上 下
9 / 40
【Case.1】狙われた竜の卵

9 冒険者ギルド食堂

しおりを挟む
 午前中はいつも通りに資料室の受付に座っていたけど、もうすぐお昼と言う時間になって、交代だと女性のギルド職員さんが顔を出してくれた。

 確か普段は冒険者登録窓口で新人の受付をしている、ショートカットが目印の美女、クレアさんだ。

 来てくれたのと同時に「受講証」だと言って、ギルドカードにも似たカードを一枚、資料室の受付の前に置いてくれる。

「お昼の時間が終わったところで、馬車留めのところまで行って? で、御者にこれを見せてから、馬車に乗ってくれるかしら」

 分かりましたと答えながら、手ぶらで良いのかと僕が確認をすれば、基本的な道具や動きやすい服なんかは、訓練場の方で用意をされているらしく、気にしなくて良いとのことだった。

 僕はもう一度お礼を言ってクレアさんに頭を下げると、資料室の受付を出て、冒険者ギルドの1階にある食堂へと顔を出した。

 冒険者ギルドと言うからには、もちろん1階正面、メインと言って良い場所には依頼を申し込んだり、採って来た素材を売ったりするための受付がある訳なんだけど、受付の順番待ちをしたり、素材の鑑定や解体を待ちたい人なんかのための食事をする場所もあるのだ。

 ギルドで働く職員にしても、街の方へ出たり庭で自作のお弁当を広げたりする人たちもいれば、冒険者たちが話す最新の情報を耳にしたいと、食堂で食事をとる人もいて、千差万別だ。

 僕は普段は大体、リュート叔父さんとこの食堂でとる事が多い。
 冒険者たちが話す内容を、叔父さんが取捨選択しながら気にかけていると気が付いたのも、そのせいだ。

 あと叔父さんは、酔っ払いが暴れたところでものともしない。

 たまに他の街から来た冒険者たちが、叔父さんの顔を知らずに暴れたりするけれど、あっと言う間に外に蹴り出されて終わってしまう。

 だから僕が一人で行く時がたまにあっても、大抵の人が後ろに叔父さんの影を見ているから、僕に突っかかってくる事なんてまずない。

 もちろんそれにだって例外はいる訳けど、もうそこまで警戒しだしたらキリがないから、必要以上は気にしない事にしている。

 将来の叔父さんの右腕、優秀な探偵助手を目指す身としては、多少のトラブルくらいは一人で片づけられるようにならないとね!

「おーい、ハルト! 今から昼メシ?」

 僕が席を探そうと辺りを見回していると、どこからか声が聞こえて、人込みの中からにゅっと手が突き出された。

「ニールス」
「隣、確保しておいてやるから定食取って来いよ!」

 声の主は、僕が資料室の受付に入ったのとほぼ同時期にこのギルドにやってきた少年、ニールスだ。

 本来は医療ギルドの薬師見習いだけど、薬師になるための必須研修として、冒険者ギルドの解体部門でしばらく手ほどきを受ける――と言う項目があるから、ここにいる。

 僕よりは三つ四つちょっと年上だけど、このギルドで働くようになったのがほぼ同時期と言う事で「同期でイイじゃん!」と、気軽にいつも話しかけてくれる。

「え、ホント? ありがとう、助かるよ!」

 だからその言葉に甘えて、片手を振ってから注文カウンターの方へと向かった。

「ロブさん、ホーンラビットのシチューセットをお願いします」

 昼間の食堂は、酔っぱらってのトラブルを減らすためもあるけれど、早く依頼をこなしに出かけたい冒険者や、手早く昼を済ませたい職員たちのために、メニューが日替わりの定食セットが三種類だけと固定されている。

 夜は単品料理とお酒が並んでいて、これは依頼を達成して懐の温かくなったと思われる人たちを想定したものだ。

 とりあえずは、今日の日替わりメニューの中から「ホーンラビットのシチューセット」を注文して、その場でメインのシチューを受け取った後は、パンにサラダにジュースと、横に移動をしながらひと通り受け取って、最後はギルドの職員証をレジに登録して、席に向かった。

 冒険者たちは現金払いが基本だけれど、ギルドで働く職員は、食べた分、給与から引かれる仕組みになっているのだ。

 一見便利だけど、調子に乗って夜、高額なお肉とかを注文すれば、次月給与がほとんどないなんて、シャレにならない事態も招きかねないので、自戒が必要だ。

「今日はリュートさんとは一緒じゃないのな」

 ニールスの前にある食事は、まだ手を付け始めたばかり、と言った感じだった。
 本当にいいタイミングだったんだろう。

 僕も「そうなんだ」と言いながらニールスの向かいに座って、目の前のパンを引きちぎった。

「叔父さんは、今日は『依頼』があって出かけるって。しばらくこんな感じになるんじゃないかな」

「そっか、何でも屋の活動か」

 叔父さんが聞いたら、確実に眉をひそめそうだけど、これが世間一般の認識なんだから仕方がない。

 そして、火竜騎獣軍からの依頼だとも今はまだ言えないので、僕はここでは曖昧に笑っておくしかないのだ。

 ――ごめんね、叔父さん。何でも屋って言われてるの、訂正出来なくて。

「僕もそれで『竜の牧場』に通うことになってさ。叔父さんの留守中に何かあったら、急ぎで伝言を届けられるように――って」

「伝言?何だよ、それ。冒険者になるとかじゃなくて?」

「哀しいかなこの体格じゃ向いてない」

 自分を指差しつつ残酷な事実を告げてみると、ニールスに「理解した」と言わんばかりの表情を見せられてしまい、むしろちょっと落ち込んだ。

「ま、まあ冒険者や騎士にならなくても、竜の乗り手は一人でも多い方が良いって言うのは、ギルド全体の考え方ではあるよな。じゃあ僕にもそんな用事が将来出来たら、ハルトに乗せて貰おうかな」

「なんだよ。ニールスも行けば良いのに」

「学校で教わった、最低限で充分だよ。僕だって、目指しているのは薬師であって、冒険者じゃないんだからさ」

 基本、荒事回避の姿勢を見せるニールスとは、そんなところも仲良く出来ている一因かも知れない。

 その後は、普通に「このシチュー美味いな」なんて話をしていた筈だったんだけど――急に食堂の入り口が騒がしくなって、僕とニールスは顔を上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)

朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。 「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」 生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。 十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。 そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。 魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。 ※『小説家になろう』でも掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅
ファンタジー
総合ランキング3位 ファンタジー2位 HOT1位になりました! そして、お気に入りが4000を突破致しました! 表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓ https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055 みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。 そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。 そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。 そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる! おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...