聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

756 その鳥は戯れる

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 ある程度の食事が終わったとは言え、イル義父様がエリィ義母様とダリアン侯爵の弟さんを連れて来るはずで、帰るに帰れない。

 かと言って、ここでリファちゃん用の虫は広げられないよなー……と思っていると、トーカレヴァが思いがけないモノを手元に乗せて、こちらに差し出してきた。

「レヴ、それは?」
「ここまでくると、魔道具と言うよりタダの玩具なんですが」

 それは小さなラタンにも似たボールで、上側少しだけ穴が開いた状態で、覗き込んでみたら植物の種やら木の実の砕いたモノやらが中に詰められていた。

「テーブルの上を転がすと、位置によってエサが出てくる仕組みです。嘴で摘まむ時に研ぎの役割も持たせられるとかで、本来は鳥類全般の暇つぶしの玩具みたいなモノらしいんですが」

 何でも手紙を運ぶ魔道具を開発した友人とはまた別の管理部の人間が、純粋に「鳥用玩具」として作ってプレゼントしてくれたらしい。

 ギーレンからの移民二世とかで、その父親は多種多様な植物を使って工芸品を作ったりしていたらしく、技術はしっかりと受け継いでいたということなんだろう。

「リファちゃん大人気……」

 手紙を運ぼうと運ぶまいと、普通に管理部の中でもアイドルと化してやしないだろうか。

「まあ、口で言うよりも見た方が早いと思いますが」

 そう言ったトーカレヴァが、小さなラタンボールをテーブルの上にコトリと置いた。

「!」

 その途端、とてて……と小さな足で走り寄ってきたリファちゃんが、籐製のボールをかじったり、嘴で摘まんで投げたり、それを追いかけたり――と、テンション爆上がりの一人遊びを目の前でしはじめた。

 しかも時折エサが零れ落ちるのだから、玩具としては相当に優秀だ。

「か……」
「か?」

 何か聞き逃したかと、こちらを向いたトーカレヴァに、私とシャルリーヌの叫びがキレイにハモった。

「「カワイイ――っ‼︎」」
「⁉︎」

 何コレ、何コレ、問答無用にカワイイよ、リファちゃん‼︎
 言葉にならなかった私のテンションを察したシャルリーヌも、ぶんぶんと首を縦に振っている。

「そっか、そっか、コレでリファちゃんのキック力も鍛えられてるのかぁ……!」

「いやいやいや!」

 そんなワケないでしょう! と、トーカレヴァは片手を横に振っているけれど、アレで嘴どころか足の爪のメンテナンスだってされているだろうから、あながち間違いではないはずだ。

「管理部、ホントになんでもアリなんだね!」

 と言うか、普通に手先が器用な人間が集まっているんだろうな、と感心してしまう。

「レヴ、これ私も1個欲しい!」
「……見せれば、言うと思いましたよ……」

 今度リファちゃんがイデオン邸なりフォルシアン邸なりに来たら、絶対にコレで遊ぼう!
 そう決意して思わず拳を握った私に、トーカレヴァは苦笑していた。

「まあ、今は管理部もそれどころじゃないんで、しばらくかかるとは思いますよ」

「そうなのよねー……」

 国王陛下フィルバートの魔剣(笑)の再調整やら、全自動お掃除ロボと化した害獣除けの罠の効果のほどを検証したりするのやらがもちろん先だろうから、たとえ小ぶりでも、鳥用玩具にすぎないランタンボールの存在は後回しにされる可能性が大だ。

「それまでは時々レヴに借りるわ」
「仕方ないですね……」

 リファちゃんに関しては、もはや私にあれこれ言うことは諦めた。
 トーカレヴァの声も表情も、そんな感じだ。

 いいの、可愛いは正義!

 内心でそう声を上げていると、ちょうどそのタイミングで入口の扉がノックされた。

「……レイナ様、フォルシアン公爵閣下がいらしてますね」

 より、扉に近い位置にいたノーイェルが、半開きの扉の向こうを確認しながらそう告げてくる。

「え、イル義父様? 一人で?」

「いえ、夫人ともう一人……先ほど、ダリアン侯爵の弟君と紹介を受けていらした方がご一緒のようです」

 なるほど、イル義父様が「行ければ行く」的な曖昧な表現に留めていたのは正しかったんだろう。

 ダリアン侯爵自身は解放されず、エドヴァルドは宰相としてその場に残らざるを得ず、何とかイル義父様がエリィ義母様とその異母弟おとうとであるレンナルト卿を連れて、一時的に席を外して来たと言うことか。

 頷いた私の仕種に合わせるように、ノーイェルが半開きだった扉を大きく開けて、外の三人を中へと促した。

 それと同時にトーカレヴァが、リファちゃんをサッと肩に乗せて、部屋の隅へと引き下がった。

 私もシャルリーヌも、ちょっと残念な表情になっていたかも知れないけれど、何とかそれは悟られまいと、イル義父様の方へと向き直った。

「やあ、レイナちゃん。疲れているだろうところ、すまないね。エリィとレンナルト殿にもどのみち事情の説明は必要だから、この際一度で済ませてしまおうかと思ってね」

 そう言って誓約ヴァールの間に入って来たイル義父様の表情かおは、当然と言うべきか、疲労の色が色濃く滲み出ていた。

「あの……イル義父様、エドヴァルド様は……?」

 イル義父様の口調から、公的なものでなくともいいと判断した私も、敢えて「エドヴァルド様」と尋ねることにした。

 少なくともそれで、後ろに立つレンナルト・ダリアン卿には、私とエドヴァルドのがそれなりに伝わると思ったからだ。

「ああ……」

 チラ、とレンナルトに視線を投げたイル義父様も、すぐにそのことは察してくれたようだった。

 口調を糺すよう注意してくることはしない。

「私達と入れ違いに、カプート子爵とフラーヴェク子爵を連れて、後で来ることになると思うよ。今は軍神デュールの間は、すぐに来れる部署の長官を呼んで事情聴取と対応を協議しているところだ。軍務・刑務ウチは貴族牢の連中の処置のこともあって、長官のシクステンも手が離せないようだから、後回し。その間に、エリィとレンナルト殿にも説明をしておこう……となった訳さ」

 公安のロイヴァス・ヘルマン長官と、財務のアダム・ブレヴァル長官がどうやら今は軍神デュールの間に呼ばれているらしい。

「ヘルマン長官発狂してそうですね……」
「いやいや、今回は誰だって発狂すると思うよ」

 私の呟きに、イル義父様はそう言って苦笑いを浮かべている。

「ところで二人とも〝ジェイ〟づくしの料理は充分堪能出来たのかな?」

「あっ、はい、それはもう! ですけど、イル義父様たちの分は……」

 コティペルト支配人に言えば、まだ用意して貰えるのだろうかと腰を浮かしかけた私に「ああ、いい、いい!」と、イル義父様が片手を振ってそれを制した。

「エリィとレンナルト殿にも、陛下名義で多少の給仕はあったようだからね。私の執務室で、少しは口にしていたみたいだから、レイナちゃんは気を遣わずとも大丈夫だよ」

 そうか、もともとが茶会向けの食べやすい料理がほとんどだったのだから、ついでにイル義父様の執務室にもお裾分けしておくことくらいは、すぐに対応できたんだろう。

「さすがに飲み物は用意して貰おうかと思っていたけれどね」

 そう言って部屋を見渡した先に、コティペルト支配人の姿を認めて軽く頷いている。

 アイコンタクト、と言って良いだろう。
 コティペルト支配人も、それに合わせて「承知しました」とばかりの優雅な一礼を見せた。
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