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side ダイス⑤
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長期連休後、学院にロックという者が転入してきた。
こんな時期に転入してくるとは何者だと思っていたが、ロックはあの男のしもべだった。
「まだ王位は決まらないのか?」
ある日、ロックに言われる。
「継承権争いに負ける目はほとんどなくなったが、親父が重い腰を上げない」
第二王子派に残っているのは、悪事に手を貸している者と、古くから付き合いがあり縁を切ることのできない者だけだ。
ここまで確定的になっているのは、フランベルグ家のお陰だ。
大変な時だというのに、関与した貴族の手掛かりを見つけ出してくれた。
残念ながら関与したことを否定され、証拠も無かった為、処刑までもっていくことは出来なかったが、俺の命で軟禁した。
これは以前から流していた話だ。
無実だと確認出来るまでの軟禁なので、拒否する場合は後ろめたいことがあると判断すると言ってある。
俺は親父とは違うということが伝わり、第二王子派の中でも中立に近い者達が俺の派閥に入れて欲しいと言ってきた。
このまま俺が国王になった場合に爵位を下げられるからだ。
俺は条件付きで派閥に入る事を認める。
条件とは身辺の調査を徹底的に行うこと。
白い者は派閥に受け入れ、黒い者には罪に対して罰を与える。
場合によっては処刑となる。
後ろめたいことがあるなら、俺の派閥に入ることは辞退して中立派になればいい。
そうすれば恩恵は受けられないが、爵位を下げられることはない。現状維持だ。
このタイミングでもう一つ手を打っておいた。
俺は派閥とは関係なく全ての当主に手紙を送った。
内容は、以前流した、俺が国王になった時に第二王子派に所属していた貴族の爵位を下げるという話についてだ。
15日後の時点以降に第二王子派に所属していた貴族と明記した。
第二王子派に所属している貴族に選択を迫る手紙である。
ただし、恩恵を受ける俺の派閥はこの時点では確定させず、俺が実際に国王となった時に、それまでの働きを考慮して決めると明記してある。
結果として、俺が落ち目だったから第二王子派になった貴族達は第二王子派から抜けた。
「いい事を教えてやる。皇帝が戦をするか協議している。手遅れになる前に間に合えばいいな」
やはり動いたか……。
こんな時に攻められたら間違いなく負けるだろう。
「王国の為に戦ってはくれないか?」
答えはわかりきっているが、一応聞いてみる。
「断る。忠告はしてやった。これで帝国に攻められて王国が滅んだとしても、これが運命だ。力不足を悔め」
「そういうと思ったよ」
「だが、俺とお前の仲だ。少し手伝ってやる」
ロックはそう言って去っていった。
しばらくして俺は親父に呼び出しを受ける。
呼ばれた理由に心当たりはあるが、もしかして俺を疑っているのだろうか?
「何のようだ?」
俺は城に行き、親父に聞く。
「貴族の当主が謎の死を遂げている。何か知らないか?」
やはりその件か。
「誰が死んだんだ?」
俺の方でも情報は得ているが、確認の為に聞く。
「アルハグネ家とミナハ家、それからハルターナ家の当主だ」
「そうか。俺の方で得ている情報と同じだな」
「何か知らないか?」
「なんで俺が知ってると思うんだ?」
「3人とも第二王子派の貴族だ。特にアルハグネ侯爵は多大な発言力を持っていた」
「俺を疑っているのか?」
「疑わしい立場にいるという話だ」
「俺が関わった証拠があるのか?実際に俺が関わっているかは関係なく、親父は証拠がなければ動かないんだろう?」
実際に俺は関わっていないが、多分ロックの仕業だろう。
あの男が裏で糸を引いているなら、探したところで証拠なんて出てこないだろうな。
「我はダイスを疑っているわけではない」
「別に親父が俺を疑っていようとも、いなかろうとも、どちらでもいい。俺はもう親父には期待していない。話がそれだけなら帰っていいか?俺は忙しいんだ」
「何をそんなに急いでいるんだ?」
「帝国がこの隙を見逃すのかと思ってな。親父はそうは思わないのか?俺は国民の為にやることがたくさんあるんだ」
俺は言いたいことだけ言って城を出る。
しばらく経ち、また親父に呼び出される。
今度は緊急らしい。
先日、ロックから帝国が戦の協議を始めたという嫌な情報を聞いたから、それ関係か……?
