39 / 40
【Case.2】姫と雇われの騎士(ナイト)
30 卵の在処(後)
しおりを挟む
通称・竜の牧場で騎獣訓練の当番教官をしていた内の一人がダドリーさんだ。
竜の牧場から首長竜の卵を強奪した少年二人組の行方を追って、ザイフリート辺境伯領とは別の領地に飛び立って行ったはずだった。
箱の中には卵もあるし、当然この手紙はその説明だろうと、僕は叔父さん立ち会いの下、ゆっくりとその二つ折りの手紙を開いた。
「……え」
「はぁっ⁉」
もちろん、叫び声を上げたのは叔父さんの方だ。
書かれてある内容の深刻さは、僕よりも叔父さんの方がより響いているだろう。
「メルハウザー辺境伯領内で宝石竜の卵が見つかっただと――⁉」
宝石竜。
確か叔父さんしか乗り手のいない白竜に次ぐ希少種。
その希少性から王家専用の竜と言われている……と、教わった。
「叔父さん……王家専用竜の卵が……王宮以外にあったらマズいんじゃ……?」
そう。
首長竜の卵と一緒に収められているのは宝石竜の卵だと、ダドリーさんからの手紙には書かれていたのだ。
それは、僕どころか叔父さんすら初見なのも当然だ。
手紙には、要約すれば「メルハウザー辺境伯領内で見つかったということに関して、火竜騎獣軍以外にも証人を見つけてあるから、まずは辺境伯家の権限で卵の存在を揉み消されないよう、リュート叔父さんに預けたい」と言ったことが書かれている。
どうやら既に領内で卵が再略奪の危機にあっていたらしく、ダドリーさんやギルさんたちが話し合った末に、軍団長さん権限で叔父さんに預けることを決めて、首長竜に託したということのようだ。
「マズいさ。マズいに決まっている」
卵と手紙を見比べる叔父さんは、気のせいじゃなく小さく舌打ちをしていた。
「だからこその『俺』宛てなんだ、ハルト」
「え?」
「そのままザイフリート辺境伯家に持って帰れば、ザイフリート辺境伯家こそが王家に弓ひくつもりでメルハウザー辺境伯家に濡れ衣を着せたと言い返される。ここのところの騒動で、ザイフリート辺境伯家の方が疑いの目で見られていたのだから、当然だ」
「あ……」
そこまで言われて、ようやく僕もリュート叔父さんを名指しで卵が運ばれてきた理由を察することが出来た。
元から、そんな卵のことは知らない。メルハウザー辺境伯家に罪を擦り付けるためのでっち上げだと言われてしまえば、事実がどうであれ、泥仕合もいいところだ。
叔父さんは、そんな僕を見ながら「よく気が付いた」とばかりに、頷いてくれていた。
無意識かも知れないが、僕に分かるような言い方をしてくれているのは、叔父さんの優しさだと思う。
「俺がザイフリート辺境伯家にいたのは、たまたま。ギルフォードたちは卵の安全を最優先に考えて、かつて竜に立ち向かったほどの冒険者だった俺に預けることを決断し、軍団長の許可を取った――公の場でそう主張すれば、誰も文句は言えまいよ。どうやら俺の名前は、まだ上の方でも通じているようだしな」
なるほど。確かに口惜しいけど、僕と首長竜だけでは相手、つまりメルハウザー辺境伯家が何を言ったところで、ひとつも対抗出来ないだろう。
叔父さんは、今は冒険者稼業からは手を引いているとは言え、その実力はまだまだ折り紙付だ。
僕が叔父さんの境地に達する道のりは、まだまだはてしなく遠そうだ。頑張らなくちゃ!
