6 / 40
【Case.1】狙われた竜の卵
6 空色の髪の美女
しおりを挟む
「……はぁ」
少しの間僕を見て、それから叔父さんは大きく息を吐き出した。
「ったく、日に日にモノの頼み方が卑怯になってくるな」
「人聞きの悪い。ハルトのためだって言うのに、どこか嘘はあるか?」
「…………」
これは、無言の叔父さんの方が分が悪いと言うべきだった。
やがて諦めた様に首を振って「分かった」と口にしたものの、表情を明るくしたギルさんに「ただし」と釘を刺す事を忘れなかった。
「おまえもギルド長室に付き合って貰うぞ、ギルフォード。もしかしたら、俺への報酬よりも高くつくかも知れんが、文句は言うなよ?」
「げ……」
ギルさんの表情が、盛大に痙攣った。
当たり前だろう、と立ち上がった叔父さんが、ギルさんを見下ろしている。
「俺に依頼を受けさせたいんなら、諦めるんだな。資料室の最終的な管理監督者は誰か、よく考えろ」
「……俺、あの女傑は苦手なんだよな……」
ガックリと首を垂れながらも、他にどうしようもないと察したギルさんも、諦めた様に立ち上がった。
一応、僕は資料室で留守番かな――。
そう思っていると、何故か叔父さんに「ハルト」と、声をかけられてしまった。
「ハルトも来てくれるか」
「え⁉」
「もしかしたら、俺が出かけるにあたって、留守番のハルトに補佐を付けるかどうかとか、話の流れ次第で出て来るかも知れないからな」
てっきり、叔父さんとギルさんの二人で行くと思っていたから、一瞬目を丸くしてしまったけど、叔父さんに言われてしまうと、そういうものなのかな?とも思ってしまう。
とりあえず、お茶のセットは奥の流し台に置くだけ置いて、僕もリュート叔父さんとギルさんに付いて行く事になった。
.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜
コンコン、とギルド長室の扉を叔父さんが叩く。
すると、さほどの間を置かずに「はいはい、どーぞ?」と、妙に軽い女性の声が中からは聞こえてきた。
叔父さんは「ったく、相変わらずな……」と、ため息交じりに扉を押した。
「あらぁ? 資料室の引きこもりが、ご用だなんてお珍しいコト」
扉が開いたので、今度はハッキリと、女性の声が僕の耳も届く。
「ホーデリーフェ」
「いやね、引きこもっている内に、名前忘れた?私の名前はホリーよ、ホ・リ・イ!」
「俺が愛称を呼ぶ謂れはないと、毎回言ってるな?そして、今日は騎獣軍からの真面目な依頼だ」
……なんか叔父さんが、僕と同じ様な事を考えていたらしいのが、ちょっとほっこりする。
後ろでギルさんがいじけそうになっているけど、誰もそれをフォローしていない。
「あら」
ギルド長室の中央に位置する机を陣取るのは、空色の髪の美女。
デュルファー王国副都ドレーゼは、冒険者、商業、職人、医療の各ギルドの本部を抱えている。
そして、ここは冒険者ギルドの本部。
――目の前のこの女性こそが、冒険者ギルドの当代ギルド長なのだ。
かつて叔父さんやギルさんとも、魔獣討伐の場で会ったことがあるという、元A級冒険者。
ギルド長就任と共に、冒険者活動の第一線からは、いったん退いている女性だ。
叔父さんはS級だけど、そもそもS級だけは、有事に活躍した際に国が与える、言わば「勇者」に等しい特殊な階級で、事実上の現役冒険者のトップはA級らしい。
かつて美女ならぬ、美魔女呼ばわりした下っ端冒険者が、魔物のエサになった……などという噂も、あるとかないとか。
もちろん僕は「ギルド一の美女ホリーさん」と、謹んでお呼びしている。
ホントは何歳か、なんてことは聞いちゃいけないと、叔父さんからも言い聞かされている。
多分叔父さんくらいか、少し上くらいじゃないかと思うんだけど、そもそも女性に向かって年齢の話をするようでは一生モテないとギルさんも言うので、きっと分からないまま、僕も年を重ねていくんだろう。
