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第三部 宰相閣下の婚約者
760 貴方のために出来る事
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「ただ、エリィ。少しだけ時間を貰えるかい? 例の会談さえ終わってしまえば、食事くらいは共に出来ると思うんだよ」
罰の一環ではなく、当面デスクで軽食をつまむくらいの余裕しかないだろうと言うのがイル義父様の見解だった。
一応レンナルト卿の手前、三国会談と言う単語は避けているようだ。
「もちろん、私やエドヴァルドは意地でもこの邸宅で夕食をとりたいと思っているけれど、そんな貴重な癒しの時間にユーホルト殿を同席させて空気を悪くしたくはなくてね」
微かに眉根を寄せるレンナルト卿を見たイル義父様は、苦笑交じりに片手を振った。
「ああ、あまり深刻に捉えないでくれ、レンナルト殿。これから数日、嫌でも王宮は激務の只中に放り込まれる。ならば、ほんの少しの時間くらいは最愛の者と時間を共有したいと言うだけのことだ」
「義兄上……」
そんな官吏は王宮内山ほどいるだろうに、エリィ義母様が絡むとイル義父様も大概に鬼畜上等の思考をお持ちだ。
もちろん、多少席を外すことくらいは大目に見ると仄めかすくらいはするだろうけど、縦割り行政の中でそれを実行出来る者がどこまでいるか……なんてことは果てしなく未知数で、イル義父様もきっと口にした後の皆の行動までは関知しないだろう。
結果、他の誰も自宅に帰らない事態になったとしても――だ。
「まあ、お邪魔虫はいらん……くらいに軽く考えておいてくれ」
ははは、と笑っているのはイル義父様だけだ。
うん、だってどう考えてもそれ、本気の発言ですよね。本心が透けて見えてます。
「他人事みたいな顔をしているけれど、私よりもエドヴァルドの方がそう思っているはずだよ、レイナちゃん? 私としても、不可抗力で邸宅が多少冷え込むくらいは想定内にせよ、自ら進んで凍り付かせたいわけではないからね」
多分ユーホルト殿がいたら、キレるよ?
真顔に戻ってそんなことを言われた私は、大袈裟です……なんてことも言えなくなった。
氷柱で国宝級のテーブルにトドメを刺した前科持ちに、フォローが出来るような言葉は出て来なかった。
「……そう言うことでしたら、仕方がないと思いますけれど」
続ける言葉に困った私を見たエリィ義母様が、右の手を自身の頬にあてながら、軽いため息を吐き出した。
そんな仕種でさえ、優雅だ。
「異母弟は、では一度領地へ?」
「そうだね。陛下には小型の簡易式転移装置の使用許可を貰っておくよ。今回は一人で戻って貰うとして、諸々カタが付いた時には、エリィが迎えに行ってあげるといい。侯爵邸の古参の使用人たちとも言葉が交わせるだろうしね」
領主であるユーホルト・ダリアン侯爵も、その異母弟も、今は領地を離れており、本邸の家令が一時的に代行となっている状態となれば、責任者不在の時間は短いに越したことはない。
少なくとも、レンナルト卿が領地に戻ることに関しては、装置使用の許可は下りるとイル義父様は言った。
「もちろん日帰りだよ? 私が王宮で公務をこなしている間に、行って戻って来る――ああ、それならレイナちゃんも一緒でもいいかも知れないね? 鉱山に関わる者たちが罹患するかも知れない病について……より詳しく話が出来るだろうしね」
「え……」
不意に話を振られた私は、思わず目を瞠った。
見ればイル義父様の柔らかい微笑みとぶつかる。
「さっき一応ね、エドヴァルドの許可は取ったんだよ。ウチは宝石となる非金属の鉱物の採取が主流になるけれど、同じことが起きない、あるいは今も起きていない保証はないからね。アルノシュト伯爵領で起きたことの情報共有に関して、レイナちゃんに聞いても構わないか、と」
「イル義父様……」
「私は事の次第を詳しく知るわけではないけれど、恐らくはこの件ではレイナちゃんが一番詳しいんじゃないのかな? 軍神の間ではそんな空気を感じたよ」
「えっ、いやっ、詳しいと言うとかなり語弊が……その、私の居た国で似た症状を聞いたことがあったと言うだけで……」
「だが、その予備知識を元に何とかしようとしているわけなんだろう?」
「それは……そうなんですが……あの、エドヴァルド様はなんと……」
公爵家当主であり、一国の宰相でもあるエドヴァルドが、事ここに至って、情報を出し渋るような為人だとは思わない。
ただそれでも、私が勝手に話していいのかと問われれば、それは絶対に違う。
エドヴァルドが何と答えたのか。
私は聞かずにはいられなかった。
「鉱毒の被害者は、カトル・アルノシュトで最後にしたい――そう言っていたよ。最終的に領政の不備を詰られる結果になったとしても、今以上の被害を生まないことを優先させたい、と」
「!」
「何があったのかまでは詳しく聞けなかったけれど、エドヴァルドはレイナちゃんを矢面に立たせてしまったと、ずっと深い後悔に苛まれているようだった。自分が後ろ指を指されるのは構わないから、可能性があるのならヤーデルード鉱山周辺地域とも情報共有をすればいい、宰相の名でも公爵の名でも使って構わない……とね」
