上 下
62 / 201

万能執事

しおりを挟む
馬車で何事もなく進み、日が沈み始める。

小さな村に入った所で、馬車は止まった。

「お疲れ様です。本日はここの場所をお借りしてテントを張りますので、もうしばらく中でお待ち下さい。」
御者の方に言われる。

しばらく待っていると、準備が完了したと連絡をもらったので馬車を降りる。

外にはテントと食事用のテーブルと椅子が準備されていた。テーブルや椅子は持ち運び用の簡素な作りではあったが、装飾が細かに施されていてさすが貴族だと感じた。

僕達はテーブルを囲んで料理を食べる

料理はパンとスープ、それからサラダ。メインはステーキみたいな肉料理だった。

料理は御者の人が作ったらしい。
馬車を引いて、料理して、テントの設営してと大変だな。

どれも美味しい。
旅の最中の食事とは思えない豪華さだ

「これだけ豪華だと、旅をしてるとは思えないね。すごくおいしい」
僕は感想を述べる

「気に入ってもらえて良かったわ。彼は先日、私専属の執事としてお父様が雇って下さったのだけれど、御者や料理人だけでなく魔法の腕もスゴくて多才なのよ。私には勿体無いくらいだわ」
フレイは御者の男性を紹介した。
御者だと思っていたけど、フレイの執事だったようだ。

「お褒め頂きありがとうございます。ご紹介に与りましたフレイ様の執事をさせていただいておりますルドガーと申します」
ルドガーさんは挨拶をする

「ルドガーはそこらの冒険者よりずっと強いのよ。今回の旅に護衛の冒険者を雇ってないのはルドガーがいるからなの」
フレイは嬉しそうに言った。

言われてみれば護衛はいなかった。ルドガーさんが護衛も兼ねているからのようだ。

「少々、魔法の心得がある程度でございますが、皆さんの安全は私が責任をもってお預かり致しますのでご安心下さい」

少々と言ったけど、フレイを見る限りだと相当ウデが立つみたいだ。
これは安心できる。

ルドガーさんから今日の食事は豪華だけど、明日からは保存の効く食材がメインになるので少しづつ出せる料理が質素になってしまうと聞かされた。
これはしょうがないことだ
前世と違って保冷車なんてものはないのだから

食事を終えた僕達はテントに入って寝ることにする。

僕は断ったけど、聞き入れてもらえずみんなと同じテントになってしまった。
生まれ変わったからか欲情することはないけど、前世の歳を考えると出来れば別のテントが良かった。

テントは今僕達がいる大きいテントと、ルドガーさんともう1台の馬車を引く御者の2人で使う小さいテントの2つだ。
僕は御者の人と同じテントでいいと言ったけど、こっちは使用人用なのでお客様に使っていただくわけにはいかないと言われた。
それなら他のテントか馬車の中でもいいと言ったけど、テントは2個しかなくて馬車で寝かせるわけにはいかないと言われてしまった。

他の男子生徒が一緒に来ていれば、テントはもう一個用意する手筈だったようだ。
僕は男としてカウントされていないことが判明した。

間違いが起きることはないけれど、緊張して眠れないかもしれない……

みんなが着替え始めようとしたので、僕は慌ててテントに出る。
6歳ではあるけれど、同級生なのだからもう少し気にして欲しい……
僕はテントの陰に移動して隠れて着替える。

僕は王都に来てからあまり使っていなかった浄化魔法を使って身体と脱いだ服をキレイにする。
寮には豪華なお風呂があり、お湯に浸かるのが好きな僕は浄化魔法を使うことはなかった。
服も寮のメイドさんが洗ってくれるのでお願いしていた。
貴族が使う事をベースにした寮なので至れり尽くせり仕様だ。僕は根っからの庶民なので、毎回申し訳ない気持ちになる。
使ったのは遺跡調査の依頼を受けた時くらいかな……