ちなみにギルさん曰く「年齢を聞かず、誕生日のみを祝うのが粋な男」というコトらしい。
「リードレ隊長に、ハルト君まで一緒に来ているだなんて、穏やかじゃないわね。もしかして、アレかしら? 竜の卵と幼体の行方不明事件」
叔父さんが知らなかっただけで、冒険者ギルドにもちゃんと情報は入っていて、捜索の指示はギルドからも出ていた。
元をただせば冒険者たちが、黒妖犬討伐の後で、たまたま割れた卵や死んでしまった幼竜を目撃したところに端を発している訳なので、何なら現時点では、叔父さんよりも情報を持っている可能性があった。
だから叔父さんも、ここへ来たんだろう。
「まあ、縄張りだのプライドだの、つまらないモノが邪魔をして出遅れる騎獣軍やお貴族サマ達と違って、予期せぬ出来事にもフットワークが軽いのが、冒険者。あなたたちよりは、一歩も二歩も先んじている事は確かでしょうね」
案の定、ホリーさんの返しには容赦の欠片もなく、主にギルさんが直撃を喰らって、胃のあたりを押さえている。
叔父さんは、基本冒険者側の人だから「相変わらず手厳しいな」と微笑っているだけだ。
「まあ……確かにザイフリート辺境伯家自体は、どうなったとしても、俺もさほど気にはしないが、アンヘル軍団長個人には色々と世話になってる。一通り冒険者側の聴取が済んで、そちらの疑いが晴れたとなれば、次に疑いが向くのは当然、辺境伯家だ。何しろ火竜騎獣軍を名乗って受け渡しが行われているんだからな。たまにはいくつか借りを返しておくのも良いだろう」
「あら」
ホリーさんは「そういうコト……」と、叔父さんとギルさんを見比べながら、一人で何か納得していた。
この辺り、すぐに思い至れないあたり、僕はまだまだ経験が足りないんだろう。
「辺境伯領に行くのね?」
ホリーさんの問いかけに「ああ」と、叔父さんも頷いた。
少しの間僕を見て、それから叔父さんは大きく息を吐き出した。
「ったく、日に日にモノの頼み方が卑怯になってくるな」
「人聞きの悪い。ハルトのためだって言うのに、どこか嘘はあるか?」
「…………」
これは、無言の叔父さんの方が分が悪いと言うべきだった。
やがて諦めた様に首を振って「分かった」と口にしたものの、表情を明るくしたギルさんに「ただし」と釘を刺す事を忘れなかった。
「おまえもギルド長室に付き合って貰うぞ、ギルフォード。もしかしたら、俺への報酬よりも高くつくかも知れんが、文句は言うなよ?」
「げ……」
ギルさんの表情が、盛大に痙攣った。
当たり前だろう、と立ち上がった叔父さんが、ギルさんを見下ろしている。
「俺に依頼を受けさせたいんなら、諦めるんだな。資料室の最終的な管理監督者は誰か、よく考えろ」
「……俺、あの女傑は苦手なんだよな……」
ガックリと首を垂れながらも、他にどうしようもないと察したギルさんも、諦めた様に立ち上がった。
一応、僕は資料室で留守番かな――。
そう思っていると、何故か叔父さんに「ハルト」と、声をかけられてしまった。
「ハルトも来てくれるか」
「え⁉」
「もしかしたら、俺が出かけるにあたって、留守番のハルトに補佐を付けるかどうかとか、話の流れ次第で出て来るかも知れないからな」
てっきり、叔父さんとギルさんの二人で行くと思っていたから、一瞬目を丸くしてしまったけど、叔父さんに言われてしまうと、そういうものなのかな?とも思ってしまう。
とりあえず、お茶のセットは奥の流し台に置くだけ置いて、僕もリュート叔父さんとギルさんに付いて行く事になった。
.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜
コンコン、とギルド長室の扉を叔父さんが叩く。
すると、さほどの間を置かずに「はいはい、どーぞ?」と、妙に軽い女性の声が中からは聞こえてきた。
