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魔王

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転移の練習をしながら、ルフの分身体を連れて魔族領へと向かう。
ルフを仲間に引き入れてすぐの頃、まともに転移出来ないルフに怒りをぶつけたが、これは確かに難しい。
何度も失敗するルフに対して「お前の努力が足りない」と言ってしまったが、あの言葉は取り消さないといけないな。

『本当に魔王に会うの?』
リュートが聞いてくる。
先代の魔王を殺しているリュートは魔王に会いたくないのだろう。

しかし魔王には会わないといけない。
俺の為ではあるが、これは今後共に生きることになったリュートの為でもある。

「神を殺すのにあの男の協力は必要だ。それに確認しないといけないこともある」

『わかりました。覚悟を決めます』

「転移に慣れるまでには相当時間が掛かりそうだ。歩いて向かうのと変わらないかもしれない。ゆっくり心を落ち着かせておけ」


魔術の訓練もしつつ進み続け、魔王がいる城まで到着する。
魔族領を歩いてきたが、人は多くはないが暮らしており、魔族と人族が険悪な仲というわけではなさそうだ。

王国や帝国に比べ、街の発展は遅れているようだが、貧富の差は少ないように思える。
魔王が絶対的な立場に君臨しており、魔王の思想が反映されている結果だろう。
リュートの件で人族との仲裁もしたことで、魔王は敵の話にも耳を傾ける心優しい強き王として君臨し続けている。

真実を隠して。


「心の準備は出来たか?」
城の中に入る前にリュートに確認する。

『出来てはいないけど、逃げられるわけじゃないから、僕のことは気にせずに入っていいよ』

「そうさせてもらう」


「魔王に会いにきた。通してくれ」
城門にいる兵士に話しかける。

「名前は?面会の手続きは済んでいるのか?」

「俺はリュートだ。面会の申請はしていない。会わなければ城を破壊すると責任者に伝えろ。それから、魔王の嘘を俺は知っているともな」

「……上の者に確認してくる。ここで待たれよ。……暴れるなよ」
門兵の1人が城の中へと走っていく。

しばらくして、先程の兵士が上官を連れて戻ってきた。
「中で詳しい話をお聞きします。陛下との会談はその後でもよろしいでしょうか?」

「俺は構わないが、魔王には秘密が部下に漏れてもいいのか言っておいてくれ。あまりに時間が掛かるようなら、ポロリと話してしまうかもしれないとな」

「かしこまりました。それではご案内します。私に付いてきてください」

兵士に付いていき、客間に通される。
客間に入ると、中には魔族が1人立っていた。

「お初にお目にかかります。私はスクロムと申します。魔王様はお忙しい身であります故、僭越ながら私が対応させて頂きます」

「俺はリュートだ。右腕である副官のお前が対応するのだから、俺を軽んじているわけではないと思っておいてやる」

「私のことをご存じでしたか」

「ああ。あいつがいなければ、お前が魔王になっていただろう。それくらいの実力があることは知っている。あの男の下に付くしかない実力だということもな」

「ご用件をお伺いします」
挑発には乗ってこないか。

「以前スキル屋が来ただろ?その件と、魔王の秘密についてだ。秘密については、今のところお前に話すつもりはない」

「その件であれば、以前に魔王様がお断りされたはずです。魔族領の者には怪しい者が現れてもスキルを買わないようにお触れを出しています」
そのせいで魔族領では契約が進んでいない。
それだけ魔王への忠誠が強いということだ。

「前回とはこちらに大きな変化があったから、スキル屋の代わりに俺が来た。前回は従うしかなかったが、本来魔王の許可をとる必要はない。今回は礼儀として話をしに来ただけだ。このまま魔王が現れなければ、それでも構わない。特にお前と話すことはないのだが、いつまでここで待てばいいんだ?」

「魔王様がお会いになられると仰ればすぐにでもご案内致します」
つまり、魔王が拒否すれば案内するつもりはないと。

「30分待つ。それまでに決めなければ、まずはお前に魔王の秘密を話す。もう30分待った後は魔族領の隅々にまで魔王の秘密を広める。魔王にそう伝えてこい」
スクロムは客間を出て行き、10分ほどして戻ってくる。

「魔王様がお会いになられるとのことです。魔王様のお部屋に案内します」

「俺は王の間でも構わないが?」

「魔王様が自室で会うと仰られています」
魔王自身も知られたらマズい秘密を知られたと思っているということだろう。


「魔王様。リュート様をお連れ致しました」
スクロムが壁越しに魔王に伝える。

「通せ」

「お前も一緒に話を聞け。証人だ」

「魔王様。リュート様が私も同席するように仰っていますが、よろしいでしょうか?」

「…………入れ」
少し間を置いてから返事がある。

スクロムが扉を開け、中に入る。

「……生きていたとは驚きだな。今度は我を殺しに来たのか?」
魔王が平静を装って口を開く。
魔王程度であれば、ちゃんと俺をリュートだと認識しているな。

「秘密を話してほしいとそう言っているのか?せっかく広めないでいてやっているのに、その必要がないなら黙っている必要もないか?」

「我に知られて困るほどの秘密はないが、誰しもが少なからず秘密はもっているものだ。あれだけのことをしておき今更現れ、我を脅そうとするその態度は気に入らぬな」

「魔族というのは随分と長生きなんだな。それともお前が特別なのか?どこからその生命力が生まれてくるのだろうな。……まぁ、今日の要件はスキル屋のことだ。あの件に関しては奪った物を返してくれれば、それで俺は忘れてやる」

「何の話をしているのかわからないな。それから、貴様らが何を企んでいるのか知らぬが、良からぬことをしでかそうとしているのであろう。他の国では知らぬが、我の国で許可することはない」

「お前が禁止する前にスキルを買った者はラッキーだったな。お前の言う通りスキルは今後魔族領では売らない。スキルを売っているのはただの善意だ。あれ自体に大きな意味はない。物流の流れは良くなり、魔物に殺される冒険者も減った。日々の生活も少し豊かになったな。ただそれだけだ。魔族領はそれを拒否した。それだけ聞ければ十分だ。お前が王である間は約束を守るとする」
スキルを売るというのは、人を集める為の餌でしかない。
スキルを回収すると脅して言うことを聞かせるという役割もあるが、それが狙いではない。
契約させて、俺の魔力を増やす。
それが出来れば、スキルを与えなくてもいい。

「それじゃあ、お前の秘密について話をしようか。奪った物も返してもらわないとな」

「スクロム、退室せよ。やましいことをしているという自覚はないが、我自身で聞かなければ聞かれてもよい話かどうかわからぬ」

「かしこまりました。失礼します」
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