上 下
101 / 147
国盗り編

逃亡者、働き方を見直す

しおりを挟む
フィルの屋敷に戻ってきた僕は夕食後にフィルと話をする為に、フィルの部屋を訪ねる。

フィルはまだ子供なので、実際に種族の代表として参加してもらう場合には、クルト辺りに付き添って欲しいけど、先にフィルの気持ちを確認しておいた方がいいと思い、フィルとまずは2人で話をする為だ。

コンコン!

「はい。あ、ハイトさん。どうしましたか?」

「ちょっとフィルに話しがあってね」

「なんですか?」

「長くなりそうだから入ってもいいかな?部屋じゃなくて、客間とかでもいいけど」

「あ、はい。どうぞ入ってください」
僕は部屋に通される

部屋に入って思う。
フィルの部屋には生活感がほとんどない。

ベッドとタンスの他には小さい机があるだけだ。

「欲しいものとか我慢してない?」
僕はフィルに尋ねる

「え、どうしてですか?」

「いや、部屋の中に物が少なすぎるなって思ってね」

「我慢はしてないですよ。部屋では寝るくらいしかしないので、物が少ないだけです」

「寝る時以外はどこにいるの?」

「書斎にいることが多いです。後は応接室ですね」

「……働きすぎてるでしょ?無理したらダメだよ」
この物の無さは、休みの日も部屋にいないと思われる。
書斎や応接室で遊んでるってことはないと思うので、屋敷にいる時も仕事をしているってことだ。

「そんなことないですよ。ハイトさんに会ってから休んでることが多くなりましたよ」
フィルはなんでもないことのように言った。
僕と会う前というと、フェンが寝込んでいて、粗暴な冒険者の荷物持ちをしていた頃だ。
その頃と比べたらいけない。あの頃はそこまで働かないと生きることが出来なかったから仕方なかっただけだ。

本題の前に、この問題を先にどうにかした方が良さそうだ。

「前に休んだのはいつ?」

「3日前ですよ。それがどうかしましたか?」

「その日はどこにいたの?」

「えーと、書斎と応接室にいましたよ」
やっぱり休みの日も仕事をしているようだ

「フィル、それは休みになってないよ。休む時は仕事のことを忘れないと」

「休んでますよ。ダンジョンにも行ってませんよ?」
これは重症だ。仕事をしている自覚がない。
クルトはその辺りを気にしてくれてはいないのか?

「何してたの?」

「えっと……他の街とか村から訪ねてくる方が増えてますので、その対応が多いです。あとはこのクランにきた依頼を受けるかどうかの判断をしてました」

「それは休みじゃないからね」

「休みですよ?」
フィルは本当に休んでいるつもりのようだ

「あまり口出しするつもりはなかったけど、フィルがダンジョンに行くのは、当分の間禁止します」

「え!なんでですか!?」

「働きすぎているからだよ。屋敷でやっている仕事はフィルがやらないといけないことかもしれないけど、ダンジョンでの仕事はフィルがやらないといけないってことはないでしょ?今は暴れる人もほとんどいないって聞いてるし…」

「屋敷で仕事なんてほとんどしてませんよ」
フィルは不思議そうに言う

「自覚がないみたいだけど、クランを訪ねてきた人の対応も、書類関係も仕事だからね。少なくてもそれがわかるまでは禁止ね」
そもそもクランのリーダーなんだから、外部との対応とか指示を出すことの方が大事な仕事だ。

「わかりました。でもそれだと、暴れる人の対処は誰がするんですか?」

「今は暴れる人もほとんどいないでしょ?」

「いませんけど、万が一の時には私が皆さんの安全を守らないと!」
フィルの良いところではあるけど、少し真面目すぎる。

「フェンがいるでしょ?」

「フェンが毎日いるわけではないですよ?」

「それならフェンがいない時は、エクリプスの人から人を出してもらうようにクルトに言っておくよ」

「わかりました……」
フィルはなんだか残念そうだ。
仕事にやりがいを感じているのだろうけど、ここは心を鬼にしないといつか体を壊してしまう。

後でクルトにはちゃんと話をしておこう。
なんで対処してくれなかったかも聞かないといけない。

「その話をしに来たんですか?」
フィルに言われる

「違うよ。放っておけなかったから話しただけで、別に話があるよ」

「なんですか?」

「フィルには王国との戦の話ってしたっけ?」

「聞いてないです。もうすぐ戦争になるっていうのは知ってますが……」

僕はフィルに戦のことを説明する。

「それは大丈夫なんですか?」

「少なくても表向きは大丈夫だよ。その後に王国がすんなりと領地を渡すとは思えないけど、今回の目的は王国に住んでいるまともな人達を戦に巻き込まないことだからね」

「そうじゃなくて、ハイトさんとミアちゃんだけで戦うんですよね?それって規定違反なんじゃないですか?」
クルトにも言われたね

「バレなければいいんだよ。エクリプスやワルキューレの人達に参加してもらってもいいんだけど、みんなには帝国領の守りをお願いしたいからね」

「いいのかなぁ?私が口を出す事じゃないと思うけど……」

「フィルは真面目すぎるんだよ。それにこれは王国の為でもあるんだよ。他の人に任せたら殺しちゃうでしょ?殺さないのは僕個人の理由でもあるし、そこまでお願い出来ないしね」

「そっか。それならいいのかな」
フィルは自分の中で納得したということにしたようだ。

「それでちょうどいい機会だから、いろんな種族の重鎮に集まってもらって話し合う場にもしたいと思ってるんだ。これは僕が勝手に動いている事だけどね」

「そうなんですね」

「うん、それで獣人の代表としてフィルに参加して欲しいんだ」

「え……」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【創造魔法】を覚えて、万能で最強になりました。 クラスから追放した奴らは、そこらへんの草でも食ってろ!

久乃川あずき(桑野和明)
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ『面白スキル賞』受賞しました。 2022年9月20日より、コミカライズ連載開始です(アルファポリスのサイトで読めます) 単行本は現在2巻まで出ています。 高校二年の水沢優樹は、不思議な地震に巻き込まれ、クラスメイト三十五人といっしょに異世界に転移してしまう。 三ヶ月後、ケガをした優樹は、クラスメイトから役立たずと言われて追放される。 絶望的な状況だったが、ふとしたきっかけで、【創造魔法】が使えるようになる。 【創造魔法】は素材さえあれば、どんなものでも作ることができる究極の魔法で、優樹は幼馴染みの由那と快適な暮らしを始める。 一方、優樹を追放したクラスメイトたちは、木の実や野草を食べて、ぎりぎりの生活をしていた。優樹が元の世界の食べ物を魔法で作れることを知り、追放を撤回しようとするが、その判断は遅かった。 優樹は自分を追放したクラスメイトたちを助ける気などなくなっていた。 あいつらは、そこらへんの草でも食ってればいいんだ。 異世界で活躍する優樹と悲惨な展開になるクラスメイトたちの物語です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

処理中です...