792 / 803
第三部 宰相閣下の婚約者
792 嬉しい気遣い?
しおりを挟む
「……で、どうするんだ」
どのくらいそこに立ち尽くしていたのか。
ファルコの声がけでようやく我に返る。
「ああ! えっと、そうね……フォルシアン公爵閣下の執務室に行こうかと」
ここは王宮の廊下だ。
イル義父様呼びを敢えて避けたことに気付いたのか、気付かなかったのか。
表情を隠すように「邸宅じゃなく?」とだけ聞いてきた。
「多分まだレンナルト卿たちがいると思うのよね」
そこで兄、ユーホルト・ダリアン侯爵に帰る挨拶をしておくとかどうとか、言っていたはず。
「ダリアン侯爵は、王宮でこき使われるらしいから、まあ置いておくとして……レンナルト卿に関しては、戻って鉱山の被害を確認して貰わないとだから、話は必要だろうと思って」
宝石が採れる鉱山と、資源として有用な鉱石が採れる鉱山とでは、そもそもの構成の違いもあって、鉱毒が漏れ出る可能性は低いはず。
ただ私も専門家ではないわけで、可能性がゼロだとは言い切れない。
まずは水や土を王都に送って貰い、アルノシュト伯爵領の該当地域のそれと比較して貰うところから始めることになるだろう。
ただアンジェスには、ギーレンのシーカサーリ王立植物園のような専門機関があるわけじゃない。
「イザクがいてくれる内に、採取してきた土や水を植物園に送るのが一番いい気はするんだけど、国を跨いでしまうから、そこはエドヴァルド様に要相談よね……」
「…………そうか」
ファルコが何を思ってそう呟いたのかは、私には分からない。
いざとなったら自分が行くといいそうな空気を感じるものの、多分暴走はしないだろうと思う。
既に彼は〝鷹の眼〟という一つの組織をその身に背負っているのだから。
「――ファルコ、ちょっと」
「!」
そこで不意に現れた影にちょっと驚いてしまった。けれど、声から言って〝鷹の目〟の一人、ハジェスだと思ったので、何とかこちらが声をあげることはせずに済んだ。
「……は?」
元からそうなのか、周囲に聞こえない話し方の工夫があるのか、ハジェスの声はほとんどこちらには聞こえてこない。
ただファルコが盛大に顔をしかめたので、何か面倒なことが起きたんだろうな、くらいには察することが出来た。
「あー……」
そしてハジェスの話が終わったところで、何故か二人ともの視線がぐるりとこちらに向けられた。
「関係あるとも言えるし、ないとも言えるが……ちょっと落ち着いて聞いて欲しいんだが」
「うん」
現時点で落ち着いている、なんて返しはファルコの表情を見て呑み込んでおく。
ええ、空気は読める女なので。
「レイフ殿下が襲撃を受けたらしい」
「え」
エドヴァルドなら取り乱したかも知れないが、レイフ殿下。
驚くよりも虚を突かれたと言った方が正しかった。
「原因は仲間割れ――で、いいのか? ナルディーニ侯爵家に雇われていた元特殊部隊のヤツが王宮の廊下で殿下に襲いかかったんだそうだ」
「!」
王族が王宮内部で襲撃を受けるなどと、もっての他だ。
護衛騎士の沽券に関わる。
「もしかして、レヴに何かあった? えっ、ひょっとしてリファちゃんとか⁉」
私に落ち着くよう釘を刺すなら、どちらか、あるいは両方に関係があると言うことになってしまう。
ハッと目を瞠った私に「だから落ち着けって」と、ファルコが両手を振った。
「護衛騎士が何人か斬られたらしいんだが、アイツと、たまたま王宮に来ていたらしい王都警備隊のヤツとで殿下を守りきったって話だ」
「王都警備隊……って、キーロ⁉ 来てたんだ」
裏工作型のレヴと違って、キーロがガチガチの実行部隊だったというから、それはキーロがいれば、レイフ殿下が無傷だろうというのは想像に難くない。
「ナルディーニ侯爵家、今回のやらかしで裁かれるのは確実だから、また自分の居場所がなくなる……って、なっちゃったのかなぁ……」
「俺らみたいなのは雇い主の立場に左右されやすいところはあるけどな。だけどナルディーニ侯爵家だろう? 金につられた線が濃厚だな。そうなると、自分の見る目のなさを嘆けって話にもなるな」
そう言うファルコも、隣のハジェスも微妙な表情だ。
同じ裏方の人間として、私とは違って何か思うところがあるのかも知れない。
「まあ、そっちはもう王宮の護衛騎士連中が対処してるらしいからいいとして、だ。その襲撃現場がこの先だったみたいだから、ちょっと回り道するぞって話だな」
「えっ、この先だったの⁉」
ギョッとなった私に、もう危険はないのだとハジェスが苦笑する。
「ただ床のあちこちに血だまりがあるから……」
