26 / 40
【Case.1】狙われた竜の卵
26 依頼の終わりと始まり
しおりを挟む
「……で、コレは誰が間に立って売りさばく話だったんだ?何割払うって話で手を打った?」
「!」
一人は叔父さんに蹴り飛ばされて気絶。
一人は黒妖犬の仔犬に噛まれてのたうち回ってる。
必然的に、話が出来るのが一人しかいなくて、その一人は思い切り叔父さんに踏みつけられていた。
叔父さん曰く、辺境伯家の収蔵品なんて、一介の騎獣軍の新人が売りさばけるようなものじゃなく、売ろうとした瞬間に盗品だとバレるくらいの物ばかりなんだそうだ。
ならば、背後にまだ誰かがいるんだろう――と叔父さんが、足に力を入れて聞いていた、その時だった。
「おい、遅いぞ!いつになったら――」
僕の頭の中を、ホリーさんの「飛んで火に入る夏の虫――自ら進んで災いの中に飛び込んでくる、おバカさん」と、叔父さん譲りだと広言していたその科白が駆け巡った。
「――ようこそ、カスペル・ザイフリート。途中参加は大歓迎だ」
「⁉」
そして口元に凄艶な笑みを浮かべて見せたリュート叔父さんに、震え上がったのは僕だけじゃなかった。
仔犬とは言え黒妖犬が尻尾を丸めて後退るとか、相当なものだと思う。
「お前のことは日頃からエイベル殿がお嘆きだったが、それもここまでだな。この俺が直々に引導を渡してやろう。光栄に思え?」
「なっ……」
そこには〝竜を堕とす者〟の片鱗があって、そんな叔父さんの気迫に腰を抜かして崩れ落ちた男が、周囲から「素行が悪い」と言われ続けていたザイフリート家の次男だと、その後の叔父さんの科白で僕も理解した。
「お前なら、ザイフリートの名で西の辺境伯家とも繋がれるし、裏の人間を雇って魔物の素材を売り払うことだって出来るものな。……ああ、今更夜の散歩で来たとは言わせないぞ?」
その間にも、こちらに駆けつけて来ようとする複数の足音が聞こえる。
「詳しい事情聴取は、エイベル殿が辺境伯家の名にかけて何とでもするだろうさ。西の誰がお前の相手をしていたのか? まあ、吐かせたところでギルフォードたちに知らせてやれば、必要以上には西とも揉めないだろう。金か次期辺境伯か、何が欲しかったのかは知らんが、それもこれまでだ」
ハルト、おまえも良くやった――そんな風に言われたので、多分ここから先は僕は関われないと言うことなのかも知れない。
明日になれば、少しは教えて貰えるだろうか。
張り込みを手伝えたのは嬉しかったけど、僕はまだまだ叔父さんの弟子としては半人前なんだろう。
僕はそんな風に考えながら、足元で震えていた黒妖犬の仔犬を抱え上げた。
最終的な決着をどうするかは、西の辺境伯家と軍団長さんたちとの話し合いの結果を聞いてから――と言うことになったらしいんだけど、そこでまた新たな依頼が転がり込んでくることになろうとは、僕も叔父さんも流石に思わなかったんだ。
「!」
一人は叔父さんに蹴り飛ばされて気絶。
一人は黒妖犬の仔犬に噛まれてのたうち回ってる。
必然的に、話が出来るのが一人しかいなくて、その一人は思い切り叔父さんに踏みつけられていた。
叔父さん曰く、辺境伯家の収蔵品なんて、一介の騎獣軍の新人が売りさばけるようなものじゃなく、売ろうとした瞬間に盗品だとバレるくらいの物ばかりなんだそうだ。
ならば、背後にまだ誰かがいるんだろう――と叔父さんが、足に力を入れて聞いていた、その時だった。
「おい、遅いぞ!いつになったら――」
僕の頭の中を、ホリーさんの「飛んで火に入る夏の虫――自ら進んで災いの中に飛び込んでくる、おバカさん」と、叔父さん譲りだと広言していたその科白が駆け巡った。
「――ようこそ、カスペル・ザイフリート。途中参加は大歓迎だ」
「⁉」
そして口元に凄艶な笑みを浮かべて見せたリュート叔父さんに、震え上がったのは僕だけじゃなかった。
仔犬とは言え黒妖犬が尻尾を丸めて後退るとか、相当なものだと思う。
「お前のことは日頃からエイベル殿がお嘆きだったが、それもここまでだな。この俺が直々に引導を渡してやろう。光栄に思え?」
「なっ……」
そこには〝竜を堕とす者〟の片鱗があって、そんな叔父さんの気迫に腰を抜かして崩れ落ちた男が、周囲から「素行が悪い」と言われ続けていたザイフリート家の次男だと、その後の叔父さんの科白で僕も理解した。
「お前なら、ザイフリートの名で西の辺境伯家とも繋がれるし、裏の人間を雇って魔物の素材を売り払うことだって出来るものな。……ああ、今更夜の散歩で来たとは言わせないぞ?」
その間にも、こちらに駆けつけて来ようとする複数の足音が聞こえる。
「詳しい事情聴取は、エイベル殿が辺境伯家の名にかけて何とでもするだろうさ。西の誰がお前の相手をしていたのか? まあ、吐かせたところでギルフォードたちに知らせてやれば、必要以上には西とも揉めないだろう。金か次期辺境伯か、何が欲しかったのかは知らんが、それもこれまでだ」
ハルト、おまえも良くやった――そんな風に言われたので、多分ここから先は僕は関われないと言うことなのかも知れない。
明日になれば、少しは教えて貰えるだろうか。
張り込みを手伝えたのは嬉しかったけど、僕はまだまだ叔父さんの弟子としては半人前なんだろう。
僕はそんな風に考えながら、足元で震えていた黒妖犬の仔犬を抱え上げた。
最終的な決着をどうするかは、西の辺境伯家と軍団長さんたちとの話し合いの結果を聞いてから――と言うことになったらしいんだけど、そこでまた新たな依頼が転がり込んでくることになろうとは、僕も叔父さんも流石に思わなかったんだ。
0
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる