竜の国の探偵事務所~元英雄の弟子は冒険者ギルドで探偵を目指す~

渡邊 香梨

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【Case.2】姫と雇われの騎士(ナイト)

27 首長竜(ギータ)、戻る

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 当初はザイフリート辺境伯家当主であるエイベル様に後を任せるとリュート叔父さんは言っていたけれど、結局最後は巻き込まれていた。

 エイベル様曰く「父子の情で取り調べに忖度や手加減があったと思われるのは良くない」とのことだったらしい。

 言われてみればその通りだと思ったけど、叔父さんがちょっと舌打ちをしていたので、単にこれ以上の面倒ごとを引き受けたくなかったんだなと察せられてしまった。

 エイベル様も最初から分かっていて、叔父さんが手を引くのを認めなかったんだろう。

 僕は同席出来なかったけど、叔父さんはエイベル様の二番目の息子カスペル・ザイフリートと言う人の取り調べに、むしろメインで参加させられていたらしい。

 その間僕も、仮ではなく本気の「白竜グウィバーのお世話係」だ。

 辺境伯家の騎獣軍が抱える火竜リントヴルムは皆出払ってしまっているため、辺境伯家の竜のお世話係だと言うナノジェムさんが小屋の掃除や食糧庫からのエサ運びを手伝ってくれていた。

 ナノジェムさんは、元々は火竜騎獣軍の人だったそうだけど、魔獣の退治任務中に大きなケガをしてしまったとかで、それ以降は辺境伯家付で竜の世話係をしているんだそうだ。

「とっとと、騎獣軍ぐるみで卵を盗んだだの売っただのと、そんな根も葉もない噂は静まって欲しいもんだ」

 ナノジェムさん曰く、ド新人を除けば皆、騎乗する竜は常に同じらしい。
 人が竜を選び、竜もまた人を選ぶ。

 移動用、荷運び用として国内で頻繁に見かける首長竜ギータは、他の竜種よりもまだ、乗り手を認める基準が緩いのだと言う。

火竜リントヴルムに限らず、各辺境伯の竜がそんなことをすれば、乗り手ともども一発で身バレだ。誰がやるか――って言いたいところなんだが、世間的にはそう言うお手軽な首長竜ギータを基準に考えてる連中の方が多いからな。やってない証明の方が難しい。いちいち全員に各竜の特性を説いて回るわけにもいかねぇしな」

「お手軽……」

 僕を乗せてくれた首長竜ギータは結構賢そうだったし、卵強奪犯の疑いなんてかけられたら、怒り狂うんじゃないかと思ったけど、確かにその反応も竜によって違うんだろうなと思ったら「やってない証明」の難しさが僕でも理解が出来た。

「結局犯人捕まえて、おおやけに罪状を晒すのが一番ってコトなんですね……」

「おう、よく分かってんな! まあ、だからとっとと軍団長に決着させてきて欲しいところだがな……」

 竜に騎獣するための器具を磨きながら、ナノジェムさんが難しい表情かおで眉根を寄せている。

「そんなすぐに罪状を認めますかね……?」
「まあ、二番目の坊っちゃんはさほどこらえ性がないから、ペラペラと話すだろうよ」

 身も蓋もないコトをナノジェムさんは言ってるけど、実際に後で叔父さんに聞いたら、実の父親であるエイベル様のひと睨みで、次男のヒトはびっくりするくらいあっけなく諸々白状したらしい。

 どうやら予想した通りに、選王侯の地位が欲しいルブレヒト侯爵家が、ベレフキナ公爵家と手を組んで、寄り子メルハウザー辺境伯家を使っての卵の強奪を仕組んでいたらしかった。

 ただ、それはあくまで「ザイフリート辺境伯家の次男」の証言と受け取られ、説得力に欠いてしまうため、向こうが認めなければ話は平行線。

 ナノジェムさんがこの時二番目の坊っちゃん「は」と強調したのも、相手が簡単に話すとは限らないと思っていたからだろう。

「……ん?」

 二人でそんな話をしていると、それまで僕らの傍で微睡んでいた白竜グウィバーが突然、ピクリと身体をふるわせて、顔を上げた。

「え、白竜グウィバー?」

 その反応を僕が訝しんでいる間に、ナノジェムさんはもう動いていて、右手を白竜グウィバーに置きながら、左手で僕を庇うようにして立っていた。

 古い怪我があっても動きが早いのは、さすが元・火竜騎獣軍の前線にいた人だ。

 こればっかりは、僕が口惜しがってもどうしようもない。
 今はまだ、経験値の開きがありすぎるのだ。

「何か来る……が、ウチの竜たちじゃないな。ハルト、俺がいいと言うまでは動くなよ? 普通ならさっさと逃げろと言いたいが、ここは魔獣行き交う辺境伯領。下手にこの場を離れて駆けだすと、狙って撃ってくれと言ってるようなものだからな」

「! わ、分かりました……っ」

 なるほど、多少離れていても火やら水やら風やらをぶつけられては、かえって危機に陥ると言うことらしい。

 この場に留まって白竜グウィバーに威嚇をして貰うのが、実際問題一番被害が少ないように見えるんだろう。

 ここは大人しくナノジェムさんの言葉に従うしかなかった。

 多分叔父さんなら、不穏な気配だけでも感じ取ってしまいそうだ。
 ナノジェムさんも、そう思って動いているに違いなかった。

「――――‼」

「…………え?」

 ぎゅぃぃぃっっ! と、響いた咆哮には何やら聞き覚えがあった。

 区別がつくのかと聞かれると困るし、本当に勘でしかなかったんだけど。

「えーっと……首長竜ギータ?」

 首長竜ギータだな、とナノジェムさんは前を向いたまま言っているけど、多分僕が言ったのとは大分ニュアンスが違ったはずだ。

 ナノジェムさんは、竜種としての大きな括りによる首長竜ギータ。そこに個性はない。

 だけど、僕は違った。

「ナノジェムさん……あの首長竜ギータ、僕、だと思います」

「あ⁉」

 裏返った、おかしな声を上げたナノジェムさんに合わせるように、再度|首長竜の咆哮が辺りに轟いた。

「…………おかえり」

 うん、多分間違った挨拶じゃないよね?
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