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【Case.1】狙われた竜の卵
16 さあ、行こう!
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人間が竜に乗るための鞍を見せて、竜がそれを受け入れれば、鞍を軽くつついて了承の合図を送る。
ダメなら、そのままねぐらに戻ってしまう――という流れになっているらしい。
誰が決めて、どうやって竜と意思を疎通しあったのか、今となっては誰も知らないことから、僕どころかダドリーさんも生まれていない頃から、それが定着しているんだろうと言う話だった。
最初の首長竜は、じっと僕の方を見つめている。
人と竜の関係性を考えれば、人の側から急かしたりどうこう言える義理でもないので、僕はここでは相手の判断を待つよりほかない。
とは言え、長時間のお見合いになった場合はどうするのか。
先にダドリーさんに聞いておくんだったと、僕の思考が逸れかけたそこへ、鼓膜が破れるかと思うような咆哮と地響きが辺りに響き渡った。
「⁉」
僕は思わず目の前の首長竜を見上げたけど、明らかに僕でさえ驚いたと分かる、エメラルドグリーンの瞳とぶつかった。
「あ……キミじゃない、んだ?」
うっかり呟いてしまったけど、首長竜が何を返せるはずもない。
「ちょっとゴメンね?」
僕はそう、首長竜に断りを入れると、視線を一度外して、崖下にいたダドリーさんの方を向いた。
「ダドリーさん、今のって⁉」
「――坊主、そこを動くなよ!」
僕が聞いたこととは違う言葉が帰ってきたけれど、ダドリーさんの声が物凄く切羽詰まっていることだけは分かった。
「おまえと一緒に来た兄弟が、どうやらやってくれたようだぞ! おまえ、あの兄弟と知り合いか⁉」
「え、いえ、今日馬車の中で顔を合わせたのが初めてです!」
それしか言いようのない僕に、ダドリーさんは眉根を寄せて、聞こえるワケもないけど、舌打ちをした様に見えた。
「あの兄弟、竜に乗れないってのが、嘘っぱちだったんだ――‼」
「はいっ⁉」
「いや、違うな! 少なくともアニキの方が嘘の申告をした。アイツ、ねぐらから出て来た首長竜にいきなり鞍をかけて、弟連れて飛び乗りやがった!」
「え」
僕の驚愕は、崖下のダドリーさんには届かなかっただろうけど、表情は見えていたらしい。
ああ、そうだ!と叫び声が下から返されてきた。
「首長竜の意思を無視したやり方だ! そんなもの、暴れだすに決まっている!」
「暴れているんですか⁉」
「テッドがその風圧をモロに喰らって吹っ飛ばされた! おまえが乗って来た馬車と馭者もひっくるめてな‼」
「ええっ⁉」
じゃあ、僕はどうやって今日帰れば――って、今はそんな場合じゃなかったんだった!
驚いた僕の正面から物凄い風が吹いて来た……って、今のこれ、もしかしてテッドさんと馭者のオジサンが吹っ飛ばされた風圧の名残りじゃ⁉
風が叩きつけてきた先に目を凝らすと、今まさにフルスピードでこの場から離れようとしている首長竜の姿が視界に飛び込んで来た。
目を凝らすと、確かに少年が二人乗りをしながら、竜の背に乗っている。
一人が手綱を握り、もう一人は――
「ダドリーさん、大変!」
視界の先にとんでもないモノを見つけて、僕は悲鳴交じりに叫んでいた。
「後ろの子、卵を抱えてる‼」
「なんだと⁉」
それも1個じゃない。2個だ。
リュート叔父さんとギルさんの顔が、とっさに頭を過る。
とても、二人から聞いていた話と無関係には思えなかった。
「――クソッ!」
そう吐き捨てたダドリーさんが、自分の足元に置いてあった予備の鞍を片手で掴むと、僕がいる崖の上まで、直線距離の階段を一気に駆け上ってきた。
「おい、坊主! さっき確か、二人乗りなら経験があるっつってたな⁉」
「え?あ、ハイ!」
「悪いが今からぶっつけ本番、一人で乗って飛んで貰うぞ!」
僕の肩を掴んだダドリーさんは、ニコリともせずにそんな事を言い切った。
「俺はあの兄弟を追いかける。俺の竜と坊主が選ぶ竜との間で匂い袋を持たせておけば、後からいくらでも追いつける。だからおまえは、ザイフリート辺境伯領に飛んで、応援を呼んで来い」
「え、ザイフリート辺境伯領⁉」
