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【Case.2】姫と雇われの騎士(ナイト)
29 卵の在処(中)
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正直言って、僕では火竜と首長竜、白竜の区別はついても、それぞれの竜種内での個体の区別はさすがにつかない。
目の前のこの首長竜が「竜の牧場」の竜なんじゃないかと思ったのは、感覚的なもの――つまりは、勘だった。
とは言え、僕が小さく「おかえり」と呟いたのが、聞こえていたと言わんばかりに地に降り立ったのだから、きっとその感は正しいんだと思う。
「!」
その首長竜の首が、グルンと僕を見るように動いた。
それと合わせて左の前足も少しだけ動いて、確かにリュート叔父さんの言った通りに、鉤爪のところに何か荷物が括りつけられているのが見えた。
「えっと、それ、僕が受け取っていいのかな?」
僕の問いかけに答える代わりに、首長竜が屈むようにしてこちらにその前足を突き出してきた。
後ろでほんの一瞬だけ、リュート叔父さんが警戒する様子を見せたのが分かったけど、僕は叔父さんに、大丈夫だと口にする代わりにもう一歩二歩、首長竜へと近づいた。
それに合わせるように、ますます首長竜が屈んでくるので、最終的には僕の手が首長竜の前足にまで届く距離になった。
「じゃ、じゃあ、解くね?」
荷物に手をかけても、首長竜は反抗しない。
ガチガチに括りつけられていたので、僕の力で解くのに少し手間取ってしまったけれど、何とか紐を解いて、荷物を首長竜から僕の方へと移動させた。
目の前の首長竜の体格に惑わされていたけれど、実際に下してみれば、それは僕が両手で持ったら視界が全部遮られてしまうほどの木箱だった。
「うわっと……え?」
しかもそこそこの重さがあって、僕は慌てて両足に力を入れて、箱ごと転倒しないように踏ん張った。
ただその瞬間、箱ごしに何かが転がる感覚が僕の手に伝わってきて、僕は戸惑いから思わず声を出してしまっていた。
「これって……」
「ハルト?」
そんな僕の戸惑いを察したリュート叔父さんが、僕のいるところまで近付いても良いかと声をかけてくる。
荷物を手にしたまま、かろうじて首だけを首長竜の方に向けると、凪いだ(と、僕には見える)眼とぶつかった。
少し考えてから「……大丈夫だと思う」とだけ、叔父さんに返した。
「まさか、空箱を運んで来ることはないと思ったが、ハルトの感触でも、中に何か入っているってことなんだな?」
僕の声色だけで、思っていることをすくい上げてくれる叔父さんは、さすがだ。
「う、うん……」
「分かった。そうしたら反対側から箱を持つから、一緒にゆっくりと下ろすぞ」
ここまできて、荷物の中身を確認しないと言うのもおかしな話だ。
しばらくすると、箱の重みが明らかに変化したため、それが叔父さんが箱を持ってくれた合図だと認識した。
首長竜が何も言わないため、僕とリュート叔父さんはそのままゆっくりと、木箱を地面の上に置いた。
グルグル巻きにされていた紐を、叔父さんが腰の剣で一気に切断をして、蓋をずらす。
「なっ⁉」
箱の中身が見えた途端、呻いたのは僕ではなく、リュート叔父さんだ。
僕は箱を手にしてからの感覚があったから、内心で「やっぱり」と思っただけだった。
「卵……しかもコイツは……」
そう、首長竜が運んできた荷物とは、竜の卵そのものだったのだ。
しかも、素人の僕が見ても分かる。
卵の種類が違うのだ。少なくとも、二種類以上の竜の卵が、そこにはある。
「ハルト、少なくともこの中の二個は、竜の牧場から強奪されたヤツで合ってるか?」
「僕も盗まれた瞬間、遠目にチラッと見ただけだから、断言は出来ないけど多分……叔父さん、でも、こっちのもう一個は牧場の卵じゃないよ。それは分かる」
何しろ、僕が見た景色を思い起こせば、数が合わない。
竜の卵となると、他の家畜や野鳥の卵とはワケが違う。
人ひとりが両脇に抱えて運ぶのが精一杯、それも首長竜の卵でだ。
騎獣軍が使う竜たちの卵となれば、人ひとりで1つ抱えるのが限界だと聞いている。
「あ、ああ。おまえの言っていることは正しい。こっちの一個は首長竜の卵じゃない。逆に俺は、それを断言出来る」
「え、叔父さん、分かるんだ?」
「分からない方が良かったのか……逆に俺がいるのが分かっていたから、コイツが先行して送られてきたのか……」
口元に手を当てながらぶつぶつと呟いていた叔父さんだけど、それが何竜の卵なのかを僕が聞く前に、ふと木箱の中に卵以外にも何か入っていることに気が付いたみたいだった。
「ハルト、卵と一緒に何か入っているぞ。手紙じゃないか?」
「え?」
リュート叔父さんに言われて、僕も箱の中を覗いてみれば、確かに卵の下敷きになるように、二つに折られた紙が入っていた。
卵を割らないように細心の注意を払いながら、そっとその手紙を取り出して、二つ折りになっていた紙を叔父さんにも見えるように開ける。
あっ! と、僕は思わず声を上げてしまった。
「ダドリーさんからの手紙だ……!」
目の前のこの首長竜が「竜の牧場」の竜なんじゃないかと思ったのは、感覚的なもの――つまりは、勘だった。
とは言え、僕が小さく「おかえり」と呟いたのが、聞こえていたと言わんばかりに地に降り立ったのだから、きっとその感は正しいんだと思う。
「!」
その首長竜の首が、グルンと僕を見るように動いた。
それと合わせて左の前足も少しだけ動いて、確かにリュート叔父さんの言った通りに、鉤爪のところに何か荷物が括りつけられているのが見えた。
「えっと、それ、僕が受け取っていいのかな?」
僕の問いかけに答える代わりに、首長竜が屈むようにしてこちらにその前足を突き出してきた。
後ろでほんの一瞬だけ、リュート叔父さんが警戒する様子を見せたのが分かったけど、僕は叔父さんに、大丈夫だと口にする代わりにもう一歩二歩、首長竜へと近づいた。
それに合わせるように、ますます首長竜が屈んでくるので、最終的には僕の手が首長竜の前足にまで届く距離になった。
「じゃ、じゃあ、解くね?」
荷物に手をかけても、首長竜は反抗しない。
ガチガチに括りつけられていたので、僕の力で解くのに少し手間取ってしまったけれど、何とか紐を解いて、荷物を首長竜から僕の方へと移動させた。
目の前の首長竜の体格に惑わされていたけれど、実際に下してみれば、それは僕が両手で持ったら視界が全部遮られてしまうほどの木箱だった。
「うわっと……え?」
しかもそこそこの重さがあって、僕は慌てて両足に力を入れて、箱ごと転倒しないように踏ん張った。
ただその瞬間、箱ごしに何かが転がる感覚が僕の手に伝わってきて、僕は戸惑いから思わず声を出してしまっていた。
「これって……」
「ハルト?」
そんな僕の戸惑いを察したリュート叔父さんが、僕のいるところまで近付いても良いかと声をかけてくる。
荷物を手にしたまま、かろうじて首だけを首長竜の方に向けると、凪いだ(と、僕には見える)眼とぶつかった。
少し考えてから「……大丈夫だと思う」とだけ、叔父さんに返した。
「まさか、空箱を運んで来ることはないと思ったが、ハルトの感触でも、中に何か入っているってことなんだな?」
僕の声色だけで、思っていることをすくい上げてくれる叔父さんは、さすがだ。
「う、うん……」
「分かった。そうしたら反対側から箱を持つから、一緒にゆっくりと下ろすぞ」
ここまできて、荷物の中身を確認しないと言うのもおかしな話だ。
しばらくすると、箱の重みが明らかに変化したため、それが叔父さんが箱を持ってくれた合図だと認識した。
首長竜が何も言わないため、僕とリュート叔父さんはそのままゆっくりと、木箱を地面の上に置いた。
グルグル巻きにされていた紐を、叔父さんが腰の剣で一気に切断をして、蓋をずらす。
「なっ⁉」
箱の中身が見えた途端、呻いたのは僕ではなく、リュート叔父さんだ。
僕は箱を手にしてからの感覚があったから、内心で「やっぱり」と思っただけだった。
「卵……しかもコイツは……」
そう、首長竜が運んできた荷物とは、竜の卵そのものだったのだ。
しかも、素人の僕が見ても分かる。
卵の種類が違うのだ。少なくとも、二種類以上の竜の卵が、そこにはある。
「ハルト、少なくともこの中の二個は、竜の牧場から強奪されたヤツで合ってるか?」
「僕も盗まれた瞬間、遠目にチラッと見ただけだから、断言は出来ないけど多分……叔父さん、でも、こっちのもう一個は牧場の卵じゃないよ。それは分かる」
何しろ、僕が見た景色を思い起こせば、数が合わない。
竜の卵となると、他の家畜や野鳥の卵とはワケが違う。
人ひとりが両脇に抱えて運ぶのが精一杯、それも首長竜の卵でだ。
騎獣軍が使う竜たちの卵となれば、人ひとりで1つ抱えるのが限界だと聞いている。
「あ、ああ。おまえの言っていることは正しい。こっちの一個は首長竜の卵じゃない。逆に俺は、それを断言出来る」
「え、叔父さん、分かるんだ?」
「分からない方が良かったのか……逆に俺がいるのが分かっていたから、コイツが先行して送られてきたのか……」
口元に手を当てながらぶつぶつと呟いていた叔父さんだけど、それが何竜の卵なのかを僕が聞く前に、ふと木箱の中に卵以外にも何か入っていることに気が付いたみたいだった。
「ハルト、卵と一緒に何か入っているぞ。手紙じゃないか?」
「え?」
リュート叔父さんに言われて、僕も箱の中を覗いてみれば、確かに卵の下敷きになるように、二つに折られた紙が入っていた。
卵を割らないように細心の注意を払いながら、そっとその手紙を取り出して、二つ折りになっていた紙を叔父さんにも見えるように開ける。
あっ! と、僕は思わず声を上げてしまった。
「ダドリーさんからの手紙だ……!」
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