上 下
65 / 201

side ルドガー

しおりを挟む
私はルドガー。今はフレイお嬢様の執事をしている。

閑散とした村で生まれた俺は、魔法の才能があったおかげで王立の学園に入学する事が出来た。
結果を残して、卒業後も王都で職に就けれるようにならなければまた村での生活に戻ってしまう。
王都での生活に慣れてしまった私には、もうあの空腹には耐えられる自信がない。

私は無心で努力を続けて、学園の高等部を上位の成績で卒業することが出来た。
ここまでは良かった。いや、良くなかったともいえる。

私は成績こそ良かったが、クラスでは浮いていた。

周りが貴族ばかりだと言う事もあって友達もいなかった。
いや、それは言い訳か。私と同じで村から出てきたやつは貴族連中とも普通に話をしていた。

卒業後は魔法の腕を見込まれて騎士団に入った。
騎士といっても見習いだったが……

訓練についていく事は可能だったが、私は周りと足並みを揃える事が出来なかった。隊長から団体行動が出来ない奴は周りを危険に晒すと言われた。
私は周りに合わせようとしているけど、どう合わせていいのかがわからない。
皆が何を考えているのかがわからない。

そして、私は騎士団を辞めた。

騎士団を辞めた後は冒険者になった。
依頼をこなしてBランクにまでなった。そして壁にぶち当たる。Bランクから上の依頼はソロでは厳しかった。
私は何度かパーティを組んだが、どれも長続きしなかった。理由は連携がとれないからだそうだ。

受けられる依頼が無いため、私は傭兵になった。

傭兵といっても、傭兵団に入ったわけではない。
プライドの為に傭兵と言っていただけで、実際は報酬をもらえばなんでもやる便利屋だった。

そんな事をやっていれば、当然のように悪い連中にも目を付けられる。

仲間にならないかと誘われるが、私は断った。
しかし、表向きに仲間になるのを断っただけで、報酬をもらえば彼らからの仕事も請け負った。
子供の誘拐や殺人などはさすがに断ったが、それに近い事もやった。

そんな生活をすること数年、私に転機が訪れた。
その日は届け物をした帰りだった。届け物の中身は知らないが、多分違法薬物とかだろう。

たまたま、貴族の馬車が盗賊に襲われている所に遭遇した。冒険者と思われる護衛と盗賊が戦っているが、護衛側が少し劣勢に見えた。
私はチャンスだと思った。助けた時のお礼を期待して援護に入る。

盗賊が私に気づいていないことをいいことに、背後から風魔法で攻撃を仕掛ける。無防備な状態で食らった為、盗賊共は一瞬で事切れた。

馬車から男性が降りてきて、お礼を言われる。

私は言葉ではなく、礼なら金銭で頼むと要求する。

私は金さえ貰えればそれで良かったのだが、男性は何を思ったのか「私の元で働かないか」と言ってきた。

なんの冗談かと思ったが、男性は本気で言っているようだった。
提示された給金は、今の稼ぎを遥かに超えていた為、私は男性の下に仕えることになった。

この男性が私の主であるフレイお嬢様の父上であり、ハーベスト家当主でもある。

私は護衛として雇われたのだと思っていたのだが、何を思ったのか、娘の専属執事にしたいようだ。
ここまでくると、冗談だとしても笑えない。

旦那様の指示の元、私の教育が始まった。
荒っぽい言葉使いを修正され、貴族のマナーを叩き込まれ、料理や掃除の仕方まで教え込まれた。

どんどん私が私でなくなっていく気がした。

旦那様の元で教育される事3年弱、遂に旦那様からフレイお嬢様の執事になるように申しつかった。

私は旦那様の元を離れてフレイお嬢様の所に行く前に、ずっと気になっていた事を旦那様に聞くことにした。

「なぜ、私を雇おうと思ったのですが?自分で言うことではないとは思いますが、良い人間には見えなかったはずです」

「……あの時の君の目は死んでいた。目的もなくただ生きているように私には見えたよ。私は君に命を助けられた。経緯はどうあれ命の恩人に変わりはない。あの時の君は金を要求したけど、私はそれよりも君の人生を変えてあげたかった。ただそれだけだよ」