その一言で、どうやらかつて血の匂いで気分が悪くなってしまった私に気を遣ってくれたらしいことが読み取れた。
「そっか……うん、じゃあ、そうしようかな」
血だまりとか、そんな激闘が展開されていたんだろうか。
一瞬背筋が寒くなったものの、考えれば考えるほど、そこを横目に通って行こうとは思えなくなってくる。
私は彼らの気遣いをありがたく受けることにした。
.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜
「あぁ、レイナちゃん。おかえりなさい」
そうして辿り着いたイル義父様の執務室には、エリィ義母様と、レンナルト卿がまだ帰らずにいた。
「少し前まで、お兄様がいらしたのよ。それで少しお話し合いを……ね?」
お話し合い、のところが妙に強調されていて、何だかレンナルト卿の顔色も悪い。
どうやら「エリィ義母様無双」が展開されていたらしかった。
「ダリアン侯爵は……?」
「何だか夫の部署の書類仕事を当面手伝うとかで、その前に弟にも事情説明を――となって、ここに立ち寄るという形をとったみたいなの」
なるほど、他にもっと重い罪を犯した人間はいるわけだから、さっさと実務につけとなったのかも知れない。
とは言え期限が三国会談の後、どこまでの拘束となるかがまだ明確ではないため、その間弟に領地を委ねると言いに来たということか。
伝言でもよかったのかも知れないが形式を重んじた、と。
「お兄様には『落ち着いたらお茶をしましょう』と言っておいたのだけれど……実際のところ、夫や宰相閣下がそうすぐには頷かないでしょうね……」
エリィ義母様、苦笑い。私もそこは否定がしづらい。
レンナルト卿は――ノーコメントということは、きっと同じようには思っているのだろう。
そこは敢えて深入りせず、私はレンナルト卿の方を向いて「じゃあ、もう領地にお戻りですか?」と話題を変えた。
「ああ。だけど鉱山の調査の件を聞いてからと思ってね。本当は、現地で直接指示を出して貰うのがいいのだろうけど、そうもいかないしね……」
「それは……そうですね」
アルノシュト伯爵領にさえ行ったことがないのに、それはさすがに憚られる。
とは言え、簡単に口頭で説明できる話でもない。
考えた末に、私はレポートの送付をレンナルト卿に提案した。
「商業ギルドを経由すれば、すぐ着きますし……アルノシュト伯爵令息の容態や、これまで分かっていることなんかもまとめてお渡しすれば、地元の方にも説明しやすいんじゃないかと……」
何せこの世界にとっては未知の症状だった公害。
水や作物のひそやかな汚染は、すぐに気付くものではない。
まずは鉱山周辺地域の村々への聞き取りから始めなくてはならないだろう。人手も、派遣費用もそれなりに発生するはずだ。
「ダリアン侯爵家も今回責任がないとは言えない。兄は兄の、私には私の責の果たし方があると、気を引き締めてやるだけのことだ」
ヤーデルード鉱山のケースを調査することは、銀の鉱山との違いを確かめる上でも貴重な機会になることは間違いない。
詐欺に関わってしまった贖罪としての協力でも、それは間違いなく今後の公害を抑える意味で役に立っていくだろう。
「姉上の生まれ育ったところでもあるわけだからね。いずれ二人で来てくれたら嬉しいよ。歓迎する」
その時は「叔父」と呼んでくれたら嬉しい。
レンナルト卿はそう言って、貸し出された簡易型転移装置を片手にこの場を後にした。
「あれは片道用なのよ。いずれ落ち着いたら、また貸し出しがあるでしょうからダリアン侯爵領を一緒に訪れましょうね」
「はい、ぜひ」
どこかの魔王さまの顔が一瞬脳裡に浮かんだものの、きっとそこはエリィ義母様が笑顔で押し勝つんじゃないかと、そんな気がひしひしとしてしまった。
「それじゃあレイナちゃん、帰りましょうか?」
「あっ、私は――」
「え?」
「すみません、王都商業ギルドに行って、国政に関わらない範囲での事情説明に行かないと……」
そもそも、投資詐欺に関する報告は王都商業ギルドから始まっているといってもいい。
ギルドにもギルドの決着のつけ方がある以上は、事の成り行きを何も伝えないというわけにはいかないのだ。
「そう……」
「あ、エリィ義母様は先に戻っていて下さい! これ以上巻き込んだら、私がイル義父様に叱られちゃいます!」
決して大げさなことは言わなかったはずなのに、エリィ義母様は何故か難しい表情を浮かべた。
「ここでレイナちゃんが一緒に帰らないと言うのも、それはそれで宰相閣下の機嫌が悪くなる気がするのだけれど……」
「…………」
聞こえません。
なんにも、聞こえません!
