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ダメ出し

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「カムイはここまでだな。休んでいなさい。他に力を試したい者はいるか?」
ロイド先生がカムイ君を休ませて、他に戦いたい人がいないか確認する。

「やらせてください」
先程のロック君とカムイ君の模擬戦を見た後だから誰も手を上げないと思ったけど、スレッド君が手を上げる。

「いいだろう」
ロイド先生が許可を出す。

「それじゃあ僕が先に行くね」
お姉ちゃんに言って、前へ出る。

「手合わせをお願いします」

「うん。こちらこそよろしくお願いします」
スレッド君が差し出した手を握り、握手をしてから少し距離をとる。

「準備はいいな。始め!」

ボフっ!
ロイド先生の合図と同時にスレッド君がとんでもない速さで迫ってくる。

自身の後ろに爆発を起こすことで爆風を起こし、瞬間的な速さを得たようだ。
走ってくるというより、飛んでくるといった方が正しいと思う。

僕は前もってストックしてあった身体強化と脚力強化に腕力強化、それから思考加速とシールドの支援魔法を自身に掛ける。
身体強化とシールドは模擬戦前から掛かっていたけど、模擬戦が始まる前から掛けているのはズルい気がしたのでもう一度掛けた。
複合のスキルでまとめてストックしてあるのを解放しただけなので、一部だけを選んで使うことが出来ないという理由もあるけど……。

その間に目前まで来たスレッド君が剣を構えている。
刃は潰してあるけど鉄の塊だ。
爆発の勢いも乗っていることを考えると、当たったら防護魔法があっても痛いかもしれない。

どうやって戦うか迷う。
空中に飛んで逃げてから土魔法で拘束してしまえばそれで終わる気もするけど、どうせなら最近鍛えている土魔法がどれだけ自在に操れるようになったのか確認したい。

それに、ロック君が戦った後に手を上げてくれ、接近戦を仕掛けてきたスレッド君に対しても、空中に逃げるのは悪い気がする。

よし、接近戦を受けよう。

ギンっ!
スレッド君が振り下ろした剣は僕の左腕に当たり弾かれる。
シールドにより弾いたのではなく、僕が腕に纏わりつかせた土が盾の役割を果たして弾いた。

剣が当たったところには土が削れた跡が付いており、完全に無傷というわけではなかった。

とりあえず剣を防ぐ為に、まずは両腕に土を纏わりつかせたわけだけど、そのまま体全体を土で覆い、僕はゴーレムになる。

ゴーレムの核の代わりに僕自身が入っている形だ。

「硬ったいな」
痺れたのか手を振りながら言うスレッド君に向かって手をブンっ!と振る。

スレッド君にはひらりと避けられる。
やっぱり土を纏って大きくなる分重くなるから、動きが遅くなるな。
それでも身体強化のおかげで普通に動くより早く動けているけど、スレッド君の反応速度の方が早く当たらない。

ただ、避けられるならもっと早く動けばいい。
このゴーレムの強さはこの硬さによる守りだけじゃない。
土魔法で作った土を纏わりつかせているということが大事だ。

纏わりついた土を僕が振り回すのではなく、纏わりついた土の方に僕を動かしてもらう。
土魔法で土の塊を飛ばすのと同じ要領で、自分を弾丸のように動かすことが可能だ。
ゴーレムの形を保ったまま高速で動かすことが出来ているのは、訓練の成果が出ていると思う。

スレッド君に体当たりする形で吹き飛ばした結果、ロイド先生が試合を止める。

「ありがとうございました。ヒール!」
スレッド君に相手になってくれたことのお礼を言って、防護魔法で防ぎ切れずに負わせてしまった怪我を回復魔法で治す。

「エルク、一つ言っていいか?」
模擬戦が終わった後、ロック君に話しかけられる。

「何?」

「エルクがあのゴーレムの中に入る意味はあるのか?」

「何かマズかったかな?」
前回ロック君に制御を奪われたことも考えていたんだけど。

「ゴーレムの中に身を隠すのは悪くないが、相手にぶつかるなら、同じ大きさの岩でも作って飛ばした方が効果的じゃないか?エルクが中にいるメリットなんて何もないだろ」

「……でも、ロック君みたいに相手の魔法の制御を奪う相手なら、僕が中にいた方が効果的じゃないかな」

「エルクが中にいようと、遠くから操っていようと俺には関係ないな。俺が入り込む隙があるかどうかだけだ。エルクが中にいるなら、そのまま拘束出来るというメリットまで生まれるな」

「そっか。でもまだ、熟練度を上げる訓練中だから期待して待っててくれていいよ」

「ああ。ただ、勝つ負けるの前に戦が終わって復興が終わらないといけないがな」
ロック君の言う通りだ。
ロック君と戦うことはいつでも可能だけど、対抗戦という正式な場で戦うことはできない。

早く戦が取りやめになって、復興に戻りたい。

僕がロック君と話しているうちに、お姉ちゃんとスレッド君の模擬戦が始まり、学院祭で見た水龍がスレッド君を一瞬で飲み込んで模擬戦は終わった。

さっきまでは模擬戦が終わった後、良くも悪くも訓練場内は騒ついていたけど、今は静まり返っている。

「聞いていた以上のようだな。実力も確認出来たので訓練を始める」

「ロイド先生。王国の生徒は皆こんなにも強いのでしょうか?王国では特別な訓練をしているなら、その訓練を僕も受けたいです」
スレッド君が言った。
お姉ちゃんに力の差を見せつけられたすぐなのに、悲観することなく高みを目指そうとしている。

「この子達は特に優秀だと聞いている。学院に入る前から類いまれな力を持っていたそうだ。教育方針に違いはあるが、学院全体としてのレベルに大きな差はない。短い間ではあるが共に学ぶことになる。お前らにその気があるのなら得られるものもあるだろう。せっかくの機会を無駄にしないように」

「はい!」
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