城に行くと、いつもとは違い会議室に案内される。
親父以外にも相手がいるということか……。
会議室には宰相と大臣の他にクウザとクウザの母親がいる。
母上はいないのか。
何の話し合いだ?
異様な空気に包まれたまま待っていると、親父が入ってくる。
「それでは、私が進行させて頂きます」
宰相が会議を始める。
「先程、帝国が戦の準備をしているとの情報を得ました」
やはり、その話か。
「ダイス様は驚かれていない様子ですが、知っていたのですか?」
「以前からその懸念は口にしていたはずだ。やはり来たなという感想しかない」
宰相に聞かれたので、都合のいいように答える。
先にロックから聞いていたから、驚かなかっただけだが……。
「帝国と内通しているんじゃないかしら」
クソ女がふざけたことを口にする。
「盗賊と内通しているようなやつと一緒にするな」
「なんですって!私が盗賊と繋がっ「それで、なんで俺達を呼んだんだ?」」
時間の無駄なので話を遮って宰相に話の続きを促す。
「……帝国は継承権争いの隙をついて攻めるものと思われます。よって、早急に次の王を決める必要があります」
今頃になって慌てだしたということか。
「来週、建国を記念する式典が行われる。そこで次の王を民衆に発表する予定だ。次の王は既に決めてある。ダイスを次の王とする。ダイスが不慮の事故で亡くなった場合にはリリスを女王とする」
クソ女が肩を震わせて、怒りをあらわにしているが、当然の結果であろう。
クウザが完全に外されたのは、俺を殺せば王になれるという目を完全に消したかったからだろうな。
「そんなことを、他の貴族の確認も得ずに決めてもいいのか?派閥の大きさからしても結果は変わらないだろうが、後々のことを考えるとちゃんとした方がいいんじゃないか?」
「今は時間が限られている。事後にはなるが、説明はする」
「それで第二王子派の連中が納得するのか?」
「そうよ!!徹底的に抗議しますわよ!」
「納得させる必要も抗議を聞く必要もない。貴様の悪事は目に余る。死を持って償ってもらう」
親父は今更になって処刑することにしたようだ。
「私が何をしたというのよ!何か私が悪事に関わった証拠でもあるっていうのかしら!?私よりもそいつを疑った方がいいんじゃない?私の派閥の貴族が何人も殺されてるのよ」
「今はダイスではなく貴様の話だ。証拠が必要だという話だったな。潔白を証明する為にも貴様の屋敷を調べさせてもらう。それまでは牢屋に入ってもらう。それなら構わないだろう」
「横暴よ!」
「必要なら俺の部屋も調べてもらって構わないぜ。俺“は”やましいことなんてしてないからな。俺の派閥の貴族の屋敷を調べてもらっても構わない。それで何か悪事を働いているのが判明したなら、遠慮なく罰を与えてやってくれ。それがこの国の為だ」
「構わないな。拒んでも結果は変わらない」
親父が有無を言わせない。
クソ女が項垂れる。
見られたらまずいものでも屋敷にあるのだろう。
「罪は一族で負ってもらう。クウザにも牢に入ってもらう」
親父の言葉を聞いて、クウザの顔色が悪くなる。
継承権争いを完全に終わらせる為に決めたのだろうが、あの男が言っていたことを考えるとそれは困る。
「クウザが何か悪い事をしたのか?」
俺はクウザは助ける方向で話をしてみることにする。
「何故ダイスがクウザを庇うのだ?」
親父に聞かれるが、それはあの男を敵に回さない為に他ならず、クウザに罰を与えたいという気持ちはないが、助けたいという気持ちも俺にはない。
「庇ったわけじゃない。罪を犯したのはこの女で、クウザは操り人形になっていただけだろう。親父は継承権争いを終わらせたいだけだろうから、継承権だけ剥奪すればいいんじゃないか?自分の息子をそんな簡単に殺すな」
言いながら思う。
母上の件で周りから疎ましく思われながら過ごした自分を、クウザに重ねていたのかもしれないと。
「クウザの存在はダイスにとって足枷にしかならないと思うがいいのか?」
「俺が王となった時に、クウザが馬鹿な考えをしたら、俺がクウザを処刑すればいい話だ」
「宰相と大臣はどう思う?」
親父が確認する。
「ダイス様がよろしいのであれば問題ないかと思います」
宰相が答える。
「私も同意見です」
大臣が同意する。
その後、クウザは騎士団預かりとして監視下に置く事で会議が終わる。
予定よりも大分時間が掛かったが、これで帝国も攻めるのを止めるだろう。
こんな時期に転入してくるとは何者だと思っていたが、ロックはあの男のしもべだった。
「まだ王位は決まらないのか?」
ある日、ロックに言われる。
「継承権争いに負ける目はほとんどなくなったが、親父が重い腰を上げない」
第二王子派に残っているのは、悪事に手を貸している者と、古くから付き合いがあり縁を切ることのできない者だけだ。
ここまで確定的になっているのは、フランベルグ家のお陰だ。
大変な時だというのに、関与した貴族の手掛かりを見つけ出してくれた。
残念ながら関与したことを否定され、証拠も無かった為、処刑までもっていくことは出来なかったが、俺の命で軟禁した。
これは以前から流していた話だ。
無実だと確認出来るまでの軟禁なので、拒否する場合は後ろめたいことがあると判断すると言ってある。
俺は親父とは違うということが伝わり、第二王子派の中でも中立に近い者達が俺の派閥に入れて欲しいと言ってきた。
このまま俺が国王になった場合に爵位を下げられるからだ。
俺は条件付きで派閥に入る事を認める。
条件とは身辺の調査を徹底的に行うこと。
白い者は派閥に受け入れ、黒い者には罪に対して罰を与える。
場合によっては処刑となる。
後ろめたいことがあるなら、俺の派閥に入ることは辞退して中立派になればいい。
そうすれば恩恵は受けられないが、爵位を下げられることはない。現状維持だ。
このタイミングでもう一つ手を打っておいた。
俺は派閥とは関係なく全ての当主に手紙を送った。
内容は、以前流した、俺が国王になった時に第二王子派に所属していた貴族の爵位を下げるという話についてだ。
15日後の時点以降に第二王子派に所属していた貴族と明記した。
第二王子派に所属している貴族に選択を迫る手紙である。
ただし、恩恵を受ける俺の派閥はこの時点では確定させず、俺が実際に国王となった時に、それまでの働きを考慮して決めると明記してある。
結果として、俺が落ち目だったから第二王子派になった貴族達は第二王子派から抜けた。
「いい事を教えてやる。皇帝が戦をするか協議している。手遅れになる前に間に合えばいいな」
やはり動いたか……。
こんな時に攻められたら間違いなく負けるだろう。
「王国の為に戦ってはくれないか?」
答えはわかりきっているが、一応聞いてみる。
「断る。忠告はしてやった。これで帝国に攻められて王国が滅んだとしても、これが運命だ。力不足を悔め」
「そういうと思ったよ」
「だが、俺とお前の仲だ。少し手伝ってやる」
ロックはそう言って去っていった。
しばらくして俺は親父に呼び出しを受ける。
呼ばれた理由に心当たりはあるが、もしかして俺を疑っているのだろうか?
「何のようだ?」
俺は城に行き、親父に聞く。
「貴族の当主が謎の死を遂げている。何か知らないか?」
やはりその件か。
「誰が死んだんだ?」
俺の方でも情報は得ているが、確認の為に聞く。
「アルハグネ家とミナハ家、それからハルターナ家の当主だ」
「そうか。俺の方で得ている情報と同じだな」
「何か知らないか?」
「なんで俺が知ってると思うんだ?」
「3人とも第二王子派の貴族だ。特にアルハグネ侯爵は多大な発言力を持っていた」
「俺を疑っているのか?」
「疑わしい立場にいるという話だ」
「俺が関わった証拠があるのか?実際に俺が関わっているかは関係なく、親父は証拠がなければ動かないんだろう?」
実際に俺は関わっていないが、多分ロックの仕業だろう。
あの男が裏で糸を引いているなら、探したところで証拠なんて出てこないだろうな。
「我はダイスを疑っているわけではない」
「別に親父が俺を疑っていようとも、いなかろうとも、どちらでもいい。俺はもう親父には期待していない。話がそれだけなら帰っていいか?俺は忙しいんだ」
「何をそんなに急いでいるんだ?」
「帝国がこの隙を見逃すのかと思ってな。親父はそうは思わないのか?俺は国民の為にやることがたくさんあるんだ」
俺は言いたいことだけ言って城を出る。
しばらく経ち、また親父に呼び出される。
今度は緊急らしい。
先日、ロックから帝国が戦の協議を始めたという嫌な情報を聞いたから、それ関係か……?
城に行くと、いつもとは違い会議室に案内される。
親父以外にも相手がいるということか……。
会議室には宰相と大臣の他にクウザとクウザの母親がいる。
母上はいないのか。
何の話し合いだ?
異様な空気に包まれたまま待っていると、親父が入ってくる。
「それでは、私が進行させて頂きます」
宰相が会議を始める。
「先程、帝国が戦の準備をしているとの情報を得ました」
やはり、その話か。
「ダイス様は驚かれていない様子ですが、知っていたのですか?」
「以前からその懸念は口にしていたはずだ。やはり来たなという感想しかない」
宰相に聞かれたので、都合のいいように答える。
先にロックから聞いていたから、驚かなかっただけだが……。
「帝国と内通しているんじゃないかしら」
クソ女がふざけたことを口にする。
「盗賊と内通しているようなやつと一緒にするな」
「なんですって!私が盗賊と繋がっ「それで、なんで俺達を呼んだんだ?」」
時間の無駄なので話を遮って宰相に話の続きを促す。
「……帝国は継承権争いの隙をついて攻めるものと思われます。よって、早急に次の王を決める必要があります」
今頃になって慌てだしたということか。
「来週、建国を記念する式典が行われる。そこで次の王を民衆に発表する予定だ。次の王は既に決めてある。ダイスを次の王とする。ダイスが不慮の事故で亡くなった場合にはリリスを女王とする」
クソ女が肩を震わせて、怒りをあらわにしているが、当然の結果であろう。
クウザが完全に外されたのは、俺を殺せば王になれるという目を完全に消したかったからだろうな。
「そんなことを、他の貴族の確認も得ずに決めてもいいのか?派閥の大きさからしても結果は変わらないだろうが、後々のことを考えるとちゃんとした方がいいんじゃないか?」
「今は時間が限られている。事後にはなるが、説明はする」
「それで第二王子派の連中が納得するのか?」
「そうよ!!徹底的に抗議しますわよ!」
「納得させる必要も抗議を聞く必要もない。貴様の悪事は目に余る。死を持って償ってもらう」
親父は今更になって処刑することにしたようだ。
「私が何をしたというのよ!何か私が悪事に関わった証拠でもあるっていうのかしら!?私よりもそいつを疑った方がいいんじゃない?私の派閥の貴族が何人も殺されてるのよ」
「今はダイスではなく貴様の話だ。証拠が必要だという話だったな。潔白を証明する為にも貴様の屋敷を調べさせてもらう。それまでは牢屋に入ってもらう。それなら構わないだろう」
「横暴よ!」
「必要なら俺の部屋も調べてもらって構わないぜ。俺“は”やましいことなんてしてないからな。俺の派閥の貴族の屋敷を調べてもらっても構わない。それで何か悪事を働いているのが判明したなら、遠慮なく罰を与えてやってくれ。それがこの国の為だ」
「構わないな。拒んでも結果は変わらない」
親父が有無を言わせない。
クソ女が項垂れる。
見られたらまずいものでも屋敷にあるのだろう。
「罪は一族で負ってもらう。クウザにも牢に入ってもらう」
親父の言葉を聞いて、クウザの顔色が悪くなる。
継承権争いを完全に終わらせる為に決めたのだろうが、あの男が言っていたことを考えるとそれは困る。
「クウザが何か悪い事をしたのか?」
俺はクウザは助ける方向で話をしてみることにする。
「何故ダイスがクウザを庇うのだ?」
親父に聞かれるが、それはあの男を敵に回さない為に他ならず、クウザに罰を与えたいという気持ちはないが、助けたいという気持ちも俺にはない。
「庇ったわけじゃない。罪を犯したのはこの女で、クウザは操り人形になっていただけだろう。親父は継承権争いを終わらせたいだけだろうから、継承権だけ剥奪すればいいんじゃないか?自分の息子をそんな簡単に殺すな」
言いながら思う。
母上の件で周りから疎ましく思われながら過ごした自分を、クウザに重ねていたのかもしれないと。
「クウザの存在はダイスにとって足枷にしかならないと思うがいいのか?」
「俺が王となった時に、クウザが馬鹿な考えをしたら、俺がクウザを処刑すればいい話だ」
「宰相と大臣はどう思う?」
親父が確認する。
「ダイス様がよろしいのであれば問題ないかと思います」
宰相が答える。
「私も同意見です」
大臣が同意する。
その後、クウザは騎士団預かりとして監視下に置く事で会議が終わる。
予定よりも大分時間が掛かったが、これで帝国も攻めるのを止めるだろう。
応援ありがとうございます!
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