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決着①

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「魔術を発動する代償は知っているな?」
主神が話始める。

「もちろんだ。魔術の力の根源は闇。元々、力を与えられず、魔窟に隠れて細々と生きる事となった者達が神を恨むことで生み出した力が魔術だ。使い続ければ魂は闇に飲まれていずれ俺も悪魔となるだろう」

「そうだ。あれだけの魔術を発動出来る時点で、既におぬしの魂が闇に染まっているのはわかっている。悪魔に堕ちるのも時間の問題だ」

「そんなことはわかっている」

「ノルンはお主の魂を浄化する為に、わざとおぬしに取り込まれた。取り込まれる前、ノルンとわしで話したことの記憶は一時的に封印してあった。ノルンが話したことは本心ではあるが、真実ではない」

「それで?」

「それがお主が神々を取り込み力を得ていても放置していた理由だ。わしはお主と争うつもりはない。だからこそ、わしと戦えるだけの力を得ることへの妨害は不要だと判断した。ノルンがやり遂げてくれると信じて」

「そうか。話がそれで終わりならこちらから2つ聞かせてくれ」

「隠し事をする気はない」

「まず、俺はお前らの助けを求めていない。それが自己満足だとお前はわかっているか?それとも、神である自分の行いは誰にとっても素晴らしいものだとでも思っているのか?」

「神であろうと失敗することはある。しかし、行動しなければ事態が動くことはない。わしが必ずしも正しいとは限らぬが、お主自身で決めたことが必ずしも良い結果になるとも限らぬ。故に、お主が助けを求めていなくとも、わしに出来ることをするまでだ」

「詭弁だな。それで騙せるのは神を盲目に信じる信徒だけだ」

「そう思われようとも、人々に可能性という道を与えるのが神として役目だ」

「お前らがありがた迷惑な存在なのは理解した。2つ目の質問だ。悪魔になることの何が悪い?」

「悪魔に喰われた魂は転生出来ないと言ったじゃろう。悪魔は世界にとって害しかない」

「害か……。悪魔も元はお前ら神が生み出したものだ。世界を創り生命を誕生させたが、神だろうと思いのままの生命を創ることは出来なかった。他の世界を真似て、人族、動物、植物、それから魔物、お前らはまずこの4種族の始祖を生み出し繁殖させた。その過程で生まれたのが獣人やエルフ、魔族となるわけだが、どうしても想定していなかったイレギュラーは混じるものだ。そのイレギュラーこそが後の悪魔だ。悪魔の元となった者達の魂は生まれつき穢れていた。穢れた魂を持って生まれた者は闇に染まりやすく、感性の違いから周りから異質に見られることになる。しかし、彼らは彼らなりに手を取りあって懸命に生きようとしていたはずだ。お前ら神がその者達以外を祝福して恩恵を与えるまではな」

「わしらも嬉々として廃そうとしたわけではない。世界を崩しかねない不穏分子がこれ以上増えないようにしなければならなかったのだ」

「悪魔とは、己を見捨てた神に嘆きながらも、必死に生きようと力を求め、魔術を生み出し身を守った者達の成れの果てだ。俺は2人の悪魔と出会っている。確かに人としての感性で答えるならあいつらは悪だ。人を殺すことに罪悪感は無く、魂も喰らっている。しかし、それは人が動物を殺して肉を食うのと変わらない。違うのは世界を管理している神に許される行為かどうかという一点のみだ。あいつらにもちゃんと心はある。もう一度聞く。悪魔になることの何が悪い?」
善悪なんてものは結局、それを判断する者の主観に過ぎない。

生きる為に鳥を狩る者もいれば、食べもしないのに趣味としてハンティングを楽しむ者もいる。
一見後者だけが悪だと思うかもしれないが、鳥からしたらどちらも自身の命を狙う害悪でしかない。

仮に鳥が世界を操れるだけの力を得たならば、狩る理由なんて関係なく狩人を不遇とするだろう。

「確かにお主の言うとおり、悪魔を認めないのはわしら神の都合じゃ。魂の循環を無視すれば、わしらに悪魔を否定する理由はない。しかし、魂の循環というのはそれだけ無視出来ないものだ。生命が死を迎えた時魂は天へと還り、他の生命として生まれ変わる為に浄化される。その際に記憶は消えるが魂に深く刻まれた技術や知識はわずかだが消えずに残る。わずかであってもその蓄積で魂は成長し、世界もまた成長する。それを壊す悪魔を肯定することは決して出来ぬ」