叔父さんは「ったく、相変わらずな……」と、ため息交じりに扉を押した。
「あらぁ? 資料室の引きこもりが、ご用だなんてお珍しいコト」
扉が開いたので、今度はハッキリと、女性の声が僕の耳も届く。
「ホーデリーフェ」
「いやね、引きこもっている内に、名前忘れた?私の名前はホリーよ、ホ・リ・イ!」
「俺が愛称を呼ぶ謂れはないと、毎回言ってるな?そして、今日は騎獣軍からの真面目な依頼だ」
……なんか叔父さんが、僕と同じ様な事を考えていたらしいのが、ちょっとほっこりする。
後ろでギルさんがいじけそうになっているけど、誰もそれをフォローしていない。
「あら」
ギルド長室の中央に位置する机を陣取るのは、空色の髪の美女。
デュルファー王国副都ドレーゼは、冒険者、商業、職人、医療の各ギルドの本部を抱えている。
そして、ここは冒険者ギルドの本部。
――目の前のこの女性こそが、冒険者ギルドの当代ギルド長なのだ。
かつて叔父さんやギルさんとも、魔獣討伐の場で会ったことがあるという、元A級冒険者。
ギルド長就任と共に、冒険者活動の第一線からは、いったん退いている女性だ。
叔父さんはS級だけど、そもそもS級だけは、有事に活躍した際に国が与える、言わば「勇者」に等しい特殊な階級で、事実上の現役冒険者のトップはA級らしい。
かつて美女ならぬ、美魔女呼ばわりした下っ端冒険者が、魔物のエサになった……などという噂も、あるとかないとか。
もちろん僕は「ギルド一の美女ホリーさん」と、謹んでお呼びしている。
ホントは何歳か、なんてことは聞いちゃいけないと、叔父さんからも言い聞かされている。
多分叔父さんくらいか、少し上くらいじゃないかと思うんだけど、そもそも女性に向かって年齢の話をするようでは一生モテないとギルさんも言うので、きっと分からないまま、僕も年を重ねていくんだろう。
ちなみにギルさん曰く「年齢を聞かず、誕生日のみを祝うのが粋な男」というコトらしい。
「リードレ隊長に、ハルト君まで一緒に来ているだなんて、穏やかじゃないわね。もしかして、アレかしら? 竜の卵と幼体の行方不明事件」
叔父さんが知らなかっただけで、冒険者ギルドにもちゃんと情報は入っていて、捜索の指示はギルドからも出ていた。
元をただせば冒険者たちが、黒妖犬討伐の後で、たまたま割れた卵や死んでしまった幼竜を目撃したところに端を発している訳なので、何なら現時点では、叔父さんよりも情報を持っている可能性があった。
だから叔父さんも、ここへ来たんだろう。
「まあ、縄張りだのプライドだの、つまらないモノが邪魔をして出遅れる騎獣軍やお貴族サマ達と違って、予期せぬ出来事にもフットワークが軽いのが、冒険者。あなたたちよりは、一歩も二歩も先んじている事は確かでしょうね」
案の定、ホリーさんの返しには容赦の欠片もなく、主にギルさんが直撃を喰らって、胃のあたりを押さえている。
叔父さんは、基本冒険者側の人だから「相変わらず手厳しいな」と微笑っているだけだ。
「まあ……確かにザイフリート辺境伯家自体は、どうなったとしても、俺もさほど気にはしないが、アンヘル軍団長個人には色々と世話になってる。一通り冒険者側の聴取が済んで、そちらの疑いが晴れたとなれば、次に疑いが向くのは当然、辺境伯家だ。何しろ火竜騎獣軍を名乗って受け渡しが行われているんだからな。たまにはいくつか借りを返しておくのも良いだろう」
「あら」
ホリーさんは「そういうコト……」と、叔父さんとギルさんを見比べながら、一人で何か納得していた。
この辺り、すぐに思い至れないあたり、僕はまだまだ経験が足りないんだろう。
「辺境伯領に行くのね?」
ホリーさんの問いかけに「ああ」と、叔父さんも頷いた。
0
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる