろんひとりでは乗れないんですがね・・いつも何をしてらっしゃいますか?屋敷ではどんな事がありますか・・それと・・」
「待って、待って!分かったから、ひとつずつ答えるから待って頂戴。吉乃殿はせっかちなのね~。」

そう言いながらも濃姫の顔は笑顔だった。

(この人はとてもいい人だわ)

歌奈はそう感じた。


2人でお茶を飲み、庭を散策し、他愛もない会話を積み重ねた。

そして日も傾き始めた頃、歌奈は核心に近づいていった。

「濃姫様、信長様とは形だけの夫婦だと・・信長様からお聞きしました。撫し付けとは思いますが何故なのか?お聞きしたかったんです。」

「なっ!」

急に夫婦の話しをされ濃姫は言葉が出なかった。

「寂しくはないですか?この尾張では知り合いもいないはず、おひとりでこの屋敷にいて辛くはないのですか?」
「寂しい?辛い?そんな事思った事などない。そもそも私はひとりではない。」
「ひとりではないとは?」

穏やかな表情で濃姫は答える。

「ここにいるお静は私が幼い頃からずっと仕えて一緒にいる。寂しさなど感じた事もない。」

歌奈が傍にいる侍女に目を向けるとそのお静とやらは静かに頭を下げた。

「でも、あくまでも侍女ですよね?この方だけではお心は埋まらないんじゃありませんか?あっ!もしかして・・婚姻前にどなたか心に決めた男性でもいらっしゃったのですか?その方が忘れられないとか?」

その時、濃姫の顔色が急に変わったのが分かった。

「そんな事はない!吉乃!無礼ですよ!」

そう言って怒りをあらわにする濃姫にお構いなしにたたみかける。

「そうですか・・ではなぜ信長様を拒むのですか?別に他の男が好きでもいいじゃないですか。政略結婚だったのだから。正直に話しても信長様は怒りませんよ。信長様には私がいるんですから嫉妬なんてしませんよ。」

その言葉に自尊心を傷付けられたのか、濃姫のその顔には明らかに怒りの表情が見えた。

歌奈は構わず捲し立てる。

「いったいどんな男性だったのですか?素敵な方だったんですか?聞かせて下さいよ~もちろん濃姫様が嫌なら信長様には黙ってますから。」
「好きな男なんていない!男なんて好きになるわけがない!信長様とて同じこと!男の心など欲しいと思った事などないわ!もういい!下がるがよい!」

濃姫は否定し怒り露わに席を立った。

歌奈はその時の濃姫の視線の先を見過ごさなかった。

そして・・答えが分かったような気がした。



信長と秀吉が待つ部屋に戻った歌奈は神妙な顔で話し始める。

「濃姫にはやっぱり好きな人がいると思う。誰か分かったような気がする。でも確信がないのよね~。それで確かめようと思うの。手伝ってくれる?」

この大芝居はかなり大変である。

それでもこの何年と芝居を続けてきたと言っていい信長には大いに興味をそそられる芝居だ。
歌奈の心配をよそに信長はやる気満々であった。
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