「大丈夫です、ちゃんと護衛もいますから!」
道連れかよ! と、ファルコが小声で叫んだことも無視です。
「そうねぇ……我が家の護衛よりは強いという話だから……まだいいのかしら……」
「はい!」
ハジェスも盛大に顔を痙攣らせている。
「じゃあ、あなたたちお願いするわね?」
「「…………」」
トドメのエリィ義母様の一言に、二人は諦めたように頭を下げた。
そうしてエリィ義母様と別れて、私は王都商業ギルドに向かうことにしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いつも読んでいただいて、エール等有難うございます!
コメントは全て拝見させていただいておりますが、返信はもう少しだけお待ち下さいm(_ _)m
来週はコミカライズ版「聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?」の連載も更新予定です。
併せてよろしくお願い致しますm(_ _)m
どのくらいそこに立ち尽くしていたのか。
ファルコの声がけでようやく我に返る。
「ああ! えっと、そうね……フォルシアン公爵閣下の執務室に行こうかと」
ここは王宮の廊下だ。
イル義父様呼びを敢えて避けたことに気付いたのか、気付かなかったのか。
表情を隠すように「邸宅じゃなく?」とだけ聞いてきた。
「多分まだレンナルト卿たちがいると思うのよね」
そこで兄、ユーホルト・ダリアン侯爵に帰る挨拶をしておくとかどうとか、言っていたはず。
「ダリアン侯爵は、王宮でこき使われるらしいから、まあ置いておくとして……レンナルト卿に関しては、戻って鉱山の被害を確認して貰わないとだから、話は必要だろうと思って」
宝石が採れる鉱山と、資源として有用な鉱石が採れる鉱山とでは、そもそもの構成の違いもあって、鉱毒が漏れ出る可能性は低いはず。
ただ私も専門家ではないわけで、可能性がゼロだとは言い切れない。
まずは水や土を王都に送って貰い、アルノシュト伯爵領の該当地域のそれと比較して貰うところから始めることになるだろう。
ただアンジェスには、ギーレンのシーカサーリ王立植物園のような専門機関があるわけじゃない。
「イザクがいてくれる内に、採取してきた土や水を植物園に送るのが一番いい気はするんだけど、国を跨いでしまうから、そこはエドヴァルド様に要相談よね……」
「…………そうか」
ファルコが何を思ってそう呟いたのかは、私には分からない。
いざとなったら自分が行くといいそうな空気を感じるものの、多分暴走はしないだろうと思う。
既に彼は〝鷹の眼〟という一つの組織をその身に背負っているのだから。
「――ファルコ、ちょっと」
「!」
そこで不意に現れた影にちょっと驚いてしまった。けれど、声から言って〝鷹の目〟の一人、ハジェスだと思ったので、何とかこちらが声をあげることはせずに済んだ。
「……は?」
元からそうなのか、周囲に聞こえない話し方の工夫があるのか、ハジェスの声はほとんどこちらには聞こえてこない。
ただファルコが盛大に顔をしかめたので、何か面倒なことが起きたんだろうな、くらいには察することが出来た。
「あー……」
そしてハジェスの話が終わったところで、何故か二人ともの視線がぐるりとこちらに向けられた。
「関係あるとも言えるし、ないとも言えるが……ちょっと落ち着いて聞いて欲しいんだが」
「うん」
現時点で落ち着いている、なんて返しはファルコの表情を見て呑み込んでおく。
ええ、空気は読める女なので。
「レイフ殿下が襲撃を受けたらしい」
「え」
エドヴァルドなら取り乱したかも知れないが、レイフ殿下。
驚くよりも虚を突かれたと言った方が正しかった。
「原因は仲間割れ――で、いいのか? ナルディーニ侯爵家に雇われていた元特殊部隊のヤツが王宮の廊下で殿下に襲いかかったんだそうだ」
「!」
王族が王宮内部で襲撃を受けるなどと、もっての他だ。
護衛騎士の沽券に関わる。
「もしかして、レヴに何かあった? えっ、ひょっとしてリファちゃんとか⁉」
私に落ち着くよう釘を刺すなら、どちらか、あるいは両方に関係があると言うことになってしまう。
ハッと目を瞠った私に「だから落ち着けって」と、ファルコが両手を振った。
「護衛騎士が何人か斬られたらしいんだが、アイツと、たまたま王宮に来ていたらしい王都警備隊のヤツとで殿下を守りきったって話だ」
