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魔物
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魔王との話を終えた俺は、途中でルフの本体と合流して獣人が多く住むというリーバイルという街に向かう。
そこに目的の人物がいるからだ。
以前、ルフの分身体に向かわせたが、悪魔だということがバレたことで警戒されて話し合いにすらならなかった。
女の力がどういったものなのかが不明な為、手荒な手段をとることも出来ずに引き返させた。
出来ることなら友好的に話をしたいが、女の身辺はルフに調べさせてあるので、最悪の場合は脅して言うことを聞かせることになるかもしれない。
「王国と帝国の方に何か動きはあったか?」
歩きながらルフに確認する。
俺自身も分身体を作って各地の情報を得ることは可能だが、魔術を実用できるレベルで習得することを考えると、意識を分散するのはあまり得策とは言えない。
なので、諜報は変わらずルフの役目だ。
「トップが代わった事でバタバタとしていましたが、大分落ち着いてきています」
「エルク達は?」
「まだ帰ってきていません。私はご両親の警護をしていることになっており同行していませんので詳細は分かりませんが、各地で活躍されている話はあちこちから聞こえてきます」
「予想通り冬季の間に周りきることは無理だったな」
「予定通り戻られるのは夏頃になると思われます。遠回りとなっても、戦の準備による影響が大きかった村、不作だった村に優先して向かっているようです。その甲斐もあって例年に比べて食糧不足による死者は減少しています」
「俺がエルクの中に閉じ込められなければ、エルク達がボランティアの旅に出ることはなかっただろうが、これは神の意図していた結果だと思うか?」
俺が閉じ込められ、創造という力を手に入れていなくてもエルクとエレナはボランティア精神に目覚めていたかもしれない。
しかし、エレナが莫大な力を手に入れる可能性はゼロではないが、エルクはただの子供のままだ。
食べ物を創り出すことも出来ないのだから、実現出来る可能性はゼロに等しい。
エレナが冒険者などで稼いだお金で、エルク達が住んでいた故郷の村を豊かにするのが関の山だろう。
もしこれが神の意図した結果なのだとすれば、俺はずっと神の手のひらの上で踊らされていたことになる。
この世界を豊かにすることに関しては特に思うことはない。
長いこと近くで見ていたエルクの大好きな姉がやりたいことなのであれば応援する気でさえいる。
しかし、これが神に踊らされた結果なのだとすれば話は別だ。
もしそうなら憤りしか感じない。
「私にはわかりません」
「会った時にわかるだろうから、それまでは自らの意思だと信じて進むしかないか」
「万が一、神の意思によるものだとしたらどうされるのですか?」
「その時になってみないとわからないな。ただ、なんとしてでもあいつらには俺を閉じ込めたことを後悔させる」
俺が今こうしてリュートの体を貰っていることさえ神の手中なのかもしれないが、最後に笑うのは俺だ。
会いに向かっている獣人の女もその一環だ。
焦らずに、今は力を蓄える。
魔術の訓練をしながら進み、途中で拾い物をしたので帝都に寄ってからリーバイルに入る。
目的の女は街から少し離れたところにポツンと家を建てて暮らしているので、宿を確保した後手土産を買って持って行くことにする。
「グルルル……」
家に近づいた所でウルフ5匹に威嚇されるが、無視して横を通り家のドアをノックする。
「どちら様でしょうか?そちらの方は以前に来られた悪魔の方ですね」
狼の耳を生やした、獣人の婆さんが出てきて尋ねられる。
ルフは姿を以前とは変えているそうだが、それでも気付かれたようだ。
「ハンナだな。俺はリュート。頼みがあってきた。こいつは俺に服従しているから、悪魔だが安心してくれて構わない」
「頼みとはなんでしょうか?昔は名の知れた冒険者として活躍していましたが、今は見ての通りの老いぼれです」
確かに全盛期に比べて力は衰えているのだろうが、ルフを悪魔だと気付くあたり、冒険者としての勘や経験は残っているようだ。
「そこにいるウルフはよく調教されていると思ってな。どうやれば魔物と仲良くなれるのか教えてもらいたい」
「ウルフも犬や猫と同じです。愛情をもって接すれば言葉が通じなくても心を通じ合うことは出来ます」
「そんな戯言を聞くためにここまで来たわけじゃない。魔物が人を襲うのは本能だ。ペットとは違う」
「リュートさんにとってはそうなのでしょう」
1匹くらいなら本能に抗った変異種だったということで、ありえない話ではないかもしれない。
しかし、家の中にもウルフが3匹いるのはわかっている。
しかもその内の1匹はハイウルフだ。
仲良くなら為に餌を与えようと近付こうものなら、そのまま自身が餌になる未来しかない。
「お婆ちゃん、お客さん?」
素直に話してくれる気はなさそうなので、どうしたものかと考えていると、タタタッとこちらに向かって走ってくる音が聞こえて、獣人の男の子がドアの隙間から顔を出す。
「お婆ちゃんは大事な話をしているから、中で遊んでなさい」
「……うん」
男の子は引きつった笑顔を浮かべてから、顔を引っ込めていなくなる。
「おい、ルフ」
「はい、なんでしょうか?」
「聞いていた話と根本から違うようだが?」
「あなた様が何にお怒りになられているのかがわかりません」
ルフは震えながら答える。
「まだわからないなら相手が上手だったということか。話が変わった。さっきのガキと話をさせろ。お前に用はなくなった」
「お帰りください。かわいい孫に悪魔を連れている方と会わせる気はありません」
「お前を殺してガキを攫うことは簡単だが、今なら話をするだけで事は済むかもしれない。俺は知りたいことが聞ければ、わざわざガキの心に深い傷を負わせる気もない」
俺が言ったことでハンナは殺意を剥き出しにして襲い掛かってくる。
自身の爪を鋭く伸ばし、硬度を高める。
単純だが、常人では反応さえ出来ないであろう速さでの魔法の展開、そして練度。
俺は爪の軌道を見て最低限の動きで避けたが、ルフは胸を深く抉られて倒れる。
元とはいえ、流石は名の知れた冒険者と自身で言うだけのことはある。
「なかなかの腕だな。獣人の特性を上手く活かした一撃だ」
爪だけでなく、身体能力もあの一瞬で強化しているな。
ルフは俺のスキルを自由に使えるだけで、素の能力が高いわけではないから、こういった相手とは相性が悪い。
今後はルフの防護魔法も俺が掛けてやったほうがいいかもしれないな。
「かろうじて避けたようだが、仲間の心配はしなくていいのかの?」
「心配不要だ。既に治した」
「お手間をお掛けしてすみません」
ハンナは何事もなかったかのように起き上がるルフを見て後退る。
「防護魔法を掛けてやったが、一応下がってろ」
「ありがとうございます」
ルフが頭を下げてから一歩下がる。
「もう一度だけチャンスをやる。殺された挙句孫を攫われたくないならガキと話をさせろ。さっきも言ったが話がしたいだけだ。お前を人質にしてガキに言うことを聞かせることは簡単だが、手荒な真似をしてないのは俺のわずかな優しさだ」
「……わかりました」
ハンナは苦虫を噛み潰したかのような顔をしながらも俺達を家の中に入れた。
そこに目的の人物がいるからだ。
以前、ルフの分身体に向かわせたが、悪魔だということがバレたことで警戒されて話し合いにすらならなかった。
女の力がどういったものなのかが不明な為、手荒な手段をとることも出来ずに引き返させた。
出来ることなら友好的に話をしたいが、女の身辺はルフに調べさせてあるので、最悪の場合は脅して言うことを聞かせることになるかもしれない。
「王国と帝国の方に何か動きはあったか?」
歩きながらルフに確認する。
俺自身も分身体を作って各地の情報を得ることは可能だが、魔術を実用できるレベルで習得することを考えると、意識を分散するのはあまり得策とは言えない。
なので、諜報は変わらずルフの役目だ。
「トップが代わった事でバタバタとしていましたが、大分落ち着いてきています」
「エルク達は?」
「まだ帰ってきていません。私はご両親の警護をしていることになっており同行していませんので詳細は分かりませんが、各地で活躍されている話はあちこちから聞こえてきます」
「予想通り冬季の間に周りきることは無理だったな」
「予定通り戻られるのは夏頃になると思われます。遠回りとなっても、戦の準備による影響が大きかった村、不作だった村に優先して向かっているようです。その甲斐もあって例年に比べて食糧不足による死者は減少しています」
「俺がエルクの中に閉じ込められなければ、エルク達がボランティアの旅に出ることはなかっただろうが、これは神の意図していた結果だと思うか?」
俺が閉じ込められ、創造という力を手に入れていなくてもエルクとエレナはボランティア精神に目覚めていたかもしれない。
しかし、エレナが莫大な力を手に入れる可能性はゼロではないが、エルクはただの子供のままだ。
食べ物を創り出すことも出来ないのだから、実現出来る可能性はゼロに等しい。
エレナが冒険者などで稼いだお金で、エルク達が住んでいた故郷の村を豊かにするのが関の山だろう。
もしこれが神の意図した結果なのだとすれば、俺はずっと神の手のひらの上で踊らされていたことになる。
この世界を豊かにすることに関しては特に思うことはない。
長いこと近くで見ていたエルクの大好きな姉がやりたいことなのであれば応援する気でさえいる。
しかし、これが神に踊らされた結果なのだとすれば話は別だ。
もしそうなら憤りしか感じない。
「私にはわかりません」
「会った時にわかるだろうから、それまでは自らの意思だと信じて進むしかないか」
「万が一、神の意思によるものだとしたらどうされるのですか?」
「その時になってみないとわからないな。ただ、なんとしてでもあいつらには俺を閉じ込めたことを後悔させる」
俺が今こうしてリュートの体を貰っていることさえ神の手中なのかもしれないが、最後に笑うのは俺だ。
会いに向かっている獣人の女もその一環だ。
焦らずに、今は力を蓄える。
魔術の訓練をしながら進み、途中で拾い物をしたので帝都に寄ってからリーバイルに入る。
目的の女は街から少し離れたところにポツンと家を建てて暮らしているので、宿を確保した後手土産を買って持って行くことにする。
「グルルル……」
家に近づいた所でウルフ5匹に威嚇されるが、無視して横を通り家のドアをノックする。
「どちら様でしょうか?そちらの方は以前に来られた悪魔の方ですね」
狼の耳を生やした、獣人の婆さんが出てきて尋ねられる。
ルフは姿を以前とは変えているそうだが、それでも気付かれたようだ。
「ハンナだな。俺はリュート。頼みがあってきた。こいつは俺に服従しているから、悪魔だが安心してくれて構わない」
「頼みとはなんでしょうか?昔は名の知れた冒険者として活躍していましたが、今は見ての通りの老いぼれです」
確かに全盛期に比べて力は衰えているのだろうが、ルフを悪魔だと気付くあたり、冒険者としての勘や経験は残っているようだ。
「そこにいるウルフはよく調教されていると思ってな。どうやれば魔物と仲良くなれるのか教えてもらいたい」
「ウルフも犬や猫と同じです。愛情をもって接すれば言葉が通じなくても心を通じ合うことは出来ます」
「そんな戯言を聞くためにここまで来たわけじゃない。魔物が人を襲うのは本能だ。ペットとは違う」
「リュートさんにとってはそうなのでしょう」
1匹くらいなら本能に抗った変異種だったということで、ありえない話ではないかもしれない。
しかし、家の中にもウルフが3匹いるのはわかっている。
しかもその内の1匹はハイウルフだ。
仲良くなら為に餌を与えようと近付こうものなら、そのまま自身が餌になる未来しかない。
「お婆ちゃん、お客さん?」
素直に話してくれる気はなさそうなので、どうしたものかと考えていると、タタタッとこちらに向かって走ってくる音が聞こえて、獣人の男の子がドアの隙間から顔を出す。
「お婆ちゃんは大事な話をしているから、中で遊んでなさい」
「……うん」
男の子は引きつった笑顔を浮かべてから、顔を引っ込めていなくなる。
「おい、ルフ」
「はい、なんでしょうか?」
「聞いていた話と根本から違うようだが?」
「あなた様が何にお怒りになられているのかがわかりません」
ルフは震えながら答える。
「まだわからないなら相手が上手だったということか。話が変わった。さっきのガキと話をさせろ。お前に用はなくなった」
「お帰りください。かわいい孫に悪魔を連れている方と会わせる気はありません」
「お前を殺してガキを攫うことは簡単だが、今なら話をするだけで事は済むかもしれない。俺は知りたいことが聞ければ、わざわざガキの心に深い傷を負わせる気もない」
俺が言ったことでハンナは殺意を剥き出しにして襲い掛かってくる。
自身の爪を鋭く伸ばし、硬度を高める。
単純だが、常人では反応さえ出来ないであろう速さでの魔法の展開、そして練度。
俺は爪の軌道を見て最低限の動きで避けたが、ルフは胸を深く抉られて倒れる。
元とはいえ、流石は名の知れた冒険者と自身で言うだけのことはある。
「なかなかの腕だな。獣人の特性を上手く活かした一撃だ」
爪だけでなく、身体能力もあの一瞬で強化しているな。
ルフは俺のスキルを自由に使えるだけで、素の能力が高いわけではないから、こういった相手とは相性が悪い。
今後はルフの防護魔法も俺が掛けてやったほうがいいかもしれないな。
「かろうじて避けたようだが、仲間の心配はしなくていいのかの?」
「心配不要だ。既に治した」
「お手間をお掛けしてすみません」
ハンナは何事もなかったかのように起き上がるルフを見て後退る。
「防護魔法を掛けてやったが、一応下がってろ」
「ありがとうございます」
ルフが頭を下げてから一歩下がる。
「もう一度だけチャンスをやる。殺された挙句孫を攫われたくないならガキと話をさせろ。さっきも言ったが話がしたいだけだ。お前を人質にしてガキに言うことを聞かせることは簡単だが、手荒な真似をしてないのは俺のわずかな優しさだ」
「……わかりました」
ハンナは苦虫を噛み潰したかのような顔をしながらも俺達を家の中に入れた。
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