「エドヴァルド様……」
「まあ、アレも大抵のことは一人で出来てしまうから、全てを自分で背負おうとしてしまう傾向が強い」
思わず眉を顰めてしまった私の頭を、イル義父様が解そうとするかのようにポンと叩いた。
「私はね、レイナちゃん。エドヴァルドの背負っているものを少しでも減らしてやれる子が、傍にいてくれればいいとずっと思っていたんだ。政治の裏側を見てもエドヴァルドに嫌悪感を持たない、そんな子がね」
「イル義父様……」
「私にも公爵としての責務がある。全てに手を差し伸べてやることは出来ないし、エドヴァルドもそれを望んではいない。だからこそ誰か――と思っていたんだよ。だけど正直なところ、今まではエドヴァルドの見た目か、公爵夫人の地位かどちらかに目を奪われている令嬢しかいなかった」
コンティオラ公爵令嬢やオルセン侯爵令嬢ではね、とイル義父様は苦笑している。
「だけどレイナちゃんは、あのエドヴァルドをして『矢面に立たせた』と言わしめている。手放したくないと、執着心まで持たせた。だから、ごめん。少し厳しい話になるかも知れないが」
そう言ったイル義父様は、突然こちらに向かって頭を下げてきた。
ギョッとしたのは、私だけじゃなかったはずだ。
だけどそんな周囲の反応に、イル義父様は頓着していなかった。
「夫人はただ、微笑んで隣に立っていればいいと言う家も、実際にはある。私だって、叶うのならばエリィには貴族社会の裏側など見せたいわけでも、渡り歩かせたいわけでもない。だが……少なくとも公爵夫人は、それでは務まらない。これから嫌な面も多く見ていくことになるだろう。それでも……どうか、アイツから離れないでやって欲しい」
「あら、レイナちゃんは自分からドレスや宝石を強請るような子じゃありませんわよ、イル?」
頭を下げるイル義父様に慌てる私とは違い、エリィ義母様は場の空気を和らげようとしたのか、敢えて軽めの口調でイル義父様に話しかけていた。
「うん、まあ……それは見ていて分かるんだけどね」
イル義父様は、困ったように首だけをエリィ義母様の方に傾けている。
「多分アルノシュト伯爵領の銀にまつわる話は、本来、いち令嬢が背負えるような話じゃないんだよ。軍神の間でそれほど詳しく聞けたわけではなかったが、あのエドヴァルドをして後悔をさせているほどだ。それは決して生易しい話じゃないはずだ」
「銀……」
「だけどそれでも、私はレイナちゃんに頼みたい。そこに今以上のどんな話が眠っていようと、エドヴァルドと共にそれを背負ってやって欲しい……とね」
「……イル義父様」
「すまないね、レイナちゃん。綺麗なドレスを着て、夜会やお茶会を開くことを否定はしないが、特にエドヴァルドの隣は、それだけをこなしていて立てる場所だとは、私は思わなくてね」
もちろん、エリィには感謝しているよ? と、イル義父様は片目を閉じている。
夜会やお茶会だけで済む地位ではないのは、イル義父様の隣だって同じに違いないからだ。
決して「淑女の社交」を下に見ているわけではない、とイル義父様は言っている。
ただ、宰相と公爵の責務を兼務するエドヴァルドに、それだけ寄り添っていて欲しいと、イル義父様は願っているだけなのだ。
「情報共有をしよう、レイナちゃん。そして……私、あるいはレンナルト殿から資金でも人手でも、アルノシュト伯爵領のために何か引き出してごらん? フォルシアン公爵領も鉱山を抱えている。アルノシュト伯爵領だけの問題に留まらないと分かれば、貸せる手はあるはずだよ」
「……確かに嫁入り前の淑女への願い事じゃありませんわね」
そう言って眉を顰めているエリィ義母様ではあるけれど、それはあくまで「義母」として、私の代わりにイル義父様を窘めてくれているのだ。
多分エリィ義母様の内心も、イル義父様と同じだろう。
少なくとも、今は。
(何かを引き出す……)
要は鉱毒の研究資金、あるいは人手をダリアン侯爵領から捥ぎ取ってごらん? ――と、イル義父様はそう言っているのか。
アルノシュト伯爵領のため、上に立つエドヴァルドのため、何が出来るのか。
「……ダリアン侯爵領にとっても見過ごせないことと納得いただければ、援助あるいは提携をお願い出来るということなんですね?」
「ダリアン侯爵にとっても、レンナルト殿にとっても、それが充分に今回の件に対する償いになると分かれば、陛下も何も仰らないだろうからね」
私が許可するよ――と、イル義父様は下げていた頭を上げて、微笑んだ。
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一応レンナルト卿の手前、三国会談と言う単語は避けているようだ。
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微かに眉根を寄せるレンナルト卿を見たイル義父様は、苦笑交じりに片手を振った。
