上 下
139 / 201

side 俺④

しおりを挟む
エルクのロックされた記憶を覗こうと俺は試行錯誤していたが、突破口を見つけられぬまま時間だけが過ぎていく。

長期休暇が終わり、エルクのクラスに転入生がやってきた。
エルクは宿題のことで頭がいっぱいのようで、クラスに1人増えていることに気づいていない。

このアンジェリーナという女は無視できない。
強奪というスキルを持っている。

強奪というスキルを見て、俺と同じで神から貰ったのかと疑う。

エルクを俺が鑑定すると、エルクと俺の鑑定結果が別枠で表示される。

フレイという女も同じだ。
フレイ ハーベストとロザリーという2人の鑑定結果が表示される。
これは1度の鑑定で2人鑑定されたということだ。

学院長の場合は同じ枠の中に名前が複数表示されるので、また別である。

アンジェリーナを鑑定しても1人分しか鑑定結果は表示されない。
強奪のスキルをどうしたのかは不明のままだが、俺のような存在がアンジェリーナの中にいるわけではなさそうだ。

アンジェリーナは意を決したようにエルクに強奪のスキルを使用した。

これは学院長とアンジェリーナの会話を盗み聞きしていたのでわかっていたことだ。

学院長はエルクが特殊なスキルを持っていると睨んでいるようで、アンジェリーナに奪わせて、自分の都合の良いように使わせるつもりのようだ。

アンジェリーナの境遇に関しても聞いていたので、いくらでも創れるスキルの一つくらい奪わせてもいいかと放置した。
俺が自ら出来ることもないしな。

一応、俺から創造のスキルを奪った時の為に強奪のスキルを創っておいた。

エルクは認識していないから俺が獲得しているスキルを使えないだけで、認識させれば創造と同様に強奪も使えるはずだ。
だからエルクには、今後水晶で鑑定させるわけにはいかない。
俺が獲得した、エルクには身の覚えのないスキルがたくさん表示されるからだ。

創造を奪われたら、エルクに強奪させて奪い返すように仕向けようと思う。

エルクはアンジェリーナにアイテムボックスのスキルを奪われた。
創造ではないからいいが、運が悪いとしかいいようがない。

火魔法とかなら奪われたところですぐに創り直せるのに、よりによってアイテムボックスか……。

エルクはアイテムボックスが使えないことに気づき、意味がわからないようで慌てた後、ヘコんでいた。
アイテムボックスに入れていた物もなくなったので、さらに落ち込む。

頑張れと陰ながら応援するしかない。

それからさらにしばらく経ち、エルクが護衛訓練をすることになった。

訓練当日、冒険者が護衛対象役をするという話だったが、そこにいたのはライオネットと名乗る学院長だ。
見た目は冒険者で、顔も違う。
学院長は変装というスキルが使えるようなので、多分このスキルを使ったのだろう。

俺には鑑定が使えるのでバレバレだが、エルク達はあれが学院長だとは気づいていないようだ。
まあ、鑑定結果以外は完璧なので気付く方が異常か……。

学院長の企みは全てわかっており、今まで様子を見てきてやっと動いたのかという印象だ。
企み通りに進むならエルクに危険はないので放置する。
エルクに訓練に参加しないように念を送ったところで、なんだか参加しない方がいいのかなって思うだけで、理由のわからないエルクは参加することになるだろうしな。

学院長はエルクがアイテムボックスを使っていると言い、作り話っぽい話をエルクにした。

アンジェリーナから強奪でアイテムボックスを奪ったという話を聞いていたから気づいたのか、カマをかけたのかどちらかだろう。

馬車の中にはエルクの姉であるエレナの姿をしたイルラという女が乗っている。
この女が何者か詳しくは知らないが、学院長の変装のスキルでエレナに化けている。

エルクは姉と再会したことに喜んでいるが、姉の皮を被ったイルラと話をしているうちに少しずつ様子が変わっていく。

学院長のように別人に変装するなら気付かれないが、知り合い……それも姉と話しているのだ。
鈍感なエルクであっても流石に違和感を感じているようだ。
偽物だと確信は得られてないみたいだが……

イルラがエルクのスキルについて探りを入れてくる。

同じ馬車にラクネも乗っており、王子も話の聞こえるかもしれない所にいるので話しはしないと思うが、一応創造のスキルの事は話すなと念を飛ばしておく。
あれは本物の姉ではないからな。

本物の姉は学院長の家で幸せそうに寝ている。
後で記憶がないことにする為の工作だ。

夜になり、エルクとイルラが焚き火を囲っている時、エルクがイルラに村にいた時の話をする。

エルクはイルラが本物の姉のエレナかどうかを確認するつもりのようだ。
エルクの中で既に半信半疑のようだ。

エルクが確認している途中、エルクの結界が化け物によって破壊される。
エルクは化け物に風魔法を放つが傷を負わせることも出来ない。
これは学院長が魔法で作った魔物もどきなので、学院長より弱いエルクには倒せない。

イルラがエルクを一人で逃す茶番を見せられる。

エルクがラクネを逃している間に、イルラが身を隠して代わりに姉の姿をした女が寝転ばされる。

この女は盗み聞きした所ではアリエラというらしいが、鑑定しても何も表示されない。
死んでいるからだろう。

化け物は自演自作で倒されて、エルクと王子が現場に到着する。

エルクは化け物がライオネットによって倒されていることに感動した後、姉が死んだ事に気づき絶望する。

学院長はエルクにアリエラを姉が死んだと勘違いさせて生き返らせるのが目的だが、エルクにはそんな事は出来ない。

学院長の企みはここで終わっているので、この後どうなるのかは俺にはわからない。

エルクがアリエラの遺体に回復魔法を掛ける。
もちろん生き返る事はない。

エルクは姉の死を諦められないのか、回復魔法に使う魔力を溜め続ける。

ピキっ!

エルクが制御の限界を超えた辺りで俺が閉じ込められている空間にヒビが入った。

エルクは制御を失いながらもさらに魔力を溜め続ける。

エルクの魔力は完全に暴走して、エルクの制御から離れて暴れ出す。
それと同時に俺を閉じ込めていた空間の壁は完全に壊れた。

エルクの体が俺の意思で動く。

「ははは…………あはははは!」
笑いが止まらない。
遂に外に出られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天
ファンタジー
 幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!  創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。  『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく  はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...