「王都警備隊……って、キーロ⁉ 来てたんだ」
裏工作型のレヴと違って、キーロがガチガチの実行部隊だったというから、それはキーロがいれば、レイフ殿下が無傷だろうというのは想像に難くない。
「ナルディーニ侯爵家、今回のやらかしで裁かれるのは確実だから、また自分の居場所がなくなる……って、なっちゃったのかなぁ……」
「俺らみたいなのは雇い主の立場に左右されやすいところはあるけどな。だけどナルディーニ侯爵家だろう? 金につられた線が濃厚だな。そうなると、自分の見る目のなさを嘆けって話にもなるな」
そう言うファルコも、隣のハジェスも微妙な表情だ。
同じ裏方の人間として、私とは違って何か思うところがあるのかも知れない。
「まあ、そっちはもう王宮の護衛騎士連中が対処してるらしいからいいとして、だ。その襲撃現場がこの先だったみたいだから、ちょっと回り道するぞって話だな」
「えっ、この先だったの⁉」
ギョッとなった私に、もう危険はないのだとハジェスが苦笑する。
「ただ床のあちこちに血だまりがあるから……」
その一言で、どうやらかつて血の匂いで気分が悪くなってしまった私に気を遣ってくれたらしいことが読み取れた。
「そっか……うん、じゃあ、そうしようかな」
血だまりとか、そんな激闘が展開されていたんだろうか。
一瞬背筋が寒くなったものの、考えれば考えるほど、そこを横目に通って行こうとは思えなくなってくる。
私は彼らの気遣いをありがたく受けることにした。
.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜
「あぁ、レイナちゃん。おかえりなさい」
そうして辿り着いたイル義父様の執務室には、エリィ義母様と、レンナルト卿がまだ帰らずにいた。
「少し前まで、お兄様がいらしたのよ。それで少しお話し合いを……ね?」
お話し合い、のところが妙に強調されていて、何だかレンナルト卿の顔色も悪い。
どうやら「エリィ義母様無双」が展開されていたらしかった。
「ダリアン侯爵は……?」
「何だか夫の部署の書類仕事を当面手伝うとかで、その前に弟にも事情説明を――となって、ここに立ち寄るという形をとったみたいなの」
なるほど、他にもっと重い罪を犯した人間はいるわけだから、さっさと実務につけとなったのかも知れない。
とは言え期限が三国会談の後、どこまでの拘束となるかがまだ明確ではないため、その間弟に領地を委ねると言いに来たということか。
伝言でもよかったのかも知れないが形式を重んじた、と。
「お兄様には『落ち着いたらお茶をしましょう』と言っておいたのだけれど……実際のところ、夫や宰相閣下がそうすぐには頷かないでしょうね……」
エリィ義母様、苦笑い。私もそこは否定がしづらい。
レンナルト卿は――ノーコメントということは、きっと同じようには思っているのだろう。
そこは敢えて深入りせず、私はレンナルト卿の方を向いて「じゃあ、もう領地にお戻りですか?」と話題を変えた。
「ああ。だけど鉱山の調査の件を聞いてからと思ってね。本当は、現地で直接指示を出して貰うのがいいのだろうけど、そうもいかないしね……」
「それは……そうですね」
アルノシュト伯爵領にさえ行ったことがないのに、それはさすがに憚られる。
とは言え、簡単に口頭で説明できる話でもない。
考えた末に、私はレポートの送付をレンナルト卿に提案した。
「商業ギルドを経由すれば、すぐ着きますし……アルノシュト伯爵令息の容態や、これまで分かっていることなんかもまとめてお渡しすれば、地元の方にも説明しやすいんじゃないかと……」
何せこの世界にとっては未知の症状だった公害。
水や作物のひそやかな汚染は、すぐに気付くものではない。
まずは鉱山周辺地域の村々への聞き取りから始めなくてはならないだろう。人手も、派遣費用もそれなりに発生するはずだ。
「ダリアン侯爵家も今回責任がないとは言えない。兄は兄の、私には私の責の果たし方があると、気を引き締めてやるだけのことだ」
ヤーデルード鉱山のケースを調査することは、銀の鉱山との違いを確かめる上でも貴重な機会になることは間違いない。
詐欺に関わってしまった贖罪としての協力でも、それは間違いなく今後の公害を抑える意味で役に立っていくだろう。
「姉上の生まれ育ったところでもあるわけだからね。いずれ二人で来てくれたら嬉しいよ。歓迎する」
その時は「叔父」と呼んでくれたら嬉しい。