僕が内心でそう決意を新たにしているのをよそに、リュート叔父さんの方は少し後方で、白竜や辺境伯家の火竜らを宥めているナノジェムさんに、館の奥に座しているであろう当主様に「話がある」との先触れをお願いしていた。
「……あれ?」
僕はそこで、ダドリーさんからの手紙とは別にもう一枚、今度は卵の敷物になっていた布の下に隠されるようにして、手紙が差し込まれていることに気が付いた。
「あ……これ、ギルさんから叔父さん宛だ……」
「何?」
僕の声はそう大きくはなかったけれど、叔父さんの耳にはちゃんと届いていたらしい。
館の方へと向かうナノジェムさんに背を向ける形で、小走りにこちらへと戻って来る。
「ごめんなさい、僕、ダドリーさんからの手紙の続きかと思ってうっかり――」
「いや、見られて困るようなことはしていないから、大丈夫だ」
そう言いながら片手を差し出した叔父さんに、僕は木箱から拾い上げた手紙を渡した。
「…………は?」
そして、ピキリと叔父さんのこめかみに青筋が浮かんだのを確かに僕は目にした。
「ブラウニール公爵家の令嬢を保護した、だと⁉ アイツ、宝石竜の情報を隠れ蓑にしたな⁉ 戻るまでここで待て⁉ 馬鹿野郎、追加料金沙汰だ――‼」
叔父さんの叫び声に、要領の得ない僕は首を傾げるしかない。
その傍で首長竜と白竜も、器用に首を傾げている。
ただどうやら、すぐには副都や竜の牧場には戻れないだろうな……と言うことだけは、すぐに理解が出来たのだった。
竜の牧場から首長竜の卵を強奪した少年二人組の行方を追って、ザイフリート辺境伯領とは別の領地に飛び立って行ったはずだった。
箱の中には卵もあるし、当然この手紙はその説明だろうと、僕は叔父さん立ち会いの下、ゆっくりとその二つ折りの手紙を開いた。
「……え」
「はぁっ⁉」
もちろん、叫び声を上げたのは叔父さんの方だ。
書かれてある内容の深刻さは、僕よりも叔父さんの方がより響いているだろう。
「メルハウザー辺境伯領内で宝石竜の卵が見つかっただと――⁉」
宝石竜。
確か叔父さんしか乗り手のいない白竜に次ぐ希少種。
その希少性から王家専用の竜と言われている……と、教わった。
「叔父さん……王家専用竜の卵が……王宮以外にあったらマズいんじゃ……?」
そう。
首長竜の卵と一緒に収められているのは宝石竜の卵だと、ダドリーさんからの手紙には書かれていたのだ。
それは、僕どころか叔父さんすら初見なのも当然だ。
手紙には、要約すれば「メルハウザー辺境伯領内で見つかったということに関して、火竜騎獣軍以外にも証人を見つけてあるから、まずは辺境伯家の権限で卵の存在を揉み消されないよう、リュート叔父さんに預けたい」と言ったことが書かれている。
どうやら既に領内で卵が再略奪の危機にあっていたらしく、ダドリーさんやギルさんたちが話し合った末に、軍団長さん権限で叔父さんに預けることを決めて、首長竜に託したということのようだ。
「マズいさ。マズいに決まっている」
卵と手紙を見比べる叔父さんは、気のせいじゃなく小さく舌打ちをしていた。
「だからこその『俺』宛てなんだ、ハルト」
「え?」
「そのままザイフリート辺境伯家に持って帰れば、ザイフリート辺境伯家こそが王家に弓ひくつもりでメルハウザー辺境伯家に濡れ衣を着せたと言い返される。ここのところの騒動で、ザイフリート辺境伯家の方が疑いの目で見られていたのだから、当然だ」
「あ……」
そこまで言われて、ようやく僕もリュート叔父さんを名指しで卵が運ばれてきた理由を察することが出来た。
元から、そんな卵のことは知らない。メルハウザー辺境伯家に罪を擦り付けるためのでっち上げだと言われてしまえば、事実がどうであれ、泥仕合もいいところだ。
叔父さんは、そんな僕を見ながら「よく気が付いた」とばかりに、頷いてくれていた。
無意識かも知れないが、僕に分かるような言い方をしてくれているのは、叔父さんの優しさだと思う。
「俺がザイフリート辺境伯家にいたのは、たまたま。ギルフォードたちは卵の安全を最優先に考えて、かつて竜に立ち向かったほどの冒険者だった俺に預けることを決断し、軍団長の許可を取った――公の場でそう主張すれば、誰も文句は言えまいよ。どうやら俺の名前は、まだ上の方でも通じているようだしな」
なるほど。確かに口惜しいけど、僕と首長竜だけでは相手、つまりメルハウザー辺境伯家が何を言ったところで、ひとつも対抗出来ないだろう。
叔父さんは、今は冒険者稼業からは手を引いているとは言え、その実力はまだまだ折り紙付だ。
僕が叔父さんの境地に達する道のりは、まだまだはてしなく遠そうだ。頑張らなくちゃ!
僕が内心でそう決意を新たにしているのをよそに、リュート叔父さんの方は少し後方で、白竜や辺境伯家の火竜らを宥めているナノジェムさんに、館の奥に座しているであろう当主様に「話がある」との先触れをお願いしていた。
「……あれ?」
僕はそこで、ダドリーさんからの手紙とは別にもう一枚、今度は卵の敷物になっていた布の下に隠されるようにして、手紙が差し込まれていることに気が付いた。
「あ……これ、ギルさんから叔父さん宛だ……」
「何?」
僕の声はそう大きくはなかったけれど、叔父さんの耳にはちゃんと届いていたらしい。
館の方へと向かうナノジェムさんに背を向ける形で、小走りにこちらへと戻って来る。
「ごめんなさい、僕、ダドリーさんからの手紙の続きかと思ってうっかり――」
「いや、見られて困るようなことはしていないから、大丈夫だ」
そう言いながら片手を差し出した叔父さんに、僕は木箱から拾い上げた手紙を渡した。
「…………は?」
そして、ピキリと叔父さんのこめかみに青筋が浮かんだのを確かに僕は目にした。
「ブラウニール公爵家の令嬢を保護した、だと⁉ アイツ、宝石竜の情報を隠れ蓑にしたな⁉ 戻るまでここで待て⁉ 馬鹿野郎、追加料金沙汰だ――‼」
叔父さんの叫び声に、要領の得ない僕は首を傾げるしかない。
その傍で首長竜と白竜も、器用に首を傾げている。
ただどうやら、すぐには副都や竜の牧場には戻れないだろうな……と言うことだけは、すぐに理解が出来たのだった。
10
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる