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窮地

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赤い龍の群れと白い龍が目と鼻の先までやってきてしまった。
他にも見たことのない魔物が数えられない程にいる。

赤い龍1匹でも苦戦したのに、この数は無理だ。
しかも、万が一倒せたとしてもこれが最後ではない。まだまだ魔物の影がある。
逃げるしかないか……。

「くそっ!!……撤退だ!無駄死にする必要はない!動ける者は負傷者を担ぎ退避しろ!」
先程僕に話しかけてきた指揮官らしき騎士が撤退の指示を出す。

「ここまでだな……。逃げ遅れた者を探しながら退避する。殿は俺とカッシュで務める。悪いな」
ギルドマスターも冒険者に撤退の指示を出した。

ギルドマスターとカッシュさんで皆が逃げるだけの時間を稼ぐらしい。
さっきの指揮官らしき騎士を含め、騎士も何人か残っている。

「エルク!お前も逃げろ!ここは本来お前のような子供の来るところではない。見て見ぬふりをしてやるのもここまでだ」
カッシュさんに大声で言われる。

「みんなが逃げる時間を稼いだら、逃げます」
逃げるかどうか迷っていたけど、騎士と冒険者の人が逃げる判断をしたならば、逃げる時間を稼いでから逃げることにしようと決める。

「いいから逃げろ!」

「カッシュさんは逃げないんですよね?時間を稼いだら一緒に逃げましょう」
カッシュさんの気持ちに嬉しく思いながら、僕は1人では逃げないと答え、巨大な土壁を作る。

これで、地上の魔物の侵攻は少しの間止められるはずだ。

上空の魔物に意識を集中し、無理に倒そうとはせず、これ以上進ませないようにすることに重点を置き、スキルを発動していく。

しかし、残念ながら僕の攻撃はあまり効いてはおらず、ヘイトだけが僕の方に向けられていく。

今は何故か白い龍が静観しているおかげで、なんとか生きているが、ヤバいな……。
そう思っていた時、さらにマズイことが起きる。
土壁が壊れてしまった。

上空の魔物の攻撃を防ぐだけでも間に合っておらず、ジリジリと追い詰められていたのに、さらに地上の魔物の相手までしないといけなくなった。

死ぬわけにはいかないと思い、自身の周りに土壁を作り姿を隠し、隠密を発動する。

しかし、一部の魔物を除いて、隠密では隠れきれなかった。
変わらず上空からは赤い龍に炎のブレスを吐かれ、地上からは魔物が突進してくる。
こいつらは隠密が通じない程に格上の相手らしい。

「カッシュさん!十分に時間は稼ぎました。逃げましょう」
これだとカッシュさん達と意思疎通が取れなくなるだけなので隠密を解き、カッシュさんに逃げるように言う。

「……ギルマス、撤退しましょう。私達が逃げないとエルクまで逃げません」

「…………そうだな。俺達は撤退する。騎士どもも逃げろ!これ以上は無駄死にだと思え!これは恥ではない」
ギルマスが決断し、騎士にも逃げるように言う。

よし、逃げよう。
そう思った瞬間、背筋が凍る。
ガクガクと震えながら上空を見ると、先程まで静観していた白い龍がこちらを見ていた。

全身から汗が噴き出し、警鐘を鳴らす。

白い龍はブレスを吐こうとしている。
僕はシールドを張り直し、時間の許される限り結界を幾重にも張る。

白い龍が白光りするブレスを吐く。
幾重にも張った結界は次々に破壊されていく。

死んだ……。

「ぐはぁ!」
そう思った瞬間に体にとてつもない衝撃が走り、吹き飛ばされ、外壁に叩きつけられる。

足が動かず、立ち上がれない。
腹部に鈍い痛みを感じて触るとベットリと血が付いた。

白い龍はまだこちらを見ており、2発目のブレスを吐こうとしている。

間に合わない。
自身に回復魔法を掛けながら、今度こそ死を覚悟する。

白い龍を睨みながら、ロック君から秘薬をもらった事を思いだす。
反動が来ると言っていたけど、どうせこのままだと死ぬのだから関係ない。

僕はアイテムボックスから秘薬を取り出して飲み込む。

ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!

飲んだ瞬間心臓の鼓動が一気に大きくなる。
そして、魔力が制御しきれなくなり、体から魔力が勝手に放出されていく。
ブレスをそろそろ吐かれそうだ。
ブレスを吐かれる前になんとか制御しようとするが、僕はそのまま意識を失った。


死んだと思ったけど、僕は目を覚ます。
「良かった……」

お姉ちゃんに涙目で抱きしめられる。
「あれ……。ここは?」

「王都北の街道よ。エルクは空から落ちてきて、ずっと目を覚さなかったの」
お姉ちゃんの側にはリーナさんがいる。

「……はっ!逃げないと」
なんで助かったのかわからないけど、少しでも遠くに逃げないといけない。
そう思って立ち上がろうとするが、動けない。

「魔物はいなくなったみたいよ」

「え?」

「急に空が夜よりも暗くなったと思ったら、空を飛んでいた魔物の姿が無くなっていたわ。騎士が確認に行って、少し前に戻ってきたんだけど、魔物がいなくなっていたみたいよ。それでも危険が残っているかもしれないから、今はここで待機している所なの」

「……そうなんだ。体が動かないんだけど、魔力を暴走させた時と同じ感じなんだ。前みたいに回復魔法を掛けてくれない?」
体から溢れる魔力を制御しきれなく、暴走したのかもしれない。
暴走じゃなくて、これがロック君の言っていた反動かもしれない。秘薬を飲んでから目を覚ますまでの記憶がないけど、これも秘薬の反動かな……。

「はい。これで動ける?」
お姉ちゃんに回復魔法を掛けてもらう。

「ありがとう。動けるようになったよ。ルフからお姉ちゃん達とは合流出来なかったって聞いているけど、すぐに逃げなかったの?」

「怪我した人を助けながら、避難誘導をしてたよ。エルクは何してたのよ」

「……南門で魔物と戦ってたよ」

「馬鹿!なんでそんな危険な所に行ってるの!?」
お姉ちゃんに怒られる。

「落ち着いて。エルク君も自分にやれることをやろうとしたんだよ」
リーナさんがお姉ちゃんに言う。

「リーナは黙ってて。エルクは昔から何も考えずに突っ走って行くから心配なのよ。今回だってエルクがどうにか出来る相手じゃなかったわ。私はエルクを失いたくないの」

「……でも、僕が時間を稼いだ方がたくさんの人が逃げれる可能性があったと思うよ」
お姉ちゃんの言うことはもちろんわかるけど、僕もやれることはやりたいのだ。

「その考えは立派よ。でも自分の命を犠牲にしてまでやることじゃないわよ。それとも全く危険は無かったって言うつもり?」

「で、でも、冒険者の人や騎士の人も命を掛けて戦ってたよ」

「あの人達ならいいなんて言うつもりはないけど、あの人達はその職に就いた時に、こういう時には命を掛けて戦う覚悟をしているのよ。でもエルクは違うでしょ。その場の考えで動かないで。エルクが死んだらお母さんとお父さんも悲しむわ」

「ごめんなさい」
泣きながら言うお姉ちゃんを見て、反論なんて出来なかった。

「生きて帰ってきて本当に良かったわ」
再度お姉ちゃんにギュッとされる。

「ラクネは?南門までは行ってないけど、ラクネも怪我した人を助けるって逃げずに王都に残ってたんだよ。ロック君に見かけたら逃すようにお願いしたんだけど……」

「……わからないわ。お母さん達が無事かもわからないし、誰が助かって、誰が犠牲になってしまったのかはわからない」
リーナさんが悲しい顔で答える。

「僕が戦いに行くって言ったからラクネも逃げずに王都に残るって言ったと思うんだ。ごめんなさい」

「エルク君が謝ることじゃないわよ。あの子が自分で選んだ道よ」
リーナさんはそう言うけど、僕が逃げようと言えばラクネは逃げたかもしれない。

無事だといいけど……。

『エルク様、よろしいでしょうか?』
ルフから連絡が来る。

『大丈夫だよ』

『ラクネ様と合流することが出来ました。魔物の気配もありませんので合流したいのですが、どちらにいらっしゃいますか?』
良かった。ラクネは無事なようだ。

『北門の近くの街道沿いだよ』

『かしこまりました。皆さんを警護しながら向かいます』

「ルフにお母さん達とリーナさんの家族の事も任せていたんだけど、ラクネとも合流出来たって今連絡が来たよ」
2人に家族が無事なことを伝える。

「良かった……。エルクはルフと離れてても連絡が出来るの?」
お姉ちゃんが安堵する。

「出来るよ。だからすぐにお母さん達を連れて逃げるように連絡して、逃げる時にラクネの家族が逃げ遅れてないか確認するように頼んでおいたんだよ」

「ありがとう、安心出来たわ」
リーナさんにお礼を言われる。

しばらくして、お母さん達と合流する。
みんな無事で本当に良かったと思うけど、ダイス君やローザ達、学院のみんなは無事だろうか……
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