「そう答えるしかないだろうな。既にお前らは穢れた魂を持った生命を悪と定めた。俺に言われた程度で変わるようなことではないだろうし、今更変えられるものでもない。さて、長々と話したが安心しろ。俺は悪魔になるつもりはない。ちゃんと闇を打ち払う術は得ている。さっきの話は、紳士姿の似合う悪魔の代わりに俺が勝手に代弁しただけだ」
ルフに頼まれたわけではないし、ルフはこんなこと望んでいないかもしれない。
過去視のスキルで1人目の悪魔が生まれる過程を見てしまった俺が、ただ言いたかっただけだ。

「わしの言いたいことは既に言ってしまったな。わしらの助けがなくとも悪魔にならないのであれば、これ以上わしらがお主にやることはない。仮にお主の方法で闇を打ち払えなかった時には、お主の意思に反してでも手出しするまでじゃ」

「悪魔になるつもりはないが、悪魔になっても構わないとも思っている。手出しは不要だ。お前らの助けを借りるつもりはない。つまらない話はここまででいいだろう。ハマトとノルンが俺に犯した罪を償ってもらう。配下の責を負いお前が死ぬか、主犯であるハマトが死ぬか選べ」

「俺を殺せ!全ては俺が画策したこと。俺の首一つでは不服だろうが、ノルンも俺が巻き込んだだけだ」
黙って俺と主神の話を聞いていたハマトが答える。

「お前には聞いていない。ハマトは死にたいようだがどうするんだ?」
ハマトの答えは却下して主神に再度尋ねる。

「わしの命を差し出す。だが、その前に頼みを聞いてくれ」

「死にゆく者の最後の頼みだ。聞いてやる」

「わしがこのまま死ねば下界に天変地異が起こる。ほとんどの生命は近いうちに滅ぶだろう」

「そうなるだろうな。だが、それも分かった上でお前は配下を庇い死ぬことを選んだ。それが嫌ならハマトを死なせればいい。それともそう言えば俺が許すとでも思ったのか?」

「死ぬのはわしでいい。死ぬ前にルナエルにわしの力と全権の全てを渡したい。お主も世界を滅ぼしたいわけではないじゃろう」

「主神の座をルナエルに譲るわけか。いいだろう。ただしその言葉に嘘がないように誓約を結べ。俺はルナエルを魂の牢獄から解放する。お前はルナエルに主神としての力と全権を譲る。下界の人間と同じ程度にまで弱体化すれば譲ったと判断する」
俺が条件を提示すると同時に主神の前に光る文字が浮かび上がる。

「騙すつもりはない。これでいいじゃろう。ルナエルを解放してくれ」
主神が誓約に同意すると同時に、また魂に異物が混じる。


ノルン視点

不審な動きに気付いた龍斗さんが私に忠告をしてから闇に覆われた魂に戻っていく。

主神様から魔術の使用により穢れた魂の浄化を任されたけど、動くことが出来ない。

龍斗さんに私が何か企んでいることを気付かれたからということもあるが、龍斗さんの後ろ姿を見送ってすぐに魂がさらに穢れたからだ。

穢れると同時にまた神が気を失った状態で送られてきた。
私を取り込んだあの魔術を使う代償は大きすぎる。

神さえも取り込む魔術の代償なのだから相応なのかもしれないが、魂の穢れ方が酷過ぎる。

今、主人様から託された力は一度きり。
浄化したとしても、あの様子ではまたすぐに闇に飲まれてしまう。

動くことが出来ない以上龍斗さんの動向を窺いつつ動くべきその時を待つことにする。

龍斗さんが闇に飲まれた魂に手を置いたところで、私は違和感を覚える。

あの魂が尋常ではない程に闇に覆われているのは間違いないが、先程の穢れ方とここにいる取り込まれた神の数を考えるともっと穢れていないとおかしい。
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