レンナルト卿はそう言って、貸し出された簡易型転移装置を片手にこの場を後にした。
「あれは片道用なのよ。いずれ落ち着いたら、また貸し出しがあるでしょうからダリアン侯爵領を一緒に訪れましょうね」
「はい、ぜひ」
どこかの魔王さまの顔が一瞬脳裡に浮かんだものの、きっとそこはエリィ義母様が笑顔で押し勝つんじゃないかと、そんな気がひしひしとしてしまった。
「それじゃあレイナちゃん、帰りましょうか?」
「あっ、私は――」
「え?」
「すみません、王都商業ギルドに行って、国政に関わらない範囲での事情説明に行かないと……」
そもそも、投資詐欺に関する報告は王都商業ギルドから始まっているといってもいい。
ギルドにもギルドの決着のつけ方がある以上は、事の成り行きを何も伝えないというわけにはいかないのだ。
「そう……」
「あ、エリィ義母様は先に戻っていて下さい! これ以上巻き込んだら、私がイル義父様に叱られちゃいます!」
決して大げさなことは言わなかったはずなのに、エリィ義母様は何故か難しい表情を浮かべた。
「ここでレイナちゃんが一緒に帰らないと言うのも、それはそれで宰相閣下の機嫌が悪くなる気がするのだけれど……」
「…………」
聞こえません。
なんにも、聞こえません!
「大丈夫です、ちゃんと護衛もいますから!」
道連れかよ! と、ファルコが小声で叫んだことも無視です。
「そうねぇ……我が家の護衛よりは強いという話だから……まだいいのかしら……」
「はい!」
ハジェスも盛大に顔を痙攣らせている。
「じゃあ、あなたたちお願いするわね?」
「「…………」」
トドメのエリィ義母様の一言に、二人は諦めたように頭を下げた。
そうしてエリィ義母様と別れて、私は王都商業ギルドに向かうことにしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いつも読んでいただいて、エール等有難うございます!
コメントは全て拝見させていただいておりますが、返信はもう少しだけお待ち下さいm(_ _)m
来週はコミカライズ版「聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?」の連載も更新予定です。
併せてよろしくお願い致しますm(_ _)m
2,763
685 忘れじの膝枕 とも連動!
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!
2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!
そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra
今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
書籍刊行記念 書き下ろし番外編小説「森のピクニック」は下記ページ バックナンバー2022年6月欄に掲載中!
2巻刊行記念「オムレツ狂騒曲」は2023年4月のバックナンバーに、3巻刊行記念「星の影響-コクリュシュ-」は2024年3月のバックナンバーに掲載中です!
そして4巻刊行記念「月と白い鳥」はコミックス第1巻と連動!
https://www.regina-books.com/extra
今回から見方が変わりました。何か一話、アルファポリス作品をレンタル頂くことで全てご覧いただけますので宜しくお願いしますm(_ _)m
お気に入りに追加
12,980
あなたにおすすめの小説

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ
青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。
今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。
婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。
その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。
実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。