ここで出て来た思いがけない名前に、僕の声はちょっと裏返っていた。
ただダドリーさんは、それを少し違う意味に捉えたみたいで、僕の肩を持つ手に一瞬力がこめられた。
「位置的にここから一番近いんだよ! おかしな噂が流れている事は俺らも聞いちゃいるが、少なくとも軍団長はそんな話に関わる人じゃないから、軍団長指名で行きゃ良い。普段ならともかく、竜に乗って飛んで来たとあっちゃ、面会拒否にはならない筈だからな!」
「え、じゃあテッドさんと馭者のオジサンは――」
「多分テッドは足が折れてる。だから坊主の方から辺境伯軍従属の医者を借りられないか頼んでみてくれるか? 馭者も馬車が壊れちゃ一人で帰れない。テッドと一緒にこの地で待てと言えばそうする筈だ」
そう一気にまくし立てたダドリーさんは、胸元から方位磁石を取り出すと「ザイフリート辺境伯家」と呟いて、手をかざした。
「!」
その瞬間、淡い光の渦が僕の右斜め前方に向かって、すうっと伸びて行った。
「見ろ、坊主。あの兄弟が逃げた方角とはまるで別方向だ。これだけでも、疑いは減るはずだ」
そう言って、僕の手にその磁石を握らせる。
「首長竜も、光を追えと言えばすぐに理解をする。それで、どうする? 最初の首長竜はおまえを乗せる事を認めてくれたか?」
「え……あ……」
――まだそんな段階じゃなかった。
けれど時間がない事も確か。
僕が答えに困っていると、僕とダドリーさんの近くで「カン」と、何かが音を立てた。
「え?」
音のした方を振り返ると、さっきまで僕との話の途中だった首長竜が、僕が地面に置いておいた鞍に、長い首を傾けているところだった。
カン、とまた音がしたので、さっきのもこの首長竜の仕業だと、僕にも分かった。
「ああ、そうか。答えだけまだだったのか。良かったな、坊主。コイツ、おまえを乗せても構わないっつってるぞ」
「え……いいの?」
見上げた僕と、首長竜との視線が交錯した。
ダメなら、そのままねぐらに戻ってしまう――という流れになっているらしい。
誰が決めて、どうやって竜と意思を疎通しあったのか、今となっては誰も知らないことから、僕どころかダドリーさんも生まれていない頃から、それが定着しているんだろうと言う話だった。
最初の首長竜は、じっと僕の方を見つめている。
人と竜の関係性を考えれば、人の側から急かしたりどうこう言える義理でもないので、僕はここでは相手の判断を待つよりほかない。
とは言え、長時間のお見合いになった場合はどうするのか。
先にダドリーさんに聞いておくんだったと、僕の思考が逸れかけたそこへ、鼓膜が破れるかと思うような咆哮と地響きが辺りに響き渡った。
「⁉」
僕は思わず目の前の首長竜を見上げたけど、明らかに僕でさえ驚いたと分かる、エメラルドグリーンの瞳とぶつかった。
「あ……キミじゃない、んだ?」
うっかり呟いてしまったけど、首長竜が何を返せるはずもない。
「ちょっとゴメンね?」
僕はそう、首長竜に断りを入れると、視線を一度外して、崖下にいたダドリーさんの方を向いた。
「ダドリーさん、今のって⁉」
「――坊主、そこを動くなよ!」
僕が聞いたこととは違う言葉が帰ってきたけれど、ダドリーさんの声が物凄く切羽詰まっていることだけは分かった。
「おまえと一緒に来た兄弟が、どうやらやってくれたようだぞ! おまえ、あの兄弟と知り合いか⁉」
「え、いえ、今日馬車の中で顔を合わせたのが初めてです!」
それしか言いようのない僕に、ダドリーさんは眉根を寄せて、聞こえるワケもないけど、舌打ちをした様に見えた。
「あの兄弟、竜に乗れないってのが、嘘っぱちだったんだ――‼」
「はいっ⁉」
「いや、違うな! 少なくともアニキの方が嘘の申告をした。アイツ、ねぐらから出て来た首長竜にいきなり鞍をかけて、弟連れて飛び乗りやがった!」
「え」
僕の驚愕は、崖下のダドリーさんには届かなかっただろうけど、表情は見えていたらしい。
ああ、そうだ!と叫び声が下から返されてきた。
「首長竜の意思を無視したやり方だ! そんなもの、暴れだすに決まっている!」
「暴れているんですか⁉」
「テッドがその風圧をモロに喰らって吹っ飛ばされた! おまえが乗って来た馬車と馭者もひっくるめてな‼」
「ええっ⁉」
じゃあ、僕はどうやって今日帰れば――って、今はそんな場合じゃなかったんだった!
驚いた僕の正面から物凄い風が吹いて来た……って、今のこれ、もしかしてテッドさんと馭者のオジサンが吹っ飛ばされた風圧の名残りじゃ⁉
風が叩きつけてきた先に目を凝らすと、今まさにフルスピードでこの場から離れようとしている首長竜の姿が視界に飛び込んで来た。
目を凝らすと、確かに少年が二人乗りをしながら、竜の背に乗っている。
一人が手綱を握り、もう一人は――
「ダドリーさん、大変!」
視界の先にとんでもないモノを見つけて、僕は悲鳴交じりに叫んでいた。
「後ろの子、卵を抱えてる‼」
「なんだと⁉」
それも1個じゃない。2個だ。
リュート叔父さんとギルさんの顔が、とっさに頭を過る。
とても、二人から聞いていた話と無関係には思えなかった。
「――クソッ!」
そう吐き捨てたダドリーさんが、自分の足元に置いてあった予備の鞍を片手で掴むと、僕がいる崖の上まで、直線距離の階段を一気に駆け上ってきた。
「おい、坊主! さっき確か、二人乗りなら経験があるっつってたな⁉」
「え?あ、ハイ!」
「悪いが今からぶっつけ本番、一人で乗って飛んで貰うぞ!」
僕の肩を掴んだダドリーさんは、ニコリともせずにそんな事を言い切った。
「俺はあの兄弟を追いかける。俺の竜と坊主が選ぶ竜との間で匂い袋を持たせておけば、後からいくらでも追いつける。だからおまえは、ザイフリート辺境伯領に飛んで、応援を呼んで来い」
「え、ザイフリート辺境伯領⁉」
ここで出て来た思いがけない名前に、僕の声はちょっと裏返っていた。
ただダドリーさんは、それを少し違う意味に捉えたみたいで、僕の肩を持つ手に一瞬力がこめられた。
「位置的にここから一番近いんだよ! おかしな噂が流れている事は俺らも聞いちゃいるが、少なくとも軍団長はそんな話に関わる人じゃないから、軍団長指名で行きゃ良い。普段ならともかく、竜に乗って飛んで来たとあっちゃ、面会拒否にはならない筈だからな!」
「え、じゃあテッドさんと馭者のオジサンは――」
「多分テッドは足が折れてる。だから坊主の方から辺境伯軍従属の医者を借りられないか頼んでみてくれるか? 馭者も馬車が壊れちゃ一人で帰れない。テッドと一緒にこの地で待てと言えばそうする筈だ」
そう一気にまくし立てたダドリーさんは、胸元から方位磁石を取り出すと「ザイフリート辺境伯家」と呟いて、手をかざした。
「!」
その瞬間、淡い光の渦が僕の右斜め前方に向かって、すうっと伸びて行った。
「見ろ、坊主。あの兄弟が逃げた方角とはまるで別方向だ。これだけでも、疑いは減るはずだ」
そう言って、僕の手にその磁石を握らせる。
「首長竜も、光を追えと言えばすぐに理解をする。それで、どうする? 最初の首長竜はおまえを乗せる事を認めてくれたか?」
「え……あ……」
――まだそんな段階じゃなかった。
けれど時間がない事も確か。
僕が答えに困っていると、僕とダドリーさんの近くで「カン」と、何かが音を立てた。
「え?」
音のした方を振り返ると、さっきまで僕との話の途中だった首長竜が、僕が地面に置いておいた鞍に、長い首を傾けているところだった。
カン、とまた音がしたので、さっきのもこの首長竜の仕業だと、僕にも分かった。
「ああ、そうか。答えだけまだだったのか。良かったな、坊主。コイツ、おまえを乗せても構わないっつってるぞ」
「え……いいの?」
見上げた僕と、首長竜との視線が交錯した。
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