僕は失敗した依頼の事を思い出して少し気持ちが沈む。

村にいる時はお風呂なんてないから、水を被るしかなかった。冬が地獄だったので浄化魔法を創ったのだ。

みんなが着替え終わったかちゃんと聞いてから僕はテントの中に戻る。

「ねえエルクの髪、なんだかキレイになってない?」
ローザに聞かれる

キレイにはなったけど、わかる程かな……
「ちょっと洗っただけだよ……」

「それにしては濡れてないみたいだけど?」

『スキルで汚れを落としたから』って言おうとしたけど、僕は自分に待ったを掛ける。
僕は最近、色んなスキルをみんなに見せすぎている気がする。
子供がスキルを持っている事自体が稀だと前に姉が言っていた。
このままでは創造スキルの事がバレるかもしれない。
最近、よく考えずに行動して痛い目を見ることが多かったので、僕はよく考えて答えることにする

「回復魔法でキレイに出来るんだよ」
僕はそれっぽい嘘をついた
回復魔法も浄化魔法も同じ聖属性だし、回復魔法の応用くらいに考えてくれるだろう

「回復魔法ってそんな事も出来るのね。知らなかったわ」
ローザ達は特に疑問も抱かずに信じてくれた。

今後もこうやって、使えるスキルの数をみんなには少なめになるように誤魔化していこう。
僕は決意する。

みんなに見せたことがあるスキルって何だっけ?火、水、土、風の魔法と回復魔法、身体強化に魔法威力強化、あとはサーチとマップかな……ああ、罠感知と罠解除もだ。それと、ラクネとダイスくんにはアイテムボックスのことがバレている。あれ、シールドの事も誰かに話したような気がするなぁ。気のせいかな?

聞いた噂によると、学院長先生は数々の魔法を使いこなすみたいだし、サウス先生も土魔法と筋力強化魔法に加えて剣術や棒術など格闘系のスキルを多数獲得しているらしい。

今更な気がしてきたけど、まだアウトではないはずだ。子供にしては多いくらいって認識の範疇だと思う。……思いたい。

「ねぇ、エルクってば!」
考え込んでいたらローザに肩を揺らされた

「ご、ごめん。考え事してたよ」

「遠くを見つめて、死んだような目をしてたわよ……。そんなことはどうでもいいのよ、魔力がまだあるなら私たちもキレイにしてくれないかしら?旅の最中だし我慢しようとしてたけど、キレイになれるならお願いしたいわ」

クラスメイトが死んだ目をしていることは、そんなことのようだ。悲しい……

「うん、いいよ」
僕は気分を切り替えて、効果範囲を広げてみんなに浄化魔法を掛ける。

「スゴいわ!本当にキレイになってるわ。ありがとう」
みんな喜んでいる。

キレイになったので、もう寝ることにする。僕は出来るだけみんなとはくっつかないように気をつけて横になる。

プーーーン

僕の耳の近くを虫が通る。
パシっ!
僕は音を頼りに叩くけど逃げられた。叩いた顔が痛いだけだ。

僕は結界のスキルを使ってテントを覆う。これで新た入ってくることは出来ないだろう。
結界は中からは簡単に出れるけど、外からは僕が許可した者しか簡単には入れない。これは人以外も対象だ。

「ちょっと虫を外に出したいから風魔法使うよ」
僕はみんなに断ってから魔法を使う。
強風で虫を結界の外まで吹き飛ばした。

これで気持ちよく寝れそうだ

僕は心配していたのが嘘のようにすぐに眠りについた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天
ファンタジー
 幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!  創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。  『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく  はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

桐生桜月姫
ファンタジー
 愛良と晶は仲良しで有名な双子だった。  いつも一緒で、いつも同じ行動をしていた。  好き好みもとても似ていて、常に仲良しだった。  そして、一緒に事故で亡くなった。  そんな2人は転生して目が覚めても、またしても双子でしかも王族だった!?  アイリスとアキレスそれが転生後の双子の名前だ。  相変わらずそっくりで仲良しなハイエルフと人間族とのハーフの双子は異世界知識を使って楽しくチートする!! 「わたしたち、」「ぼくたち、」 「「転生しても〜超仲良し!!」」  最強な天然双子は今日もとっても仲良しです!!

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...