「そうでしたか……。感謝します。旦那様の言う通り、あの頃の私はただ生きているだけだったのかもしれません。でも今は違うと断言できます。私を救っていただきありがとうございます。この御恩はフレイお嬢様に返させて頂きます」

私は旦那様に深く頭を下げた。

私はこうしてフレイお嬢様の専属執事になった。

そして、フレイお嬢様の専属執事になって一月が過ぎようとした頃、事件が起こった。

ずっと関係を断っていたのに、彼らからの遣いが来た。

内容はフランベルグ家の娘を誘拐しろと言うものだった。
私はもう足は洗ったと断った。そもそも以前から子供の誘拐は断っていたはずだ。
しかし、遣いの者は「ボスから、お前が断った場合は、これまでのお前の悪事をハーベスト家にバラすと伝えるように言われている。その上で誘拐ではなく、お前の今の主人にも危害を加えるともな」こう言った。

フレイお嬢様が学友と別荘に行く事は彼らにもバレているようで、移動中の夜に決行するように言われた。

私は寝ていて誘拐されたことに気づかなかったことにすればいいと……

従うならば私以外に護衛は付けないように画策するようにとのことだ。

遣いの者はそれだけ言っていなくなった。

私は悩む。過去の悪事がバレることを危惧しているわけではない。断ればフレイお嬢様に危害が加わるかもしれないことをだ。

しかし答えは決まっている。
私は彼らには手を貸さない。そしてフレイお嬢様は守りきって見せる。

私は彼らに従ったフリをして、フレイお嬢様に護衛は私1人で十分だと進言した。

しかし、本当に1人で護衛するわけにはいかない。私は彼らを甘く見てはいない。どこかの貴族がバックについているとの噂も聞く。

私が動くと彼らに感づかれるかもしれないので、もう一台の馬車を引く御者に裏で護衛を頼むように言う。

まさかこの御者が彼らの仲間だとは思っていなかった。
その結果、私が彼らに従うつもりがない事はバレていた。

出発当日、私達の馬車から離れた位置に馬車が付いてきている。
私は御者から護衛が隠れて付いてきているので、何かあれば駆けつけるまでの間なんとか耐えて欲しいと言われた。

1日目の夜、私は寝ずにテントを守る。
何か起こるのがわかっているのに寝るわけにはいかない。

警戒していると、誰かがこっちを見ている気がした。
私はさらに警戒を強める。
朝になったが、何も起きなかった。
私が誘拐を実行しようとしていなくても、彼らが私に接触してこないということは、元から私が手を貸すとは思っていなかったのだろう。
私は寝ずに警戒し続けた為、疲れが溜まってしまった。
昨夜感じた視線は、私の力を削ぐのが目的だったのだとするとかなりまずい事になっている気がする。

フレイお嬢様に正直に話して王都に引き返した方がいいだろうか?

私が悩んでいると、お嬢様のクラスメイトの小さい男の子が私に何かの魔法を掛けた。
そしたら疲れが吹き飛んだ。後から知ったことだが回復魔法を掛けられたようだ。

これならまだ大丈夫だ。

さらに少年から魔力回復ポーションをもらった。市販品とは違うので効果は低いそうだが、なにが命運を分けるかは分からない。私はありがたく頂いた。

そして、また夜になる。
仕掛けてくるなら今夜だろう。護衛の馬車も近くに待機している。
また少年が魔法を掛けてくれたので、疲労も吹き飛んでいる。本当にありがたい。

油断していたつもりはない。
だが私は最初から間違えていたようだ。護衛が乗っていると思っていた馬車からゾロゾロとガラの悪い男達が現れた。
御者の男がニヤニヤしながら私の前に現れる

「敵に情報を流すなんておめでたい人ですね。おかげでやりやすくなりましたよ」
ニヤニヤしたまま言われる。

完全にハメられた……
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。 ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。 人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。 「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」 温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。 しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。 「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」 これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...