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「義兄上……」
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「まあ、お邪魔虫はいらん……くらいに軽く考えておいてくれ」
ははは、と笑っているのはイル義父様だけだ。
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「え……」
不意に話を振られた私は、思わず目を瞠った。
見ればイル義父様の柔らかい微笑みとぶつかる。
「さっき一応ね、エドヴァルドの許可は取ったんだよ。ウチは宝石となる非金属の鉱物の採取が主流になるけれど、同じことが起きない、あるいは今も起きていない保証はないからね。アルノシュト伯爵領で起きたことの情報共有に関して、レイナちゃんに聞いても構わないか、と」
「イル義父様……」
「私は事の次第を詳しく知るわけではないけれど、恐らくはこの件ではレイナちゃんが一番詳しいんじゃないのかな? 軍神の間ではそんな空気を感じたよ」
「えっ、いやっ、詳しいと言うとかなり語弊が……その、私の居た国で似た症状を聞いたことがあったと言うだけで……」
「だが、その予備知識を元に何とかしようとしているわけなんだろう?」
「それは……そうなんですが……あの、エドヴァルド様はなんと……」
公爵家当主であり、一国の宰相でもあるエドヴァルドが、事ここに至って、情報を出し渋るような為人だとは思わない。
ただそれでも、私が勝手に話していいのかと問われれば、それは絶対に違う。
エドヴァルドが何と答えたのか。
私は聞かずにはいられなかった。
「鉱毒の被害者は、カトル・アルノシュトで最後にしたい――そう言っていたよ。最終的に領政の不備を詰られる結果になったとしても、今以上の被害を生まないことを優先させたい、と」
「!」
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「イル義父様……」
「私にも公爵としての責務がある。全てに手を差し伸べてやることは出来ないし、エドヴァルドもそれを望んではいない。だからこそ誰か――と思っていたんだよ。だけど正直なところ、今まではエドヴァルドの見た目か、公爵夫人の地位かどちらかに目を奪われている令嬢しかいなかった」
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「だけどレイナちゃんは、あのエドヴァルドをして『矢面に立たせた』と言わしめている。手放したくないと、執着心まで持たせた。だから、ごめん。少し厳しい話になるかも知れないが」
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だけどそんな周囲の反応に、イル義父様は頓着していなかった。
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「うん、まあ……それは見ていて分かるんだけどね」
イル義父様は、困ったように首だけをエリィ義母様の方に傾けている。
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「銀……」
「だけどそれでも、私はレイナちゃんに頼みたい。そこに今以上のどんな話が眠っていようと、エドヴァルドと共にそれを背負ってやって欲しい……とね」
「……イル義父様」
「すまないね、レイナちゃん。綺麗なドレスを着て、夜会やお茶会を開くことを否定はしないが、特にエドヴァルドの隣は、それだけをこなしていて立てる場所だとは、私は思わなくてね」
もちろん、エリィには感謝しているよ? と、イル義父様は片目を閉じている。
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「……確かに嫁入り前の淑女への願い事じゃありませんわね」
そう言って眉を顰めているエリィ義母様ではあるけれど、それはあくまで「義母」として、私の代わりにイル義父様を窘めてくれているのだ。
多分エリィ義母様の内心も、イル義父様と同じだろう。
少なくとも、今は。
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要は鉱毒の研究資金、あるいは人手をダリアン侯爵領から捥ぎ取ってごらん? ――と、イル義父様はそう言っているのか。
アルノシュト伯爵領のため、上に立つエドヴァルドのため、何が出来るのか。
「……ダリアン侯爵領にとっても見過ごせないことと納得いただければ、援助あるいは提携をお願い出来るということなんですね?」
「ダリアン侯爵にとっても、レンナルト殿にとっても、それが充分に今回の件に対する償いになると分かれば、陛下も何も仰らないだろうからね」
私が許可するよ――と、イル義父様は下げていた頭を上げて、微笑んだ。
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